第13話 エネルギー回復ポーション。
「あ"ぁ‥‥ようやく体が動く。」
ベッドの上でゆっくりと上体を起こし、肩や腕を軽く動かして体の調子を確かめると、まだ全身には重い倦怠感が残っているが、それでも数回は力を使えるだけのエネルギーが回復していた。
「これでエネルギーポーションの検証が出来るな。」
「だね!!」
凪の元気な返事を聞きながら、俺は早速どうやってエネルギーポーションを作るのか考え始める。
怪我を治すポーションに関しては、傷が治るところをそのまま頭の中で思い描くだけで作ることが出来た。
だが、今回作ろうとしているのはエネルギーを回復させるポーションだ。そもそもエネルギーというものが具体的に何なのかすら分かっていない以上、どういうイメージを持てばいいのかも分からない。
そこで俺は、今の自分でも思い浮かべられそうなものをいくつかのパターンに分けて考えてみることにした。
パターン1
『自分の万全な状態をイメージする』
パターン2
『漫画で見るような魔力をイメージする』
パターン3
『マラソンや運動をした後の肉体的疲労を回復するイメージを持つ。要は、体力の回復だな』
ひとまず思いついたのは、この三つだ。
このうちどれか一つでも当たりがあれば万々歳で、全て失敗した場合は別の方法を考えて明日もう一度検証する。それでも無理なら、少なくとも今の俺には作れないものとして一旦諦めて、外に出るための準備を本格的に進めるつもりだ。
要するに、こうして落ち着いて検証に時間を使えるのは今日と明日だけ。それ以上ここに籠もり続けるのは、残っている食料を考えてもかなり厳しい。
「よし!!始めるぞ。」
「うん!!頑張ってね。」
凪の声を背中に受けながら、俺は目を閉じて自分が万全だった時の状態を思い浮かべる。
体に重さも疲労もなく、いくらでも動けそうな感覚を出来る限り鮮明にイメージしながら力を行使すると、手元に置いていたキャップの中に僅かな液体が生成された。
「凪!!頼めるか?」
「任せて。」
凪は迷うことなくキャップを手に取ると、透明な液体を少しだけ見つめてから口元へ運び、そのまま一気に飲み干した。
「‥‥どうだ?回復してるか?」
俺が期待を込めて尋ねると、凪は自分の体の変化を確かめるように腕を動かしたり手を握ったりしていたが、やがて小さく首を横に振った。
「そうか‥‥ダメか。なら次だ。」
落ち込んでいても仕方がないので、すぐに頭を切り替えてパターン2を試す。
漫画やゲームで見るような魔力を頭の中に思い描き、それが体の中へ補充されていくイメージを作って力を行使したのだが、今度はキャップの中に一滴の液体すら生成されなかった。
「これも失敗だな。じゃあ次だ。」
残るはパターン3。
運動をした後の疲れ切った体が元気になり、失った体力が戻っていく様子を出来る限り具体的に思い浮かべながら力を行使すると、今度はパターン2とは違ってキャップの底にポーションが生成された。
液体が現れたことを確認した俺は、期待を抱きながらキャップを凪へと差し出す。
「――ゴクン。」
凪は受け取ったポーションを一口で飲み干すと、そのまま数秒ほど黙って体の変化を確かめる。しかし、しばらく待っても何かが変わった様子はなく、俺と目が合った凪は静かに首を横に振った。
「‥‥ダメか。やっぱりそう簡単には作れないよな。」
「でも、怪我を治せるだけでも十分‥‥凄いことだからね!!そんな落ち込まないで。」
凪が励ましてくれるが、期待していた分だけ落胆も大きく、すぐには気持ちを切り替えられそうになかった。
とはいえ、諦めたわけではない。頭の中は既にポーションのことで一杯になっていて、何か別の方法はないか、今までの検証で見落としている部分はないかと考え続けている。
しかし、どれだけ考えても新しい案が浮かんでこない以上、一人で考え続けても同じところを堂々巡りするだけだ。
そう判断した俺は、自分とは違う視点を持っている凪に意見を求めることにした。
「なぁ‥‥凪。何か考えはないか?別の可能性とか?何か見落としているとかさぁ、何でもいいからヒントが欲しい。」
「うーーーん‥‥そうだね。本当にエネルギーを回復出来るポーションを作れると仮定するなら‥‥うーーーん‥‥あっ!!」
しばらく腕を組んで悩んでいた凪が、突然何かを思いついたように顔を上げ、そのまま勢いよく俺の方へ身を乗り出した。
「お兄ちゃん!!もしかしてだけど‥‥量が足りないんじゃないの?」
「量?それはポーションの量か?」
「そう。よくよく考えてみれば少量のエネルギー回復ポーションだと得られる効力も少ないでしょ?より多くの回復を得たいなら、その分だけのポーションが必要になるんじゃない?」
その言葉を聞いた瞬間、それまで沈んでいた意識が一気に浮上し、俺は反射的に体を起こして凪を見る。
確かに今まで作っていたポーションは、全てキャップに収まる程度の僅かな量しかなかった。
怪我を治す場合なら少量でも目に見える変化が現れるから効果を確認出来たが、体力やエネルギーの回復となれば話は違う。もし回復量そのものが飲んだポーションの量に左右されるのなら、ほんの僅かに回復していたとしても俺達がその変化に気付けていなかった可能性は十分にある。
「確かにな!!ポーションの量が少なかったから、エネルギーの回復量も少なかった。だから、量を増やせば効力に気付けるぐらいの回復ポーションが作れるってわけか。」
「でも、具体的な量はどうする?コップの半分とかかなぁ?」
「そうだな。それぐらいの量が必要なのかもな!!」
まだ仮説に過ぎないし、本当に量を増やすだけで効果が現れるという保証もない。それでも完全に手詰まりだと思っていたところに新しい可能性が見えたことで、先程までの落ち込みは綺麗に吹き飛んでいた。
「じゃあ、今から試すか?」
「今からは無理だよ。だって、今のお兄ちゃんにはコップ半分のポーションを作れるだけのエネルギーは残ってないでしょ?」
凪に言われて、今にも力を使おうとしていた俺の動きが止まる。
‥‥あっ、そうだった。さっきのが今日の最後のエネルギーだった。




