第69話 無心の境地
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「あの2人……なんか話してませんか?」
「戦闘中だぞ?
あ……でもそんな感じに見えるな?
音が小さくて、
何を言ってるのかは分からないな……」
カイゼルが頭を掻いた。
「しょうがねえだろ?魔道具の位置が遠いんだ。
これ以上は無理だぞ」
「なるほど……
では魔道具を少し近づけるとするかの?」
「できるのですか?」
次の瞬間――
「あっ、き、聞こえます!
やはり、何か話してますね」
ーーーー
「お前、思ったよりはるかにやるではないか?」
シヴァが笑う。
「そお?」
颯斗が肩をすくめる。
「お前も聞いてたのよりずっと強くないか?
もっと簡単に倒せると思ってたんだがな」
「言うじゃないか?」
シヴァは楽しそうに笑う。
「まあ、お前なら一万年前の俺だったら倒せたかもな?」
「今のお前は倒せないと?」
「俺の閉じ込められていた空間はな」
シヴァは指で四角を描く。
「せいぜい30m四方。
馬鹿馬鹿しいことに障壁の厚さは50m。
いくら暴れてもびくともしなかった……
戦うことしかできなかった俺は、
数千年、障壁相手に殴り、
そして蹴り続けた。
筋肉は肥大し、体は大きくなった……」
「……数千年……」
「だがある時――」
シヴァの目が鋭くなる。
「限界を超えた俺の体は、
徐々に小さくなっていく……
最初は何が起きているのか理解できなかった。
でも気づいた……
俺の体……密度が高まっていると。
するとどうだ?
攻撃力は桁違いに上がり、
ついには障壁にヒビが入るほどにまで高まった」
「つまり、前よりずっと強くなった?」
シヴァはニヤリと笑う。
「だがその俺と、互角に戦うやつが現れるとは……
思ってもみなかったぞ?
ましてやそれが神ではなく人間だと?冗談だろ?」
「お前、いつから知性が戻ったんだ?」
「密度が高くなった時だな」
シヴァは眉間を指差す。
「ここからポロッと、あれが落ちやがった」
「なるほど……体の組織の密度が高まり、
押し出されたのか」
「そういうことだろうな」
「知性戻ったんなら……」
颯斗が笑う。
「なんで〝グギャ~〟とか叫んでたんだ?」
「ハハハ……キモかったか?すまんすまん……
狂戦士化が長かったからな。
時々出てきちまうんだよ」
「やっかいだな……」
「でも、なんとか制御できるようにはなったんだぞ」
「話を戻すが……」
シヴァが言う。
「お前は、人にして、なぜ俺と互角に戦える?」
「ああ、半分……女神の血だから……
俺の母さんは、女神なんだ……
父さんも異世界の神の子孫らしい……」
「DNAが混ざって突然変異的なあれか?」
「難しい言葉を知ってるな?」
颯斗が笑う。
「でも〝的なあれ〟ってなんだよ?
実はなんにもわかってない的な?」
「ハハハ……」
シヴァも笑う。
「真似するな……面白いな……お前……」
颯斗の髪が揺れる。
異界に風が吹き始めた。
シヴァの気配が変わる。
「雑談はここまでだ」
空気が一変する。
「俺の本当の力を見せてやる」
颯斗が笑う。
「おk。じゃあ俺も……
力の一端くらいは見せてやろうかな」
その瞬間。
二人の気配が――
世界を揺らした。
〝ドッカァァン!!〟
〝ドドドドドド……!!〟
衝撃が、異空間そのものを震わせていた。
雷のような閃光が幾筋も走る。
超高速で衝突し続ける、二人の戦士。
次の瞬間。
空間が弾け、
2つの影が地上に降りる。
「……なぜだ」
シヴァが低く呟く。
「俺の全力……
……なぜこのスピードに付いて来れる……?」
「圧倒できると思ったか?」
「…………いいから答えろ」
「秘密……」
「……何?」
シヴァが目を細める。
「ウソウソ、そんな目で睨むなよ。
教えてやるよ」
颯斗は肩を回しながら言った。
「さっき話していた狂戦士化だよ」
眉を顰めるシヴァ。
「いや、言ってることが、さっぱり分からん……」
「今までずっとさ……」
颯斗は空を見上げながら言う。
「頭で考えずに、無心で戦えるように……
ひたすら訓練してきた。
自分ではできている……
そう思っていたんだけど……」
ため息をつく。
「そう考えてる時点で、
やはり無心にはなれてなかったんだな……」
シヴァは黙って聞いている。
「狂戦士化したら、
ひたすら戦うだけ……
ほんとになんにも考えない。
頭空っぽ。ただ目の前のやつを無心で倒す……」
「まあ、狂戦士化ってのは、
そういうもんだからな……」
「それがさ……正気を取り戻した後……
その時の感覚が俺の中に残っててさ……
無心で戦うっていうのが、
どういうことなのかやっと理解できたんだ」
「…………無心の境地ってやつか……」
シヴァの目がキラリと光る。
「昨日の俺が、束になってかかってきても、
掠らせることすら出来ない、
そんな高みに一瞬でこれた」
じっとシヴァを見つめる颯斗。
「俺の強さは、スピードや、パワー……
それに技術ですらないんだよ……」
シヴァを指差す。
「〝無心〟それでお前と戦えているんだよ」
ふう~とため息をつくシヴァ。
「何言ってる?それこそが技術の頂点だろ。
ククク……いいねぇ?リック……
テンションマックスになってきたぜ……
続きをやるぞ」
「俺もだよ……シヴァ。この境地を極めるのには……
お前は最高の相手」
「〝肉体強化極み〟対〝究極の頭空っぽ術〟の戦いだな」
ーーーー
「ちょっ……いいとこなのに……
映像が途切れちゃったわよ……」
「3日も稼働し続けたから、魔石が切れたんだろう。
俺だって見てるだけでもうクタクタだよ……
あいつらの体力、どうなってんだよ?」
「もう見られないの?この後が気になるんだけど……」
「仕方ないだろ?
3日も戦い続けるとは……想定外だぞ?」
魔石だって保つわけ……」
「し~……ちょっと待って……」
唇に人差し指を添えるエレーナ。
「ここまで響いていた音が聞こえないわ。
音、消えたんじゃない?」
「空気の震えも収ったな……
もしかして戦いが終わったのか……?」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




