表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫に捨てられた専業主婦ですが、異世界騎士団の寮母になったらイケメン達が全員ダメ男でした  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/60

第50話 国王陛下が、家事を国防と認めました

静まり返った王宮の大広間(おおひろま)に、国王アルベルト陛下の、低く重圧のある声が響き渡りました。


「……神殿上層部による王印の偽造(ぎぞう)、ならびに特級回復術師の不当な人身売買的運用。そして、それに加担したヴァルトハイム侯爵家(こうしゃくけ)。すべての証拠は揃った」


陛下は、セオドアさんたちが提出した書類の束からゆっくりと顔を上げ、罪人たちを冷徹に見下ろしました。


「神殿の使者たちを直ちに捕縛せよ。過去三十年にわたるすべての命令書を再調査し、不正に関わった者は一人残らず極刑とする。……また、ノエル・シルヴァーレインの神殿籍は完全に抹消(まっしょう)し、第七分隊への正式な所属を認める」


「あぁ……っ、そんな……」

「お助けを、陛下! どうか、どうかお慈悲を……!」


泣き叫ぶ神殿の使者たちが、近衛騎士たちに両脇を抱えられ、無様に引きずり出されていきます。


「ヴァルトハイム侯爵。貴殿の爵位は本日をもって剥奪(はくだつ)し、領地の半分を王家直轄とする」


陛下の無慈悲な宣告に、侯爵はその場に崩れ落ち、泡を吹いて気を失ってしまいました。


「そ、そんな……嘘よ、嘘ですわ! 私が、こんな……っ」

扇を握り潰し、床にへたり込んでいたクラリッサ様は、現実を直視できずに首を横に振り続けています。


「クラリッサ・ヴァルトハイム。そなたには、地方の修道院(しゅうどういん)での生涯の奉仕を命ずる。……二度と、王都の土を踏むことは許さぬ」


それは、貴族社会において、処刑に等しい『社会的な死』の宣告でした。

彼女は絶望のあまり声を上げることもできず、虚ろな目のまま、騎士たちに連行されていきました。

私を見下し、踏みにじろうとした悪意は、こうして完全に粛清(しゅくせい)されたのです。


「さて。……第七分隊の寮母、香澄とやら。前へ」


罪人たちが退場し、少しだけ空気が澄んだ大広間で。

国王陛下が、今度は穏やかな、けれど威厳に満ちた声で私を呼びました。


「は、はいっ」


私は緊張で肩を震わせながら、一歩前に出ました。

私のすぐ後ろでは、五人の騎士たちが、私の背中を守るように温かく見守ってくれています。


「第七分隊の目覚ましい戦績の向上。そして、今回の神殿の腐敗を暴くに至った彼らの結束力。……その中心には、常にそなたの存在があったと聞く。そなたは、彼らにどのような魔法をかけたのだ?」


国王陛下の問いかけに、私は大きく深呼吸をしました。

もう、俯く必要はありません。

私は、自分のやってきたことに、絶対の誇りを持っているからです。


「……私は、魔法なんて使えません。ただの寮母です。毎日、温かいご飯を作って、寮を清潔に保ち、彼らの帰りを待っていただけです」


私は、震える手を胸の前でぎゅっと握りしめ、言葉を紡ぎました。


「家事は、ただの雑用(ざつよう)ではありません。食べること、眠ること、清潔でいること。笑うこと、休むこと、誰かに『おかえり』と言ってもらえること」


大広間にいるすべての貴族たちが、私の言葉に静かに耳を傾けています。


「それは、戦う人たちが明日も生きて帰るための、何よりも大切な土台です。……私は、私の仕事を誇りに思います」


言い切った私の言葉が、静かな議場に凛と響き渡りました。


前世で、元夫から『家事しかできない無能』と見下され続けてきた私。

でも、私のやってきたことは、無価値なんかじゃなかった。

誰かの命を繋ぎ、心を救う、立派な『力』だったのです。


「……見事な覚悟だ」


国王陛下は、満足そうに深く頷かれました。


「剣を振るうことだけが戦いではない。兵たちの心身を支える『日々の生活の管理』こそが、王国を救うのだ。……そなたのその労働は、国防に等しい価値がある」


国防。

その言葉の重みに、私は思わず涙が溢れそうになりました。


「香澄よ。そなたの功績を称え、我が国最高の栄誉である『王国生活功労章おうこくせいかつこうろうしょう』を授与する。さらに、王宮家政部門の特別顧問として、直属で迎え入れたいのだが……どうだろうか?」


大広間が、どよめきに包まれます。

平民が、王宮の特別顧問に抜擢されるなど、建国以来の異例の事態です。

しかし。


「もったいないお言葉、心より感謝申し上げます」


私は、深く頭を下げてから、後ろにいる五人の顔を振り返りました。

彼らは皆、少しだけ不安そうに、けれど私の決断を信じて見つめてくれています。


「ですが、特別顧問のお話は、どうか辞退させてください。……私の本職は、第七分隊の寮母ですから」


私の答えに、国王陛下は一瞬驚いたように目を見開き、やがて愉快そうに大声を上げて笑われました。

五人の騎士たちも、心底ホッとしたように、パァッと顔を輝かせています。


「はははっ! そうか、そうか。王国最高の騎士たちは、なんとも幸せ者だな。……よかろう、そなたの好きにするがいい!」


こうして。

私を裁くはずだった公開裁定は、私という存在と、家事という労働の価値が、国境を越えて歴史的に大絶賛される場となったのです。


* * *


重い扉が開き、大広間から廊下へと出た、その瞬間でした。


「──先生、おめでとうございます!!」


「えっ……?」


王宮の長い廊下の両脇に。

かつて私が、第七分隊の寮で『家事の本当の価値』を教えた、あの他分隊の新兵たちが、ズラリと一列に並んで待っていました。


数十人の若き騎士たちが、バサッ!と一糸乱れぬ動きで、私に向かって深く、最敬礼の姿勢をとったのです。


「あ、あなたたち……」


「先生の教えのおかげで、俺たちも立派な騎士になれます! 本当に、ありがとうございました!」


彼らの真っ直ぐな尊敬の眼差しに、私はついに堪えきれず、両手で顔を覆って泣き崩れてしまいました。

ルーカスさんが、私の肩を優しく抱き寄せてくれます。


私がやってきた、名もなき毎日の労働が。

この世界で、こんなにもたくさんの人たちを笑顔にし、認められた。


私は今、間違いなく、世界で一番幸せな寮母でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ