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ep5 約束


ウリエルとの修行を終えた翌日。

その日も朝から、ルイスはハニエルと剣を交えていた。


「ルイス、だいぶ良くなったね。これなら本当に悪魔を倒せるかもしれない」


「へへ……そうだといいんだけど……」


そう答えながらも、ルイスの表情には、まだ僅かな陰りがあった。


それに気づき、ハニエルが声をかける。


「……大丈夫? 無理しなくていいんだよ」


「あっ、いや! 本当に大丈夫!」

慌てて否定してから、ルイスは少しだけ視線を落とした。


「……正直、まだちょっと怖い。でも……やらなきゃ、何も始まらないから」


そう言って、ルイスは空を見上げた。


「……うん。そうだね」


ハニエルは、静かに微笑んだ。



————-


その日の夜——。


二人は再び、森の深部へと足を踏み入れていた。


足場の悪い獣道を、ハニエルが先導し、ルイスがその後ろを進む。

しばらく歩いたところで、ハニエルがぴたりと足を止めた。


「悪魔の気配がする。近いよ、ルイス」


ルイスは息を飲み、剣を構える。


ハニエルは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。


「二時の方向。悪魔が三体……ルイス、行ける?」


「……うん」


「よし。私が陽動する。ルイスは、隙を突いて」


そう言い残すと、ハニエルは一瞬で闇の中へ駆け出した。


「……っ!」


ルイスも後を追う。


ハニエルに引きつけられている悪魔の群れ。

その後方——一体、やや遅れている悪魔を見つけ、ルイスは狙いを定めた。


「この……っ!!」


剣を振るい、背後から斬りつける。


(——入った……!)


「グアアアァ……!!」


苦悶の声を上げ、悪魔が身をよじる。


だが、その悍ましい姿は、否応なく恐怖を掻き立てた。


(落ち着け……今は、倒すことだけ考えろ……)


震える身体を叱咤し、ルイスは剣を握り直す。


「アァァ……ヴアアァァ!!」


悪魔が振り返り、猛然と襲いかかってくる。


キィィン——!


鋭い爪と剣が激しくぶつかり合った。


「ぐっ……!!」


(力が強い……! でも——)


ハニエルとの修行のおかげか、悪魔の動きが、わずかに遅く見えた。


「はぁ……はぁ……!」


攻撃は容赦なく続く。


その最中、ふと脳裏に浮かんだのは、父の優しい笑顔だった。


——ルイス、お前は本当に優しい子だ——


「……父さん……」


胸の奥が熱くなる。


「俺、強くなるよ……」


その瞬間、内側から何かが溢れ出した。


恐怖ではない。

迷いでもない。


——覚悟。


ルイスは剣を強く握りしめ、悪魔へと踏み込んだ。


悪魔が右腕を振り上げ、叩き飛ばそうとした、その刹那。


ルイスはその腕ごと、剣を突き立てた。


「——っ!!」


勢いのまま、胸部を貫き、後方の大樹へと押し倒す。


「ギィヤアアアアァ!!」


血飛沫が舞い、ルイスの頬を濡らす。


「……っ」


剣に力を込め、悪魔を縫い止める。


最後の抵抗とばかりに、悪魔が左腕を伸ばしかけた——が。


ルイスの目を見た瞬間、その動きが止まった。


そこには、躊躇も恐怖もなかった。

殺意に満ちた、冷たい瞳。


「……君を憎んでるわけじゃない」


静かな声。


「でも、君がしていることは……許せない」


剣を引き抜く。


再び血が噴き出し、悪魔が絶叫した。


「だから……消えてもらう」


一閃。


悪魔は力を失い、黒い塵となって崩れ落ちていった。


ルイスは、その場に立ち尽くし、手についた血痕をに気づく。その手は微かに震えていた。


——————


「ルイスっ!」


残り二体を倒し終えたハニエルが、駆け寄ってくる。


「大丈夫? 怪我は——」


「うん……大丈夫だよ」


落ち着いた声だった。


「そう……よかった」


胸を撫で下ろし、ハニエルは微笑む。


「一人で倒せたね。正直、もう少し時間がかかると思ってた……すごいよ、ルイス」


「ハニエルのおかげだよ。ありがとう……本当に」


そう言いながら、ルイスは悟っていた。


——これで約束は果たされた。

——ハニエルは、旅に出てしまう。


沈黙が、二人の間に落ちる。


「……」


先に口を開いたのは、ハニエルだった。


「ルイスは……もっと強くなれる。絶対、いい騎士になれるよ」


「そ、そうかな……ありがとう」


照れたように笑うルイス。


「でもね」


ハニエルは言葉を選ぶように続ける。


「強くなるには、もっと強い悪魔と戦う必要がある。この辺りじゃ、経験を積むには限界がある」


一呼吸置いて。


「……もし、よかったら」


勇気を振り絞るように。


「私と一緒に、旅をしない?」


「……え?」


「一緒なら、もっと強くなれる。……私の、人探しに付き合ってもらうことになるけど」


ルイスは一瞬、驚いた顔をした。

だが、答えはすぐに決まった。


「……行く」


「……え?」


「一緒に行こう、ハニエル」


優しく微笑む。


「人探しも、僕に手伝わせて。一人より二人の方が、見つかる可能性も高いでしょ?」


「……ルイス……」


「改めて、よろしくね」


「……うん。よろしく、ルイス」


二人は、静かに笑い合った。


「……ちなみに、いつ出発?」


「明日」


「……え!? 明日!?」


「うん。明日」


真顔のハニエルに、ルイスは苦笑する。


「……わかった。でも、その前に少しだけ時間をもらってもいい?」


「それは大丈夫だよ」


こうして——

二人は旅立ちを決めた。


だが、出発の前に。

ルイスには、どうしても果たさなければならない“用事”が残っていた——。



———-


悪魔との戦いを終え、ハニエルと別れた後。

ルイスは、母の待つ家へと戻っていた。


(母さんに……なんて言えばいいんだろう)


天使と旅に出る。

正直に話しても、きっと信じてもらえない。


そう思うと、帰り道の足取りは自然と重くなった。


 


「……ただいま」


「あら、おかえり。遅かったわね」


母の声は、いつもと変わらない。


「うん……」


「ご飯、すぐ用意するわね——」


「母さん」


呼び止めると、母は不思議そうに振り返った。


「少し……話があるんだ」


真剣な眼差しに、母はすぐに察したようだった。


「……そう。何かあったのね」

穏やかに微笑み、椅子に腰掛ける。

「話してみなさい」


ルイスも向かいに座り、ひとつ深呼吸をした。


「母さん……実は僕、ここ最近、悪魔を倒すための修行を、ある人から受けてたんだ」


言葉を選びながら、続ける。


「その人は……すごく強くて、親切で、優しくて……。僕、尊敬してる」


母は驚く様子もなく、静かに聞いていた。


「……なんとなく、わかってたわよ」


「え……?」


「だってあなた、お父さんの剣……こっそり持ち出してたでしょう?」


「うっ……」

(バレてた……)


「でもね、ルイスは昔から真面目な子だもの。何か理由があるんだろうなって……だから、何も言わなかったの」


「……ごめん、母さん」

苦笑しながら続ける。

「それで……その人に、今日、旅に誘われたんだ」


母の表情が、少しだけ強張った。


「一緒に行けば、もっと強くなれるかもしれない。父さんみたいに……」


思いが溢れ、ルイスは立ち上がった。


「僕、父さんみたいな、強くて優しい騎士になりたい!母さんや、街のみんなを守れる力がほしい!」

「だから……必ず強くなって帰ってくる!お願いだ、旅に行かせてほしい……!」


しばらく、沈黙が流れた。


(……やっぱり、無理か)


そう思った時、母が口を開いた。


「その人は……ルイスのこと、ちゃんと守ってくれるの?」


「え……?」


「あなたを理解して、大切にしてくれる?」


「うん」

迷いなく答える。

「僕なんかじゃ敵わないくらい強くて……どんな時も、必ず助けてくれる人だよ」


母は、少し目を伏せた。


「……お父さんが亡くなってからね、ルイスには、たくさん我慢させてきたって、ずっと思ってたの」


顔を上げ、優しく微笑む。


「だから……今、初めてルイスが“自分のやりたいこと”を言ってくれて……母さん、嬉しいのよ」


「母さん……」


「その人……この前、ハンカチ届けてくれた人でしょう?」


「えっ……! うん、その人だよ」


「悪い人じゃないって、すぐ分かったわ。ルイスがそんなに慕うんだもの」


「うん……すごく優しくて……天使みたいに……あっ」


慌てて口を塞ぐルイスに、母はくすっと微笑んだ。


「……行ってきなさい、ルイス」


「えっ!? 本当に……?」


母は、静かに頷いた。


「ありがとう……! 本当にありがとう、母さん!」


「でもね」

「無茶はしないこと。たまには手紙を書くこと。母さん……心配だから」


「うん! もちろん!」


その夜、ルイスは母に修行の話をたくさん聞かせた。

久しぶりに、親子でゆっくり過ごす夜だった。



   ◆ ◆ ◆



翌朝——。


ルイスは、母に見つからないよう、静かに家を出た。


向かった先は、パウロの花屋。


「カランカランッ」


「おっ、ルイス! こんな朝早くどうした?」


「パウロさん、この前言ってた……新しく入った花、まだある?」


—————


  


出発の時間。


玄関で待つ母は、飾られた三人家族の写真を見つめていた。

その目に、ほんの少しの寂しさが滲む。


「お待たせ、母さん」


「忘れ物は?」


「うん、大丈夫」


外へ出たルイスは、背中に隠していたものを差し出した。


「母さん……これ」


目の前に差し出されたのは、鮮やかなピンク色の小花がまとまって咲いているとても華やかな花「カランコエ」だった。


「これ…。」

母が少し驚いた顔でルイスを見た。


「母さんに似合うと思って」


「……ありがとう、ルイス」


涙を滲ませながら、花を受け取る。


「僕……絶対に強くなって帰ってくる。必ず、母さんを守れる力をつけるから」


母は、そっとルイスを抱きしめた。


「……うん。気をつけていってらっしゃい、ルイス」


「行ってきます、母さん」


母は、ルイスの姿が見えなくなるまで、手を振り続けていた。


————



待ち合わせ場所に着くと、ハニエルはすでにそこにいた。


「ハニエル! お待たせ!」


「うん。じゃあ、行こうか。」


「うん!あれ…?ハニエル、羽はどうしたの?」

今日のハニエルは何故かいつもの白い羽がついていなかった。


「あぁ…旅をする時はこの状態の方が目立たないし、今は消してるんだよ。」


「な、なるほど…。そんなこともできるのか…。」


「天使ってバレたら何かと騒ぎになったりして面倒くさいからね。」


「……大変なんだな…。」


「さて、本当に出発だよ」


「あっ、うん!」


歩き出しながら、ルイスが思い出したように言う。


「そういえば……ウリエルは?」


「あぁ。あれは大丈夫。どうせ、またどこかでサボってるはずだから。」


「そっか…。最後にお礼、言いたかったな」


「ウリエルなら、そのうちまたひょっこり現れるよ。多分また会える。」


「……そうだといいな」


少し照れたように、ルイスは呟いた。


こうして——

ハニエルとルイスの旅は始まった。


この先に待つ運命も、試練も。

二人は、まだ何も知らない——。




「天使の帰路」をここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

ひとまず、ハニエルとルイスの出会い、修行編はここで一区切りとなります。


ちなみに、ルイスが母に贈った「カランコエ」の花言葉は

「あなたを守る」 という意味があります。

彼なりの、小さな約束として選ばせてみました。


これから、ハニエルとルイスが旅をする中で出会う試練や葛藤、そして新たな人物たちとの出会いを描いていく予定です。


これからも、どうぞ見守っていただけたら嬉しいです。



pixivにて「天使の帰路」のイラストも描いています。

イラストの方もこれから少しずつ更新していこうと思うのでよかったらそちらもチェックしてみてください。

https://www.pixiv.net/users/13376224

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