第59話 私の答えは、少しずるい答えです
昨夜。
五人全員からの、不器用で、真剣で、とても温かい想いを受け取った私は、結局一睡もできないまま朝を迎えていました。
窓の外が白み始める中、私はベッドの上に座り、ギュッと膝を抱えていました。
誰か一人を、選ばなければいけない。
そう思って、五人の顔を何度も何度も思い浮かべました。
でも、答えは出ませんでした。
ううん、違う。私の心の中には、最初から一つの答えしかなかったのです。
私は意を決して立ち上がり、エプロンを締めて、食堂へと向かいました。
* * *
「皆さん、おはようございます」
私が食堂に入ると、そこにはすでに五人の騎士たちが揃っていました。
いつもなら「腹減った」「今日の朝ごはんは何ですか」と騒がしいはずの彼らが、今日は全員、彫像のようにガチガチに緊張して固まっています。
彼らは、私が一晩中悩み抜いた顔をしていることに気づき、静かに私の言葉を待ってくれました。
私は、テーブルの前に立ち、五人をゆっくりと見渡しました。
「……昨日は、本当にありがとうございました。皆さんの気持ち、すごく、すごく嬉しかったです」
私は、胸の前で手を組み、深く息を吸い込みました。
「私は、誰か一人を選ぼうとして、皆さんの顔を何度も思い浮かべました。……でも、できなかったんです」
私の言葉に、五人の肩がピクッと反応しました。
「ルーカスさんの、太陽みたいな笑顔に何度も救われました。セオドアさんの、不器用なほどに真面目な優しさに支えられました。カイルくんの、素直になれない温かさにホッとしました。ノエルくんの、真っ直ぐな成長が私の誇りです。ジンさんの、静かで強い言葉に背中を押してもらいました」
彼らが私にくれたもの。
それは、どれか一つを選んで、他を切り捨てられるような軽いものではありません。
「ここから誰か一人を切り取ったら……私の『我が家』は、もう完成しないんです」
私は、前世で『選ばれない恐怖』に怯えていた自分を思い出しました。
でも、今の私は、自分で自分の居場所を選ぶことができます。
「だから……私は、ずるい女になります」
私は、真っ直ぐに顔を上げ、彼らの目をしっかりと見つめ返しました。
「皆さん全員を、選ばせてください。……私はこれからも、この第七分隊の寮母として、皆さん全員の帰る場所を、一番側で支えさせてください」
誰か一人の妻になるのではなく、全員の寮母として、この居場所を守り続ける。
それが、私が悩みに悩み抜いて出した、一番ずるくて、一番誠実な答えでした。
静まり返った食堂。
私のわがままな答えを聞いた五人は、数秒の沈黙の後。
「……ははっ! やっぱり、かすみさんはそう来なくちゃ!」
ルーカスさんが、堪えきれないといった様子で、パァッと世界を照らすように破顔しました。
「……論理的に考えて、我々全員が同時に振られたということか。いや、全員に未来永劫のチャンスが与えられたと解釈すべきですね」
セオドアさんが、少し赤くなった目元を隠すように、スッと銀縁眼鏡を押し上げます。
「ちっ……しょーがねぇな。アンタがそう言うなら、付き合ってやるよ」
カイルくんが、舌打ちをしながらも、嬉しそうに口角を釣り上げて笑いました。
「やったぁ! お姉ちゃ……ううん、香澄さん、ずっと一緒だよ!」
ノエルくんが、椅子から立ち上がって満面の笑みで万歳をします。
そして。
「……ずっと、側にいる」
ジンさんが、私の目を見て、今日初めて、はっきりと分かるくらいに優しく笑ってくれました。
誰一人として、怒ったり、悲しんだりする人はいませんでした。
彼らは皆、私が『誰か一人を選ばないこと』を、心から尊重し、受け入れてくれたのです。
「覚悟してくださいね、かすみさん」
ルーカスさんが、私に向かって一歩歩み寄り、最高の笑顔で宣言しました。
「これから毎日、俺たち全員で、かすみさんを惚れさせますから」
「ふふっ……はい。楽しみにしています」
私たちが、温かくて甘い余韻の中で微笑み合っていた、その時でした。
「あらあら、朝からずいぶんと賑やかじゃない」
コツ、コツ、とヒールの音を響かせて、王宮人事官のマチルダさんが食堂に現れました。
彼女の手には、王室の蝋印が押された立派な封筒が握られています。
「マチルダさん、おはようございます。それは……?」
「香澄。今度は国王陛下から、第七分隊全員に新しい辞令が出されたわよ」
マチルダさんは、ニヤリと意味深な笑みを浮かべて、その封筒をヒラヒラと揺らしました。
「王国を救った英雄たちに、陛下からの特例措置。……なんと、第七分隊全員に、一ヶ月の『長期休暇』が与えられたわ!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
私たち全員の驚きの声が、朝の食堂に響き渡りました。
私たちが選び取った新しい関係と、甘くて騒がしい日常は、いよいよ最高潮の結末へと向かっていくのでした。




