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夫に捨てられた専業主婦ですが、異世界騎士団の寮母になったらイケメン達が全員ダメ男でした  作者: 他力本願寺


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第51話 叙勲式のドレスは、五人の色が縫い込まれていました

王宮の奥に用意された、豪奢な控室(ひかえしつ)

私は全身が映る大きな鏡の前に立ち、そこに映る自分の姿に、信じられない思いで小さく息を呑んでいました。


私の身を包んでいるのは、肌に吸い付くように滑らかで、上品な光沢を放つ琥珀色のシルクドレスです。

背筋が自然と伸びるような美しい仕立てで、私のような平民が着るにはあまりにも贅沢な一着でした。


「本当に、私なんかがこんなに素敵なドレスを着ていいんでしょうか……。なんだか、夢を見ているみたいで」

「何言ってるのよ。今日の主役はあなたなのよ。堂々としていなさい」

私の髪を丁寧に結い上げながら、王宮人事官のマチルダさんがふふっと笑いました。


「それにしても、あの第七分隊の連中もやるわよね。……そのドレスの裾と袖口の刺繍、気づいてる?」

「え……?」


マチルダさんに言われて手元と足元に目を落とすと、琥珀色の生地に溶け込むように、極めて繊細な五色の糸で、美しい花や蔦の模様が刺繍されていることに気がつきました。


ルーカスさんの瞳のような黄金色。

セオドアさんの髪のような銀色。

カイルくんの炎のような真紅。

ノエルくんの魔力のような桜色。

そして、ジンさんの装束のような漆黒。


「あいつら、あなたに内緒で一週間も徹夜して、王都で一番の刺繍職人と打ち合わせを重ねてたのよ。『俺たちの色を、絶対に美しく縫い込んでくれ』ってね」


マチルダさんの暴露(ばくろ)に、私は思わず目頭が熱くなりました。

私が一人で王宮の舞台に立つ時でも、決して寂しくないように。彼らの加護と愛情が、このドレスにはたっぷりと込められていたのです。


コンコン、と控えめなノックの音がして、扉が開きました。


「香澄さん、お迎えに……っ」

顔を出したのは、正装に身を包んだノエルくんでした。彼は私を見た瞬間、顔を真っ赤にして口元を両手で覆いました。

「すごく、綺麗です……。僕、もう『お姉ちゃん』って呼ぶの、本当にやめます。あなたに相応しい、かっこいい男になるって決めたから」

少し照れくさそうに、でも昨日の裁定会で見せたような真っ直ぐな瞳で宣言する彼に、私は嬉しくなって微笑みました。


「おいノエル、抜け駆けは許さないって言っただろ」

続いて入ってきたのは、純白の儀礼用軍服(ぎれいようぐんぷく)を纏ったルーカスさんでした。

彼は息を呑んで私の姿を見つめた後、スッと私の前に進み出ました。そして、騎士の最敬礼をとるように片膝をつき、私の手をそっと取りました。

「かすみさん。あなたは今日、間違いなく世界一美しいです。……この後の舞踏会で、俺に最初のダンスを踊らせてくれませんか?」

彼特有の、周りをパッと明るくするような太陽の笑顔に、私は少し頬を染めながら「はい」と頷きました。


控室を出て、大広間へと続く長い廊下を歩いていると、壁際で待っていたセオドアさんが静かに近づいてきました。

彼は私の髪に、スッと冷たい銀色の髪飾りを挿してくれました。

「……論理的に考えて、君の今日の装いには、この装飾の配置が黄金比だ。完璧な美しさだよ、香澄」

銀縁眼鏡の奥の瞳が、いつもよりずっと優しく、私を慈しむように細められていました。


そして、大広間の重厚な扉が開かれました。


何百人もの貴族や騎士たちが見守る中、私は国王アルベルト陛下の御前へと堂々と進み出ました。

「第七分隊寮母、香澄よ。そなたの献身と、王国を救ったその見事な生活管理の功績を称え、ここに『王国生活功労章おうこくせいかつこうろうしょう』を授与する」

私の胸元に、国王陛下ご自身の手で、光り輝く美しい勲章がつけられました。

大広間は、割れんばかりの万雷の拍手に包まれました。


見下されていた家事が、国に認められた瞬間。

私は誇らしさで胸を張り、私を見守ってくれている家族たちの方を振り返って、最高の笑顔を向けました。


* * *


厳かな叙勲式(じょくんしき)が終わり、祝勝の舞踏会が最高潮を迎える中 [cite: 343]。

私は少しだけ人の熱気を避けるため、夜風に当たろうと中庭へと出ました。


「……こんなとこにいたのかよ」

夜の闇の中から、不機嫌そうにカイルくんが現れました。

彼は私の手を取ると、ツンと顔を背けたまま、私の手の甲に熱いキスを落としました。

「ふ、ふん。べ、別に似合ってるとか、そういうことじゃねぇからな。……ただ、今夜は俺以外の奴を見るなよ」

不器用すぎる彼の言葉と、耳まで真っ赤になっている様子に、私は思わずクスッと笑ってしまいました。


「カイルくんったら……」

彼が足早に去っていった後、夜風が少し冷たく感じて私が肩をすくめると。

ふわりと、背後から大きくて温かい漆黒の上着が掛けられました。

音もなく背後の屋上の縁に立っていたジンさんが、私を寒さから守るように、無言で自分の上着を羽織らせてくれたのです。

「ジンさん、ありがとうございます。温かいです」

私の言葉に、ジンさんはただ静かに頷き、私から離れようとしませんでした。


五人の優しさと愛に包まれ、私は夢のような甘い時間を過ごしていました。

この幸せな日常が、これからもずっと続いていくのだと、そう信じて疑っていませんでした。


しかし──。


ガァァァァァァァンッ!!


突如として、王城の夜空を切り裂くように、けたたましい警鐘が鳴り響きました 。


「なんだ!? 何事だ!!」

舞踏会の音楽が止まり、大広間がパニックに陥る中、血相を変えた伝令の騎士が飛び込んできました。


「き、緊急事態です!! 王都郊外の地平線に、巨大な紫色の渦が出現……っ! 王国史上最大規模の、魔物溜まりが発生しました!!」


窓の外を見ると、遠くの空が、不吉な紫色に染まっていました]。

幸せの絶頂から一転、私たちはかつてない最大の危機へと直面することになったのです。

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