第47話 神殿の偽造王印を、私たちは見つけました
公爵夫人という心強い味方を得てお茶会から帰還したその夜。
いよいよ明日に迫った王宮での公開裁定に向けて、第七分隊の寮の居間では、五人の騎士たちによる証拠の最終確認が行われていました。
「……カイルが解読した暗号通信の記録と、ジンが神殿から持ち帰った裏帳簿。これらを照らし合わせた結果、とんでもない事実が浮かび上がってきた」
深夜の静寂の中、副隊長のセオドアさんが、テーブルの中央に一枚の羊皮紙を置きました。
それは、先日の査問会で神殿の使者が突きつけてきた、ノエルくんの『神殿本院への即時帰還命令書』でした。
「この書類に押されている王室の印。……論理的に考えて、インクの成分と印圧の分布に不自然な偏りがある。魔力解析にかけた結果、これは精巧に作られた『偽造』だと判明した」
「偽造、ですか!?」
私が思わず声を上げると、セオドアさんは冷たく銀縁眼鏡を光らせて頷きました。
「あぁ。神殿の上層部とヴァルトハイム侯爵家が深く癒着し、王宮の書記官を裏金で買収して作らせたのだろう。……王印の偽造は、国家反逆罪に等しい極刑だ」
「へっ、とんでもねぇ馬鹿どもだな。自分の首を絞める縄を、わざわざご丁寧に編み込んでたってわけだ」
カイルくんが、皮肉げな笑みを浮かべながら紫色の炎を指先でもてあそびます。
「過去三十年分の神殿からの命令書も、同じ偽造印が使われている可能性が極めて高い。彼らはそうやって、長年にわたり治癒能力者たちを不正に縛り付け、私物化してきたというわけだ」
その事実のあまりの重さと、闇の深さに、私は言葉を失いました。
ふと横を見ると、ソファに座っていたノエルくんが、真っ青な顔をして両腕で自身の体を抱え込み、ガタガタと震えていました。
神殿という巨大な組織が、どれほど冷酷に彼から自由を奪ってきたか。
その恐ろしい記憶がフラッシュバックしているのでしょう。
「……お姉ちゃん、怖いよ。神殿の人たち、どんな悪いことだって平気でするんだ。僕……またあの暗くて冷たい場所に連れ戻されたら……」
「大丈夫よ、ノエルくん」
私は、震えるノエルくんの隣に座り、その小さな体を力強く抱きしめました。
「もう二度と、あんな思いはさせない。私たちが、絶対にノエルくんを守るから」
私が背中を優しく撫で続けると、ノエルくんは私のエプロンをぎゅっと握りしめ、少しずつ震えを落ち着かせていきました。
その夜、私はノエルくんが安心して眠りにつけるまで、ずっと彼を抱きしめたままベッドで添い寝をしました。
夜が明け、決戦の朝。
寮の玄関前に、純白の儀礼用軍服に身を包んだ五人の騎士たちが並んでいました。
彼らの瞳には、もう迷いも焦りもありません。
ただ、大切な家族を脅かす敵を完全に打ち砕くという、冷徹で静かな闘志だけが宿っています。
「準備はいいですか、かすみさん」
第七分隊長のルーカスさんが、私に向かって静かに手を差し出しました。
私は、一番お気に入りの、きちんとした琥珀色の平服に身を包み、彼の手をしっかりと握り返しました。
「はい」
王宮へと続く道を、私は彼らに守られながら歩きます。
でも、昔のようにただ怯えて後ろに隠れているわけではありません。
私の足取りは、誰よりも強く、前だけを見据えていました。
「行きましょう、皆さん。私たちの大切な家族を、迎えに行きます」
読者の皆様の期待が最高潮に達する中、私たちは堂々と、王宮の大広間へと足を踏み入れたのでした。




