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墓場と白。  作者: 劣
21/40

18.陽気


その日から手紙が来る事はなかった。

だが俺には、やる事がある。

今居るのは、あの地下室。

今回はちゃんと先生に許可を取っている。


俺にはあの事件を、両親の死の真実を知る義務がある。

どうしてあんな事件が起きてしまったのか。

犯人は、誰なのか。

ファイルに書いてあった、両親に関する情報の

“別紙にて記載”と書かれた部分を指でなぞる。


これを先生に聞くと、一冊のファイルを渡された。

それにはあの事件の記事の切り抜き等がまとめられていた。

中には資料の様なものもあり、

どうやら警察の調査資料らしい。

報告を受ける時に貰ったとか何とか。


一通り読んでみたが、

どれも悲惨な未解決事件として片付けられていた。

先生の言っていた通り、警察はもう調査していない様に感じる。

記事も事件から数ヶ月分しかなくて、

そこから取り上げられなくなったのか。


「家は燃やされて、犯人に繋がる手がかりはなし…。

殺された夫婦の周りでもトラブル等の情報もない…。」


本当にいい人達だったんだな。

悪い話1つも上がらないなんて。

むしろ上がってくるのは良い評判ばかりだったらしい。

しかしこうも情報がないと、どうしようもない。

…前途多難過ぎる。


「…はぁ、ちょっと休憩しよ。」


朝からずっとこの地下室にこもりっきりだ。

そろそろお昼の時間だし、1度施設に戻ろう。

広げていたファイルを棚に戻して、地下室を後にした。

施設に戻ると、みんな昼ごはんの準備をしている。


黒埜コクヤ、どこに居たの?

もうすぐ食べれるから準備して!」


俺に気付いた白燈ハクヒに箸を押し付けられた。

さっさとそれを並べてみんなでいただきますをする。

…そういえば最近、白燈ハクヒが外出しなくなった。

本当にあの般若野郎が、白燈ハクヒの養子先なのか?

ぐるぐる考えて、結局聞けずに居た。

みんな食べ終わって、白燈ハクヒは洗い物を始めた。

普段はちび達に囲まれてるし、聞くなら今か?


「…白燈ハクヒ。」


「ん?黒埜コクヤ、どうしたの?」


俯いていた顔が上がる。

いつ見ても綺麗で長いまつげ。思わず見惚れる。

もう一度名前を呼ばれてはっとした。

…つい白燈ハクヒの顔に見惚れてしまう。


「あの、聞きたい事があるんだけど。」


「なーに?」


「…お前の、養子先の人って。どんな人。」


変に緊張してしまった。

そんな俺に気付いたのか、笑われた。

あの般若野郎の笑いはむかついて仕方なかったのに。

白燈ハクヒには何1つ不快にならなかった。

むしろ釣られて微笑みそうになる。


「本当にどうしたの。突然過ぎない?

何度か会いに行ったけど、良い人だったよ?」


ふふって笑われた。

洗い物が終わった様で、水を止めて手を拭く。

俺の前に来て、両手首に手を添えられる。

じっと、俺の目を見る様に。

目は閉じているのに、目が合っている感じがする。


「心配してくれたの?

大丈夫だよ、本当にいい人だか…」


「その人さ、変なお面付けてる?」


「え、お面?いや、どうなんだろ?

先生と一緒に会った時は何も言ってなかったし、

付けてないんじゃない?外で会う事が多いけど、

周りも特にざわついてる様子はないし。」


あ、そうか。

白燈ハクヒにはお面を付けていようが見えない。

普通に生活してるから、つい忘れてしまう。

白燈ハクヒには見えないから、

付けていなくても問題ないのか?


「それがどうかしたの?」


「…いや、何でもない。ごめん変な事聞いて。」


「それは良いけど…黒埜コクヤ、大丈夫?」


俺の両頬を両手で包み込む。

親指で頬を撫でられる。

何だか全てを見透かされる気がして、目線をそらした。


「心配?養子先の人は男性でね、若い人なんだけど。

すごく話し方が丁寧で、明るい人なんだよ。

本が好きみたいで、家にもたくさんあるって!」


俺が心配し過ぎない様に、明るく話してくれる。

どうも俺が会ったあの般若野郎と、特徴が合わない。

話し方が丁寧なのは、一致するか?


「その人、名前はなんて言うの。」


ヨウさんって言うんだ!かっこいい名前だよね!」


ふふっと上機嫌に笑う白燈ハクヒ

ヨウ?何処かで聞いた事がある様な…。

何か引っかかる。でも思い出せない。

そのまま白燈ハクヒに手を引かれ、外に出た。


「あ、黒埜コクヤ白燈ハクヒ

今からリュウの睡眠邪魔しようかなって

思うんだけど一緒に行かない??」


外に出てすぐ、カエデが居た。

にっこにこでその手には

小さなおもちゃのラッパが握られていた。

カエデって時々急に暴走するよな。

それの被害受けるのはいつもリュウだし。

まぁ楽しそうだから参加するんだけど。


カエデを先頭に、リュウの寝ている木まで行く。

木登りが苦手で普段絶対に登らないのに、

こういう時だけ身体を張るカエデ

俺が先に登って、上からカエデを引っ張る。

白燈ハクヒは下からカエデを押し上げる役。

どうにか3人とも音を立てずに登る事が出来た。


「さて、どんな反応するかな…。」


思いきりおもちゃのラッパを吹く。

俺と白燈ハクヒは思わず耳を塞いだ。

結構長く吹いてみたが…。

リュウは顔色1つ変えず寝ている。


「…もうっ!!何で起きないかな!?」


「う〜ん、カエデ

こんな所で何してるの?」


ゆっくりあくびをして、大きく伸びをするリュウ

いつもそうだけど、リュウは何もダメージ受けてないんだよなぁ。

それが余計に気に食わないらしく、

カエデは頑なにいたずらをやめない。


「なんで声かけたら起きるの!?

こんなにうるさくしても起きないのに!!」


「えぇ?カエデの声がしたなって思って

起きたんだけど…。」


微妙に噛み合ってない2人の会話に思わず笑った。

白燈ハクヒも俺に釣られて笑っていた。

普段は寝てばかりのリュウをたまには動かそうと、

みんなで木から降りて遊ぶ事になった。

ちび達も巻き込んで大勢で鬼ごっこ。

久々に走り回った。


てかリュウ白燈ハクヒ、足速すぎ。

リュウカエデばっか捕まえるから、

カエデはめっちゃ怒ってるし。

それでも何年か振りのみんなでした鬼ごっこ。

今までで1番、楽しかったなぁ。

こんなに笑った日は、人生で初めてな気がする。


テンション上がり過ぎたカエデが暴走し始め、

水風船を持ち出した。

普段は服が濡れるし、汚れるからと使うのを禁止されている。

でも今日は天気も良いし、みんな楽しそうだ。

シスターもカエデを止めなかった。


「食らえ!僕の本気っ!!」


「だ〜から!なんで俺ばっか狙うの〜!!」


大声で笑いながらカエデから逃げるリュウ

リュウの逃げた先に居た白燈ハクヒは笑っていたが、

あまりにリュウに当てられなくてつまらなかったのか。

突っ立ってた白燈ハクヒの顔面にカエデの水風船がヒット。

とんだとばっちりだ。


「うわっっ!!!」


「ははははっ!!油断してる方が悪い!!」


「やったなぁ〜!!」


水風船を持って仕返しに投げ返す白燈ハクヒ

普段大人しく落ち着いていて、

見た目も本当の年齢より上に見られる白燈ハクヒ

けどこうして見れば、白燈ハクヒもまだ無邪気な子供だ。


水に濡れてきらきらしている白燈ハクヒに見惚れていると、

後ろからリュウに水風船を当てられた。

…やられてばかりじゃ終われないよな?

俺も両手に持てるだけ水風船を持つ。


「逃げれると思うなよ〜?!」


みんなの楽しい笑い声が施設中に響いていた。

びしょ濡れになって、水風船が無くなって。

最後はただの水掛け合戦になっていた。

…水掛け合戦はさすがに途中でシスターに止められたけど。


そのあとは天気が良いからと、そのまま芝生に横になる。

選択も面倒だし、そのまま居れば乾くしな。

気持ちの良い風が吹いていて、そのまま寝てしまいそうなくらい。

こんなに穏やかな気持ちが、俺にもあったんだなぁ。


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