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王宮舞踏会。
きらびやかなシャンデリアの下、アリアナは期待に胸を膨らませていた。
今日こそ、あの手紙の返事がもらえるはずだと。
しかし、中央階段から現れたブリオッシュ皇太子の表情は、氷のように冷たかった。
「アリアナ・ド・ベルフォール。貴様との婚約を破棄する!!」
静まり返る会場に、王子の怒声が響き渡る。
王子は、懐から一通の便箋を取り出した。
「……っ! 殿下、それは……!」
「黙れ、淫らな女め! 衛兵ジャン・ルノワールに宛てたこの恋文……。『私の体は貴方のもの』だと? 皇太子の婚約者でありながら、卑しい兵卒と肌を重ねていたとは、サヴォワ王家への最大級の侮辱だ!」
アリアナは目の前が真っ暗になった。
「な、何かの間違いです! その手紙は……殿下に宛てたもので……! 宛名を見てください、私は……!」
「往生際が悪いぞ! 宛名にははっきりと、ジャンの名が記されている! その不義の相手なら、先ほど不敬罪で処刑済みだがな!」
アリアナの背筋に、凍り付くような戦慄が走った。
無実を証言してくれるはずの相手は、もうこの世にいない。
王子の隣では、マノンが獲物を追い詰めた肉食獣のような目でアリアナを見つめていた。
「殿下、このようなふしだら女をただ婚約破棄するだけでは、王家の威信が保てませんわ」
マノンが、毒を含んだ甘い声で囁く。
「男をたぶらかすその美貌を、取り上げてしまいましょう? そうすれば、二度と誰かを誘惑することなんてできませんもの」
裏切られた怒りに狂ったブリオッシュは、その甘言を受け入れた。
「……そうだな。アリアナ・ド・ベルフォールに、古法に則り『鼻削ぎ』の刑を命ずる! 二度と男に色目を使えぬよう、その醜い本性に相応しい顔へと堕としてやれ! 直ちに執行せよ!」
「嘘……嘘よ! 殿下! 何かの間違いなの!! 私は貴方だけを……っ!!」
アリアナの悲鳴を塗り潰すように、屈強な衛兵たちが彼女の両腕を乱暴に掴み上げた。
「離して! お父様! 誰か、誰か助けて!!」
豪華な絨毯の上を、アリアナのドレスが虚しく擦れていった。




