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冤罪が晴れた後、アリアナは数年ぶりに王宮の謁見の間へと呼び出された。
「アリアナ……。言葉もない。あの聖女、いや、化け物に唆されたとはいえ、君にこれほどまでの仕打ちをした私を、どうか、どうか許してほしい」
顔を紫のベールで覆ったアリアナは、無言で彼を見下ろした。
その静寂に耐えかねたように、王子は傍らに積まれた黄金を示した。
「これは私個人の、せめてもの償いだ。小国の一つも買えるほどの額を揃えさせた。これで好きなものを手に入れ、穏やかな余生を送ってほしい……!」
アリアナは、黄金の山を冷ややかな眼差しで一瞥し、静かに問いかけた。
「……殿下。そんなに悔いておいでなら、一つだけお願いがあります。あの日の婚約破棄を取り消して、私を貴方の妻にしてくださいませんか?」
王子の顔から、一瞬で血の気が引いた。
彼は、アリアナが付けている紫のベールの下の、鼻があるべき位置へと、無意識に視線を走らせた。
「そ、それは……無理だ。アリアナ、君の潔白は証明された。だが、その……さすがに、鼻がない王妃というのは、前例がないし……外交上も、その……わかるだろう?」
王子の声には、これ以上ないほどの困惑が宿っていた。
アリアナはベールの下で、歪んだ笑みを浮かべた。
「……ええ、そうでしょうね。鼻を削がれて以来、私は男性には見向きもされません。汚物を見るような目で見られるか、あるいは、今の殿下のように怯えられるか……それだけです。殿下は、私の人生がここまで無惨に壊れ果てたことで、ようやくご満足いただけたのでは?」
「アリアナ、私はそんなつもりでは……!」
「『そんなつもり』がなくても、貴方が私の鼻を削ぎ、私の幸福を根こそぎ奪った事実に変わりはありません」
アリアナは短く告げると、立ち上がり踵を返した。
金があれば、最高のドレスが買える。豪奢な屋敷にも住める。
だが、どれほど黄金を高く積み上げようとも、失われた数センチの軟骨が再生することはない。
そして、この世の誰一人として、顔に穴の空いた女を愛することなどないのだ。




