魔王城まで徒歩3分
久しぶりに、ザイは家に帰ってきた。出ていったときよりずっと深くなった雪は、ザイの家を完全に覆い隠している。
……ザイは、ため息をついた。
ようやく帰ってきたというのに、まずやることが雪かきとは……
ざっと扉までの道と、家の屋根から雪をおろしたザイは、久しぶりに家の中を見渡す。
なんとなくホコリの積もった室内は暗い
本当に、この賭けに出るのか……?揺らぎそうになる心。
けれど約束をした。それだけは破れない
……その時、ドンドンと戸を叩く音がした。誰だ?シンならばもっと控えめに戸を叩くはずだが……?
扉を開いたザイの前に、勝ち気そうな少女が現れた。まだ、年若い。
「………あんたがザイ?」
「そうだが……お前は?」
「あたしはジャス。勇者候補よ。」
ジャスは左手の甲を見せる。幾何学的な模様。確かに勇者の紋章だ。
「……勇者。なんの用だ?」
ジャスは背中に背負った大剣を、スラリと抜いた。
「あたしと戦え!魔王を倒せるのか……あたしが、見極めてやる!」
ザイは一瞬、閉口した。
一体何のために……?
「魔王に挑む勇者か?」
「もう挑んだ!今は修行中!」
(故郷まで転送魔法で返さなかったのか……)
シンにしては珍しい。ザイは不思議に思った。
「あんたが、魔王シンと約束したように……あたしも、魔王シンと約束した!あんたが殺せなかったら、あたしが殺すと!」
「……保険か……」
ザイは苦々しく目の前の少女を見た。
……なにせ、ザイが試そうとしていることは、ある意味では賭けだったので。
「勝負して!……大丈夫だって、あたしに安心させて。もう、麓の村はこの雪でなくなっているの。時間は……あまりないのよ……!」
ザイはため息をついて、すらりと腰から銀剣を抜いた。
2人は、少し開けた家の裏庭へ移動した。……雪は大変邪魔だったが、このくらいのハンデがなくては魔王になどとても挑めないだろう。
雪を踏みしめ……ジャスが走る!一閃は鋭く、僅かに逃れたザイは、目を見開いた。
(こいつ……踏み込みに迷いがない)
荒々しいながらも息をもつかせぬとばかりの連続攻撃。ザイは自分の剣で受け流しながらも感心した。
しかし、銀剣で軌道を変え、相手の剣を滑らせて――
今度はザイが踏み込んだ!雪を物ともせず、体当たりしてもつれ込む。
……ザイは最初からこの少女を傷つける気はなかった。
仰向けに倒れた少女の首元に、銀剣を構える。
「………納得したか?」
「………なによ。ちゃんと強いじゃない……」
「何年シンに戦い方を教えてきたと思ってるんだ。」
「そりゃ……負けるわね。」
ジャスは、一息ついて、雪を払って立ち上がった。
ザイは自分の剣をしまい直すと、ジャスに話しかけた。
「ジャス……お前に、頼みがある。」
「……なによ。」
「俺はこれから賭けに出る。……もしも失敗したら、お前がシンを……倒してくれ」
ジャスは一瞬目を見開き――すぐに真顔に戻って、頷いた。
「なにか……やりたいことがあるのね。でも急いでちょうだい。時間はないわ。けど……その約束は、守る。だから、先に行って。」
「……ありがとう。」
「次は命を賭けてでも、私は魔王を討つわ。だから……ギリギリまで修行する。
あんたは……行きなさいよ。魔王城へ!」
「そうさせてもらう。」
いつもの道だった。
毎日シンが歩いてきた道を、今日はザイが歩く。
たった徒歩3分。
3年間シンがザイの家に通い続けた道。
けれど、この3分は15年分くらい長く感じた。
魔王城。一度も訪れたことの無かった、シンの家。
「約束……守ってやれるだろうか。」
ザイは、静かに魔王城へ入っていった。




