初雪
初雪が降る。今年は初雪が早い。ザイは、家の窓を開けて白い息を眺めた。
秋は過ぎ去り、冬がやってきた。畑は静かだし、狩りは……今時冬眠していない獣なんて、小さな兎や眠り損ねた熊くらいだろう。
(危険を冒すのはごめんだ……)
その時、コンコンと小さく扉が鳴る。窓から身を乗り出して確認すると、マフラーをしっかりと巻いたシンだった。
「あ、ザイさん!おはようございます!窓から出たら危ないですよ!」
……ザイは、いつも通りシンを家に上げることにした。
「ふう……寒いのは苦手です。」
「たった3分だろう」
「意地悪言うザイさんには今日の会心の出来!ミートパイはあげられません!」
「そうか。」
「冗談ですって。しっかり食べて下さいね!白菜スープも持ってきましたからしっかり野菜も取って下さい!」
「で、そろそろ魔王、倒す気になりましたか?」
「ならん。」
「いつもいつもならんばっかり!たまにはいい返事、聞きたいです!」
「嫌だ。」
「はぁ……今日はいいです。それにしても……最近、裏庭の畑の育ちが悪いんですよ……」
「うちは今の時期畑はやってないからな……分からん。」
シンは洗い物を一旦止めて、流しに背中でもたれかかった。
「今日のミートパイも、捕まえるのにかなり苦労したんですから。」
「今の季節そんなもんだろう……」
「そんなもんですかね……?去年はもう少し野菜も採れた気がするんですけど。」
朝は、何事もなく穏やかに過ぎてゆく。
少し早い初雪だけが、しんしんと降り積もっていった。
今日はどうやら勇者が来る様子があるらしく、魔物から連絡を受けたシンは、朝ごはんの片付けをして早々に帰っていった。
……ザイは、シンがいなければ特に何もすることはない。冬ならばなおさらだ。
(勇者……どんな相手だ?)
強いのか弱いのか。清廉なのか残酷なのか。ザイはなんとなく左手の勇者の紋章を見つめた。
(いっそ……願いを叶えてやるのが、幸せなのか……?)
一瞬でザイはその考えを却下した。
それでも、他の勇者を止めるに足る理由は、ザイにはない。
……ただ、毎日シンが来る。
それを信じて、日常を過ごすしか、ないのだ。
「と、いうわけで……出来れば、瘴気を増やすのは辞めて頂きたいんですけど……」
「はあ……でも、こっちでも意識して出してるわけではないので……」
「対話では……無理ですか?」
「対話で無理というより、多分……体質、なんじゃないかと。」
そのころ、シンは魔王城の玉座の間、一対一でなぜか勇者と膝を突き合わせて話し合っていた。
やたら堅苦しい。
「話は通じるというのに……体質、ですか。それは……過去の勇者も対峙するしかなかったわけです。」
「あっ、戦い……ますか?」
「いえ……。今日は魔王がきちんと対話できる存在であったと言うだけでも、十分な収穫です。しかし驚きました。魔王城に入っても、魔物が襲いかかってくる気配が無い。」
「あっ、分かります?ちゃんと言い聞かせたら、言うこと聞いてくれるんですよ!」
「実に興味深いですね……!」
なぜか勇者とシンは意気投合していた。
「私はヒースと申します。実は……争いは苦手で。ですから、話し合いでもし道が拓けるならと、今日はご挨拶に来ました。」
「……今日は、ですか?」
「はい。もっと深く魔王という存在を知りたいので……ご迷惑でなければ明日も来訪しようかと。」
(もしかして、これ、ザイさんも巻き込むかな……?)
……シンは、なんとなく察した。




