殺せるのか
もうすぐ冬だ。ザイは今日も朝早くから薪を割っている。しっかりと乾かしてため込んでおくのだ。もしものとき、いざとなればシンが助けてくれるのは分かりきっていたが、育ての親のプライドだ。
「朝からずいぶんと働き者なんだな……」
日常の乱入者、デモク。昨日からこの家に住み着いた彼は、腕を組んでこちらを見やっていた。
(見張りのつもり、か?)
ザイはそんな事を考える。
(どうにも疑り深くなって困るな……)
その時、いつものようにいつものごとく朝ご飯を届けにシンがやって来た。
「おはようございます!ザイさん!デモクさん!」
……デモクは思い切り吹き出して咳込んだ。
「朝から何をしに来たんだ!魔王!」
「えっ?昨日言ったじゃないですか……朝ご飯、届けに来たんですよ!」
「魔王が勇者の飯を毎日作るな!」
「でも……いつものことですし……」
ザイは顔を顰めて、今日の薪割りを切り上げることにした。
早起きをした分、腹も減ったのだろう。
「今日はかぼちゃスープに、ベーコンとキノコのソテー、あとくるみパンです。」
「や、やたら美味そうだな……」
「料理は好きなんです。取り分けますから、ちょっと待ってくださいね!」
「というか、水筒に入れてきたとはいえ、ずいぶんとスープが温かいな……?」
「お隣ですから!」
「なんで魔王が勇者の家の隣に住んでるんだ!距離を取れ!!!」
……にぎやかで騒がしい。シンはデモクに対しても変わらずニコニコしている。
(……いくら魔王に覚醒して強くなったからって、油断しすぎじゃないか……?)
いままではザイしか居なかったから気づかなかったが、シンの人懐こさ。ザイは心配になった。
「美味い!なんで魔王の料理が美味いんだ!」
「ザイさんは料理が下手なんです!頑張りました!」
(まあ……害にならないなら、シンが楽しそうなのは、良いことだが……)
ザイは無言でくるみパンを噛じった。
美味かった。
そうしてデモクは、畑の掃除をするザイとシンを見張り、昼飯時にも大騒ぎをし、そして午後……
シンに見送られて、2人は狩りに来ていた。
「静かにしろよ。獲物が逃げる。」
「……なあ、少し聞きたいんだが。」
「獲物が逃げるって言ったばかりだが?」
「魔王がいない今が聞きやすいと思ってついてきたんだ……。あんた、なんで魔王を倒しに行かないんだ?」
「……………」
「あれほど油断している相手なら、容易く倒せそうだが……」
「……お前もしていないだろう。」
「それは、そうなんだが……俺は確認待ちだからな……」
デモクは頭を掻いた。
ザイは、顔を顰めて……しばらく黙っていたが、珍しく感情を吐き捨てるように言った。
「じゃあ、お前はできるのか?」
「えっ」
「15年前、ぼろぼろになって森の奥に捨てられた小さな子供を……」
「……………」
「金の目なんて随分珍しいと思ったさ。でもまさか魔王だなんて思っても見なかった……」
「……………」
「出来るのか?隣で丸まって眠っていた子供を、毎朝の朝食を手伝おうと卵を焦がす子供を、少しずつ隣で育っていく子供を……魔王だからって、殺してくれと願われたって、お前は殺せるのか?」
「それは……だが、世界は……」
ザイはデモクに背を向けた。これ以上は話すことは無いとでも言うように。
「狩りを手伝う気が無いのなら戻っていろ。邪魔だ。」
先へ進んでいくザイ。デモクは暫く、そこから動けなかった。
「あ、お帰りなさい、デモクさん。あれ?ザイさんは?」
「……邪魔だから帰れってさ。」
「狩りは慣れてないと難しいですもんねぇ……」
シンはデモクにも茶を入れた。
「……随分、暇そうだな?」
「まあ……今日は勇者候補が魔王城に来てないので。来たら忙しくなります。」
「俺の知っている魔王城と違う……」
「僕らにとってはあたりまえ、なんですけどねぇ。」
「そんな当たり前あってたまるか。」
「でも……今、僕とデモクさんもこうして普通に話してるじゃないですか。」
デモクは唇を噛む。何か言い返したかったが、今の異様な状態はデモクも望んだことだ。
(けれど……本当に仲間の皆が無事だったら?誰も殺していないとしたら?魔王を殺すのは世界のため……だが、こいつは世界に何かしたのだろうか……?)
ぐちゃぐちゃになる思考を振り切るため、デモクは壁に立てかけてあった剣を手に取る。
「あ、デモクさん!どこ行くんですか?」
「修行だ!お前を倒すためのな!」
「だから僕はザイさん以外に殺される気は無いんですって……」
デモクは声を振り切って外に出た。
とにかく今は、むしょうに素振りがしたい気分だった。




