第58話 告白ラッシュ
セオドアさんからの、五十年にわたる壮大な人生計画の告白。
その驚きと感動も冷めやらぬまま、私に向けられた『告白ラッシュ』は、まだ終わりませんでした。
翌日の午前中。
「おい、ちょっと屋上まで来い」
不機嫌そうに私を呼び出したのは、宮廷魔導師トップであるカイルくんでした。
彼に連れられて寮の屋上に出ると、カイルくんは大きく息を吸い込み、パチンッと指を鳴らしました。
その瞬間。
午前中の明るい青空が、彼の放った強烈な魔力の炎によって、一面の美しい夕焼け色に染め上げられたのです。
「えっ……!?」
私が驚いて空を見上げていると、その夕焼け空をキャンバスにして、紫色の炎が巨大な文字を描き出しました。
『 KASUMI, BE MINE 』
王都中の通行人たちが、突然の空の異変と巨大なメッセージを見上げて、ワァッと歓声を上げているのが下から聞こえてきます。
「カ、カイルくん、これ……!」
「……ちっ、柄じゃねぇのは分かってるよ。でも、これくらいやらねぇと、あの馬鹿隊長や堅物メガネに負けちまいそうだからな」
カイルくんは、耳まで真っ赤にしながら、そっぽを向いて頭をガシガシと掻きました。
「俺は、素直じゃねぇし、口も悪い。……けどな」
彼は、照れ隠しの態度をスッと引っ込め、真剣な赤い瞳で私を見下ろしました。
「アンタが俺の隣で笑ってる未来しか、もう想像できねぇんだよ。……俺のモンになれ、香澄」
あまりにも派手で、彼らしい真っ直ぐなツンデレの告白に、私はポカンとした後、嬉しくてクスッと笑ってしまいました。
* * *
そして、同じ日の午後。
「香澄さん。今、いいですか」
居間で洗濯物を畳んでいた私の前に現れたのは、ノエルくんでした。
振り返った私は、思わず目を丸くしました。
彼は、神殿時代からずっと身につけていた白い法衣を脱ぎ捨てていました。
代わりに着ていたのは、仕立ての良い、大人びた濃紺の私服です。
いつも私に甘えていた『可愛い末っ子』の気配は消え、そこには一人の凛々しい青年の姿がありました。
「ノエルくん、その服……」
「僕、もう『お姉ちゃん』って呼ぶの、やめます」
ノエルくんは、私の正面に立ち、両手で私の手をキュッと握りしめました。
「あの暗い神殿から僕を救い出してくれて、生きる温かさを教えてくれたあなたを……ひとりの女性として、好きです」
彼の桜色の瞳には、もう過去への恐怖も、庇護を求める弱さもありません。
「今はまだ、僕の方が年下で、頼りないかもしれない。……だから、五年待ってください」
ノエルくんは、私を見上げて、男らしく微笑みました。
「絶対に、あなたに釣り合う、一番かっこいい男になりますから」
過去を脱ぎ捨て、未来への成長を誓うその力強い言葉に、私は思わず胸がいっぱいになり、優しく頷き返すことしかできませんでした。
* * *
そして、夜。
皆が寝静まった頃、私はジンさんに手を引かれ、寮の屋根の上へと登っていました。
夜風が心地よく吹き抜け、頭上には満天の星空が広がっています。
「ジンさん、星が綺麗ですね」
私が隣に座る彼に微笑みかけると、ジンさんは無言で、夜空の一番明るい星を指差しました。
「……かすみ」
「はい」
「……俺の、光でいろ」
「……っ」
「…………それだけだ」
彼から紡がれたのは、本当にそれだけの、極端に短い言葉でした。
飾り気のない、寡黙な彼らしい、不器用な告白。
けれど、屋根の上でそっと重ねられた彼の手は、私の手を壊れ物のように大切に握りしめ、微かに、けれどはっきりと震えていました。
誰よりも孤独な暗闇の中で生きてきた彼が、不眠症に苦しんできた彼が。
私という存在を、自分を照らす唯一の光だと、全身全霊で求めてくれている。
その震える手の温もりが、どんなに長い愛の言葉よりも雄弁に、彼の深い愛情を物語っていました。
「……はい、ジンさん」
私は、彼の震える手を両手で包み込み、星空の下で静かに微笑みました。
* * *
その日の深夜。
私は自室のベッドの中で、一人、暗い天井を見つめて考え込んでいました。
ルーカスさんの、ひざまずいての王道なプロポーズ。
セオドアさんの、五十年にわたる完璧な人生計画。
カイルくんの、空を染め上げる派手で熱い言葉。
ノエルくんの、過去を脱ぎ捨てた成長の誓い。
ジンさんの、暗闇の中で光を求める震える手。
五人全員が、本気で、それぞれの覚悟を持って、私に想いを伝えてくれました。
誰の愛も、重くて、温かくて、私にとっては身に余るほどに尊いものでした。
(私は、どう答えればいい……?)
明日、彼らに私の答えを出さなければなりません。
胸の鼓動が高鳴る中、私は自分の心の一番奥底と、静かに向き合い続けていました。




