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時を同じくして、聖女マノンがアリアナに仕掛けた狡猾な冤罪が白日の下にさらされた。
王家は威信をかけ、マノンに対してもかつてのアリアナと同じ刑罰――鼻削ぎを言い渡した。
しかし、その断罪は、聖女にとっては何の損失も与えぬ茶番に過ぎなかった。
刑が執行された直後、マノンは平然と自らの手に慈悲深い光を宿した。
光が彼女の顔を包み込んだ瞬間、小さく美しい鼻筋が再構築され、元の場所に蘇った。
通常の治癒魔法は、自然治癒力を爆発的に高める魔法に過ぎないため、傷口を塞ぐことはできても、欠損部位を再生することはできない。
だが、マノンが操る固有魔法は、「女神の奇跡」に近いものだった。
「ああ、痛かった。でも、もう大丈夫ですわ。女神様が私を許してくださいましたもの」
そして、一事不再理の原則により、一度裁かれ、刑を終えた罪を再び問うことはできない。
実質的にマノンは何一つ失うことなく、完璧な美貌を維持して聖女の座に居座り続けた。
◇
その報せがアリアナの元に届いたとき、彼女は絶望と同時に一抹の希望を抱いた。
(……治せるの? 欠損した部位を、無から作り出せるというの? あの女なら、私の鼻を……元通りにできるかもしれない)
一度は捨てたはずの女としての幸せが、心臓の奥で醜く脈動を始める。
しかし……。
その救いの鍵は、世界で最も憎むべき聖女の手の中にある。
自分を地獄へ突き落とし、今この瞬間も高笑いしているであろう女に、膝を屈して縋るのか。
……いや、迷う余地などなかった。背に腹は代えられない。
この銀の仮面の下にある空洞が埋まるのなら、魂を売ってでも、復讐心を押し殺してでも、私はあの女の前に跪こう。
その飢えたような渇望が、アリアナを再び、呪われた王都へと向かわせる。
◇
アリアナは白磁の床に膝を突いた。
「……お願い、マノン。私の鼻を治して!」
だが、いつも返ってくるのはマノンの鼻で笑うような声だった。
「あなたもしつこいですわね。いくらあなたの冤罪が晴れたからといって、女神様の奇跡を安売りするわけにはいきませんの。それに、そのお顔、とってもお似合いですわよ」
マノンの瞳には、鼻削ぎの刑が決まったあの瞬間と同じ、嗜虐的な光が宿っている。
彼女自身も鼻を削がれた前科者となった今でさえ、その歪んだ嫉妬心は消えていない。
「……っ!この性悪女がっ!!」
刹那、アリアナの周囲で全属性魔法の奔流が狂ったように爆ぜた。
石畳が粉々に砕け、熱風が室内のカーテンを焼き焦がす。
「……殺してやる……今すぐここで!!」
アリアナの指先が、マノンの喉元へ吸い込まれるように伸びる。
その圧倒的な殺気に、さっきまで余裕ぶっていたマノンの顔が、一瞬で恐怖に引き攣った。
「ひ……ひっ! 待って、待ってちょうだい、アリアナ!!」
尻餅をつき、必死に後退りしながら、マノンは喉を鳴らして叫んだ。
「わ、私を殺してどうするつもり!? あんたの鼻を治せるのは、聖女であるこの私だけなのよ! ここで私を殺したら、あんたの顔は一生そのままよ。それでもいいの!?」
アリアナの動きが、物理的な衝撃を受けたように止まった。
至近距離にあるアリアナの指先から放たれる熱が、彼女の白い首筋をじりじりと焼いている。
「わ、私を生かしておけば……いつか、いつか気が変わって、あんたの鼻を治してあげる日が来るかもしれないでしょ!? だから、落ち着いて……っ!」
(……くっ!んんっ!!)
アリアナは煮えくり返る殺意を、血が出るほど唇を噛んで飲み込んだ。
最強の力を手にしながら、アリアナはこの女の意志一つ変えることができない。
「正しいのは私」で、「力があるのも私」なのに、たった数グラムの肉片を再生する権利を握られているというだけで、この女に膝を屈し続けなければならない。




