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夫に捨てられた専業主婦ですが、異世界騎士団の寮母になったらイケメン達が全員ダメ男でした  作者: 他力本願寺


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第27話 おかえりなさい、そしてお誕生日おめでとう

真っ暗だった寮の玄関ホールに、眩いばかりの光が溢れ出しました。


「かすみさーーん!! お帰りなさい!!」


満面の笑みを浮かべたルーカスさん。

少し誇らしげに眼鏡を光らせるセオドアさん。

天井付近でキラキラと輝く魔法の光を操るカイルくん。

私の手を引こうと跳ねているノエルくん。

床に落ちた私の荷物を静かに拾い上げてくれるジンさん。


そして、大きなケーキのようなものを手にしたマチルダさんが、優しく微笑んで立っていました。


「……香澄。三十六歳のお誕生日、おめでとう!」


パパーンッ!!


弾けるような音と共に、色とりどりの紙吹雪が宙を舞います。

明るく照らされた食堂の天井には、不格好ながらも一生懸命に飾られた布の装飾が揺れていました。


「お誕生日……」


私は、その言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要しました。


彼らは、私を避けていたわけじゃなかった。

私をこの寮から追い出そうとしていたわけでも、私に愛想を尽かしたわけでもなかった。

ただ、私に内緒で、このパーティーの準備をしてくれていただけだったのです。


張り詰めていた心の糸が、プツリと音を立てて切れました。


「あ……ぅ……」


視界がぐにゃりと歪み、ポロポロと涙がこぼれ落ちました。

最初は静かに泣いていたはずなのに、安堵と、これまでの恐怖が入り混じって、次第に声が漏れ始めます。


「ひぐっ……うわぁぁぁん……っ!」


私は両手で顔を覆い、三十六歳という年齢も忘れて、子どものように声を上げて大泣きしてしまいました。


「えっ!? か、かすみさん!?」

「ど、どうしたんだ!? どこか痛いのか!?」

「……計算外だ! 喜びの感情表現としては、涙腺の分泌量が異常すぎる!」


突然泣き崩れた私を見て、五人の騎士たちは大パニックに陥りました。


「お姉ちゃん、泣かないでぇ……僕たち、何か悪いことした……?」

ノエルくんが半泣きで私の腰にしがみつき、カイルくんが「ほら見ろ! 俺の魔法の花火が派手すぎたんだよ!」とルーカスさんに八つ当たりを始めます。

ジンさんはオロオロと私の周りをうろつき、どう触れていいか分からない様子で手を宙にさまよわせていました。


「ち、ちがい、ます……っ」


私はしゃくりあげながら、必死に首を横に振りました。


「私……てっきり、皆さんから……嫌われたのかと、思って……っ」


「嫌われた!?」


五人の声が、綺麗に重なりました。


「ここ数日……皆さんがコソコソしていて……私が近づくと、逃げるから……。私、何か怒らせるようなことをして、見捨てられちゃったんだって……ずっと、怖くて……!」


私の告白に、騎士たちはハッと息を飲みました。


「……っ! 俺たち、かすみさんにサプライズしようとして、準備を隠すのに必死で……」

ルーカスさんが、顔面を蒼白にして自分の頭を抱え込みました。


「……最悪の愚策だ。我々の不自然な情報統制が、香澄に『排斥される』という恐怖を与えてしまったのか……!」

セオドアさんが、ギリッと歯を食いしばります。


「っ……悪かった! 俺たち、隠し事とかすげぇ下手くそで……アンタを泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったんだよ!」

カイルくんが、私の肩を不器用にポンポンと叩きました。


「香澄」


マチルダさんが、ケーキをテーブルに置き、私を優しく抱きしめてくれました。


「ごめんなさいね。私が言い出しっぺなのよ。あなたの身上調書を見て、誕生日が近いと気づいたから……あの子たちにこっそり教えたの」


「マチルダさん……」


「でも、あの子たち、本当に一生懸命だったのよ。あなたに喜んでほしくて、ここ数日、夜も寝ないで準備してたんだから」


マチルダさんに背中をさすられ、私はようやく少しずつ呼吸を落ち着かせました。

涙を拭い、真っ赤になった目で食堂のテーブルを見渡して、私は再び息を呑みました。


そこには、豪華なご馳走……とは言えない、不格好な料理たちが並んでいました。


形がバラバラの『月麦(つきむぎ)』のパン。

少し焦げ目のついた、お肉の塊。

野菜の大きさが不揃いな、温かそうなスープ。


「これ……」


「俺たちで、作ったんです」


ルーカスさんが、申し訳なさそうに犬耳を垂らして言いました。


「いつもかすみさんが美味しいご飯を作ってくれるから、今日だけは、俺たちがかすみさんに恩返ししたくて。……でも、やっぱりかすみさんみたいには上手くできなくて、肉もちょっと焦げちゃいましたけど」


「……調理器具の扱いも、火の魔法の出力調整も、戦闘より遥かに困難だった。だが、味付けは君のレシピを忠実に再現したつもりだ」


セオドアさんが、少し誇らしげに胸を張ります。


料理なんて全くできなかったこの人たちが。

お湯を沸かすだけで台所を爆発させていた彼らが、私のために、火を使い、包丁を握り、怪我をしないように注意しながら、一生懸命にこれを作ってくれたのです。


「……いただきます」


私はテーブルにつき、スプーンで不揃いな野菜のスープを一口すくいました。


「……っ」


味は、少し薄かったかもしれません。

野菜は硬いところもあったかもしれません。

でも、その温かさは。彼らが私を想ってくれたその不器用な優しさは、私の心の冷え切った隙間を、完璧に埋め尽くしてくれました。


「……とっても、美味しいです」


私がポロポロと泣きながら笑うと、五人の騎士たちは、心底ホッとしたように、パァァッと顔を輝かせました。


「よかったぁぁ……!」

「お姉ちゃん、お肉も食べて! 僕がジンに手伝ってもらって切ったの!」

「……俺が、焼いた」


賑やかな食卓。

マチルダさんが用意してくれたケーキを切り分け、みんなで笑い合いながら食べる時間は、まるで夢のようでした。


『いい年したおばさんが、誕生日くらいで浮かれてんじゃねえよ』


前世の夫の、あの冷たい声は、もうどこにも聞こえません。

私の三十六歳の誕生日は、王国のエリート騎士たちが作った不格好なご馳走と、彼らのとびきりの笑顔に囲まれていました。


食事が終わると、彼らは少し照れくさそうに、各自が用意してくれたプレゼントを差し出してくれました。


「かすみさん。俺からは、これです。……いつも手荒れを気にしてたから」

ルーカスさんからは、王都で一番品質がいいという、花の香りのするハンドクリーム。


「……論理的に考えて、君の負担を減らすものが最良だと判断した。最新式の、保温機能付きの魔導ケトルだ」

セオドアさんからは、お茶を淹れるのが少し楽になる、実用的な魔導具。


「お姉ちゃん! 僕からはね、これ! 夜、寒くないようにって選んだの」

ノエルくんからは、手触りの良い、綺麗な薄紫色のショール。


「……俺からは、これだ。……あんたの、お守り」

ジンさんからは、魔除けの効果があるという、小さな星の形をした美しい木彫りの飾り。


どれも、私の日々の生活をよく見ていなければ選べない、心のこもった品物ばかりでした。


「皆さん……本当に、ありがとうございます。私、こんなに素敵な誕生日……生まれて初めてです」


私が胸にプレゼントを抱きしめて深く頭を下げると、ルーカスさんが真っ直ぐに私の目を見て言いました。


「かすみさん。生まれてきてくれて、俺たちのところに来てくれて、本当にありがとうございます」


その言葉が、私の魂の奥底まで救い上げてくれました。

『家事しかできない』と捨てられた私は。今、ここで、生きていることそのものを感謝されているのです。


* * *


パーティーがお開きになり、マチルダさんを見送り、五人もそれぞれの部屋へと戻っていく時間になりました。

寮の片付けは明日でいいからと念を押され、私も自室へ戻ろうと廊下を歩いていた時のことです。


「……おい」


背後から、不機嫌そうな声がしました。


振り返ると、魔導師のカイルくんが、壁に寄りかかるようにして立っていました。

彼だけは、パーティーの最中、私に何もプレゼントを渡していなかったのです。


「カイルくん? まだ起きていたんですか」


「……別に、寝ようが起きようが俺の勝手だろ」


カイルくんは相変わらずの憎まれ口を叩きながら、ズンズンと私の方へ歩み寄ってきました。

そして、私の目の前で立ち止まると、ポケットから乱暴に『何か』を取り出し、私の両手にポンッと押し付けました。


「え?」


それは、不器用な手つきで包まれた、手のひらに収まるサイズの小さな包みでした。


「か、カイルくん、これ……」


「……俺からの、プレゼントだ」


カイルくんは、耳の先どころか、首筋まで真っ赤に染め上げていました。

そして、私がその包みを開けようとするのを、慌てて手で制止しました。


「っ、今開けんな!! ……あとで、部屋に帰ってから一人で開けろ!」


「えっ、どうしてですか?」


「うるせぇな! いいから一人で開けろって言ってんだよ! ……じゃあな!」


カイルくんはそれだけを言い捨てると、まるで逃げるように背を向け、バタバタとものすごい足音を立てて二階の自室へと駆け上がっていきました。


「……ふふっ」


私は彼に押し付けられた小さな包みを両手で大切に包み込み、自分の部屋へと戻りました。


最高に幸せな誕生日の、最後の贈り物。

生意気な魔導師くんは、一体私に何をくれたのでしょうか。

私はベッドの上に座り、ドキドキしながら、その不器用な包みのリボンにそっと指をかけました。


(続く)

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