変わらない毎日
朝は毎日やってくる。当たり前のことだが、大切な事だ。
そうして、シンも毎日ザイの家にやってくる。ザイはまたかと顔を顰めた。
「おはようございます!ザイさん!今日は台所使おうと思って、ちょっと早めに出てきました!」
手にはいつものバスケット。
いつも通りいつものごとく、シンは元気いっぱいだ。
ザイは小さくため息をついてシンを家に入れた。
「今日はジャガイモがいっぱい採れたので、ジャガイモのポタージュを作ろうと思って……材料持ってきたんです!偶には温かいスープもいいでしょう?」
「まだ育ちきってない小芋掘り出して笑ってたやつが立派になったもんだ」
「何年前の話ししてるんですか!?」
料理中のシンが勢いよく振り返る。揶揄われたと思ったのか顔は少し赤い。
「料理中に目を離すと危険だぞ」
「もう僕だっていい大人なんですよ!」
……そうは言うものの、ダークエルフであるザイの中では記憶は鮮明だ。
(あの頃は大量に親指みたいな芋を掘り出して駆け寄ってきてた子供がな……)
ぼんやりとザイはシンの背中を見る。すらりと伸びた背は、ザイには僅かに届かない。
「毎日来て、暇なのか?」
「そういうわけでもないんですけど……ザイさんにはしっかりご飯を食べて、魔王を倒してもらわなきゃですし!」
「……またそれか。」
「またそれです。ザイさんがこんな山奥に一人っきりで暮らしてるなんて、僕のほうが嫌なんです!」
(ダークエルフだなんだと言ってた奴らが掌返すほうが、俺は嫌だけどな。)
ザイはこっそり、余計な世話だ……と、呟いた。
「今日の朝ごはんは木の実のパンとポタージュです。しっかり食べてくださいね。」
ザイは手でパンをちぎり、口に運んだ。ふかふかしている。
「美味い。」
「どうも。じゃあ、僕も……いただきますね!」
2人は向かい合って食事をとる。毎朝のルーティンだった。
ザイは今日の午前中は、畑仕事に手を付けることにした。実りの秋も深まってきた。冬を越すために、たくさん収穫するつもりだった。
「お手伝いしますよ!」
「お前はもう家を出た身だろ……客だ、客。」
「毎年やってたんですから!収穫くらい……」
「毎朝の差し入れで十分だ。お前、夜も来るしな。それより……勇者は大丈夫なのか?」
「来たら魔王城から連絡が来ますから、大丈夫ですよ!ザイさんに殺されるまでは負けるつもりはありませんし!」
「……………」
結局ザイは根負けした。今日は勇者の襲撃は来なかったらしく、シンも手際よく畑から収穫していた。
午後はいつもの通り、ザイは狩りに出る。必要な道具をベルトやポーチにしまい込んで、シンを振り返った。
「それじゃあ、行ってくる。」
「気をつけてくださいね!」
ザイを見送る視線は、温かだった。
夕暮れ時、ザイは仕留めた獲物と、山菜を摘んで帰る。
……家からは、ホッとするような明かりが今日も漏れていた。
扉を空けた。
「お帰りなさ……うわあ、今日は大量ですね……鹿!?」
「今日使う分は取れ。余りは干し肉にするからな。」
「これだけあると何に使うか迷っちゃいますね……ソテーもいいし……シチューも捨てがたいな……」
ザイは顔を顰めた。
「……体調は。」
「今日は勇者は来ませんでしたからね!元気いっぱいですよ!」
それを聞いて、ザイはいつものように、小さく安堵の息をつく。
ベルトも刃物も外して、普段着に着替えた。
「それで……。ご飯のあとで全然良いんですけど……魔王を倒す気に、なりました?」
「ならん。」
「ザイさんのケチ。」
そうしてシンは料理に取り掛かる。
ザイは椅子に座ってその背を眺めた。
(明日も……こいつは、来るんだろうな。)
……毎日は、ゆっくり過ぎていく。




