学術都市エクアル
学術都市エクアル。かつて世界を支えていたという世界樹を枯らしたと伝えられる初代魔王と、初代勇者が数千年前に戦った地。
ザイは、何日もの野宿と船旅を繰り返し、ようやくここまでたどり着いた。
(一番古い、勇者と魔王の伝説……その後の勇者と魔王の顛末も補完されている書物があるらしい……)
しかしザイは気づかなかった。平等を謳う学術都市エクアルにも根深い迫害の芽はあったことを……
ザイは、エクアルの都市を覆う城壁から少し離れた荒野で、野宿をしていた。
なにせ、街に入る待機列の1人ほど前までは普通の通行税を取っていた兵士が、ザイがダークエルフだと知るなり10倍の値段をふっかけてきたのだ。とても支払えない。
1人、干し肉を炙ってかじる。
(……焦げた。シンの飯が懐かしい……)
ザイはなんだかんだ言って、しっかりシンの飯に胃袋を掴まれていた。
だが、どうにかエクアルに入らなければ魔王と勇者の調査も何もない。
こんな所で、久しぶりに迫害を感じるとは……。ザイは人間嫌いに拍車がかかった。
次の日も、一応エクアルへの通行税を払う行列に並んでみる。だがしかし、やはり入り口を守る兵士はニヤニヤと想定の何倍以上もの通行税を要求してくる。
……騒ぎを起こすのはまずい。ザイは、仕方なく踵を返そうとして―――
「ザイ?こんな所で何してるんだ!」
……知った声に、出会った。
「デモク様?どうしてこちらに……」
兵士は少し焦っているようだった。
「知り合いが見えたからな。あと、こいつはダークエルフだが、勇者だ!紋章もしっかりある!」
デモクはザイの左手を兵士に示し、黙らせた。もちろん通行税は、普通金額で取られたが。
「デモク……お前、どうしてこの街に?」
「決まっているだろう!魔王と勇者の謎……それを解くために、暫くこの街に滞在していたんだ。」
「デモク様っていうのは……」
「ああ……一応、勇者の紋章は消えてないからな。あいつらにとっては、俺はいまだに魔王を倒せる可能性を持った勇者候補だ。……間違いではないが……」
デモクは少し地面に視線を落とした。何処か後ろめたい表情をしていた。
「勇者特権で、この街の伝承や勇者や魔王の話を、片っ端から集めてきたんだ!」
ザイは驚いて、デモクをまじまじと見つめた。
「お前に聞かせたい情報も山程ある!」
そこでデモクは、声を落とした。
「……どうせシンを殺すに殺せなくて、手がかりを探しに来たって所だろう?お前はそういう手段を取ると思ってたよ。」
ザイはデモクを見つめた。かつてのような、敵対感はない。
「……済まない。」
「そういう時はありがとう、だ!」
ザイは内心で、人間嫌いを微妙に撤回した。
ザイは、デモクとともに、宿へ来ていた。
「まず……最初に言っておく。俺が調べた限りでは……勇者に倒されて、生き残った魔王は、居ない、ということだ。」
「……ただ一人も、か?」
「ああ……そもそも、魔王はまず、世界の敵。倒すべきもの。それが当たり前だったからな……」
……魔王が生き続ける限り、地は荒れ、瘴気は溢れ続ける。それは、何度もおとぎ話で聞いた話だった。
「そのなかで一つ、面白いものを見つけたんだ。」
「面白いもの?」
「ああ。何代目の勇者か忘れたが……魔王と完全に相打ちになったのに、不思議なことに蘇ったらしい。記録には『真の勇者の力によるもの』としか書かれてなかった。不思議だと思わないか?」
ザイは、何かを考えるように黙りこくっていた。
不思議と、この話が印象に残った。
「それ以外のことは……あまり、特筆すべきことはないかもしれない。勇者は魔王を倒し、真の勇者となり、世界を浄化し長命を生きる。……伝説通りだ。」
「まさか本当に長命に?」
「ああ。どうやら本当っぽいんだよな。正確なことは……勇者は王都に囲い込まれてしまうから、分からないんだが……」
「つまり、今の所……シンを助けられそうな情報は無いという事か……」
デモクは慌てて説明を始めた。
「いや!この都市で手に入った情報はそれくらいという話だ!俺が本当に教えたかったのは、遺跡都市、イデアの話だ!」
「イデア……?あそこはもう何千年も前に世界樹が枯れてから、人の殆ど居ない遺跡になったという話だが……」
「うん……そうだよな。けど……どうも初代勇者は、魔王を退治したあと遺跡都市を滅ぼそうとしたらしい。」
「勇者が……遺跡都市を?」
「何かあるんじゃないかってのが、俺の見立てだ!」
何千年も前に枯れた、世界樹の都市。
「行くしかない、か……」
ザイは、静かに心を決めた。




