勇者拾いました
毎日はそうそう変わらず過ぎる。今日もシンは朝ご飯を持ってバスケット片手にザイの家へやって来るし、ザイはなんだかんだ毎日それを受け入れて、一緒に朝ごはんを食べる。
だが、その日はちょっと違う事が起こった。
いつものように午後に狩りに出かけようとするザイ。
しかし家の前に……力尽きて倒れた、戦士の姿があった。
ザイの後ろから、不審げにひょこりと顔をのぞかせたシンは、思い当たる節があったのか叫んだ。
「この人!だいぶ前に仲間を置いて逃げちゃった勇者候補の人ですよ!」
……とりあえずザイは、面倒なことになりそうな予感を抱えながらも、シンの頼みで、戦士を家で手当てすることにした……
「……なんで助けようなんて言った。」
「だって……倒れてますし……。弱かったから安全だと思って……」
シンは怒られた子供のように下を向いている。
(優しいのは結構なことだが……こうして再びやって来ることを思うと、見逃すばかりなのも良くないな……)
ザイは顔を顰めて、シンに伝えようとした……が、その時、寝台に寝かせた戦士が、ふと目を覚ます。
「ここは……一体……」
「あっ」
勇者候補とシンの目がバッチリと合った。
「貴様……!魔王!仲間の仇!」
「別に殺してません!というか、見捨てて逃げたの、貴方じゃないですか!」
「問答無……うっ……」
戦士はまたもぐったりと倒れた。……盛大に、腹の音が鳴った。
「腹が……減った……」
「貴様ムシャムシャ毒などムシャムシャ入れていないだろうな!」
「そんな盛大に食べながら言われても……」
「大体ムシャムシャダークエルフと魔王のムシャムシャ組み合わせなど怪しいことこの上ない!ムシャムシャ」
「……僕はともかく、ダークエルフ差別だなんて、今どき流行りませんよ。」
シンの声が、一段低くなる。
戦士はごくりとキノコのキッシュを飲み下して、ようやく一息ついたようだった。
「ふう。食べ物を恵んでもらった恩はある。だが、仲間の仇……!」
「だから殺してなんかいませんってば……僕、痛そうなのやグロいのは苦手なんですよ……」
魔王としてそれはどうなのか。ザイは密かに思った。
「貴方が逃げて、諦めたのか攻撃してこなくなったから、故郷に転送魔法でお帰りいただいたんです!」
「……信頼できないな。」
「だとしても一人じゃ勝てないなんて、わかりきってるでしょう?手紙でも魔法でも何でもいいから、確認してくれていいですよ。」
「……なら!手紙を書こう!だが、仲間たちの無事がわかるまで、ここに居座ってやるからな……!」
「………迷惑なんだが。」
ザイは顔を顰めた。2人暮らしの設備はあるが、ダークエルフに差別的な相手をとめる気にはなれなかった。
「いいや、納得するまで居させてもらう!疑うなという方が難しい組み合わせだろう!」
「一応俺も勇者候補だ。」
ザイは左手の勇者の紋章を見せた。戦士は少し気圧されたようだったが……
「いいや!せめて、仲間から連絡が来るまでは……居座らせてもらう!あんたには悪いがな!」
「ザイさんの家のご飯作ってるの僕なんですけど……大丈夫ですか?」
「……今の食べ物に毒が仕込まれていなかったからな……貴様の言い分が正しいのなら、俺を殺す必要もない筈だろう!」
男の頑固さに、ザイは折れた。
「……1週間あれば、十分だろう。」
「ああ!転送便を使うから、ど田舎の故郷にも一週間あれば返事が来るだろう!」
「……まあ……ザイさんが良いなら……でも、ご飯の出来に文句は言わないで下さいね!」
「……まだ全面的に信じたわけじゃないぞ!俺の名はデモク!いずれは真の勇者になる男だ!」
……そうして、一週間の間だが、奇妙な勇者と魔王の関係に、もう一人の勇者が加わることになった。
……毎日は、少しずつ変わっていく。




