第70話 またな
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
息を切らした颯斗が大きく息を吐いた。
「ふぅ~……」
地面に座り込む。
「…… なあ、シヴァ……
……腹減らんか?もう3日3晩だぞ……」
肩で息をしているシヴァが呆れた顔をする。
「バカめ、神は物を食ったりせんのだ」
「母さん、普通に食べてたぞ?」
「……」
「まさかお前……
神のくせに食うこともできないのか?」
「ふんっ……」
シヴァが鼻で笑う。
「お前、休みたいのだろ?
その手には……」
「ほいっ!」
バーガーを破壊神に放る。
アイテムボックスから出されたそれは、
まるで今できたばかりのように湯気を上げている。
「ハムッ……
か~うめ~!いいから食ってみろよ?」
「だからその手には……」
いい香りが鼻を漂う。
「……まあ、乗ってやらんでもない……
ん?美味いな……」
「だろ?ここのバーガーは、鉄板じゃなくて、
直火で焼くから、肉汁が落ちて煙になり、
スモークもされて、香ばしくて美味いんだよ」
「何を言っているのか、さっぱり分からんが……」
シヴァがもう一口食べる。
「確かにくせになる……」
「ホイッ!まだたくさんあるぞ」
「おい、リック……」
3日の間に名前で呼び合っていた。
「お前また……
今度は何をしている……」
シヴァが呆れたように問う。
「ラーメン。
流石に店で、アイテムボックスを、
使うわけにもいかないし、
器も返さなきゃだろ?
持って帰るのは無理かと思ってたらさ……
俺が留守にしていた3年で、
冷凍食品がめちゃ進化しててさ、
有名店のラーメンが、
結構いい感じに再現されてるの。
今、温めてるから食ってみ」
鍋とかき回しながら、饒舌に喋る。
「リック、お前、俺に何がしたいんだ?」
「ん?長いこと閉じ込められていたお前に、
美味しいもん食わせたいだけだぞ?
それで喜ばせたい」
「そんなもんで喜ぶかい……」
「シヴァ……お前、バーガー食いながら、
めちゃいい顔で笑ってたぞ?」
「あのな……」
「ほい、できた。こういう感じに麺をすくって、
ふうふうして……熱いから気をつけろ」
「火炎魔法くらってもなんともないのに、
こんなもんで……あちっ!」
「ほら言わんこっちゃない……
破壊神の舌を、破壊するとは……」
「「ラーメン恐るべし……」」
「「ハハハ……」」
異空間に、なぜか穏やかな笑いが響いていた。
ーー
「なあ、シヴァ……なんであの後、
第3宇宙で暴れたんだ?」
「ん?暴れた?そんなことしていないぞ?
サイモンを探して、瘴気を追ったら、
たまたまそこが第3宇宙だったってだけだ」
「第3宇宙の一角を、破壊したんじゃないのか?
そう聞いたんだが?」
「してないしてない……
あそこは物凄い瘴気溜まりのところがあってな」
「ああ、聞いたよ。あの結晶が採れるんだろ?」
「そこの瘴気が俺に入り込もうとしたから、
焼き消してやっただけだ。ただ規模がな……
大爆発起こしてたから、
それで勘違いしたんじゃないのか?」
「瘴気って、焼き消せるのか?」
「ん?できるぞ?ただし……物凄い魔力を使い、
超高温にしなければダメだ。
お前なら楽勝だろうがな」
「へ~良いこと聞いた。
今度瘴気が増えたら、それで解決じゃん。
師匠みたいに浄化しなくて良いんだ……」
「師匠って、サイモンのことか?
なんであいつが、お前の師匠なんだ?」
「師匠に古代魔法を教わったんだよ」
「ああ、お前、極大魔法をサラッと使ってたな。
そういえば、俺との戦いで、
お前、魔法使ってなかったのは、なんでだ?」
「頭で考えないで戦うってのが楽しくて……」
「お前は、まだまだ強くなりそうだな?
どこまでいく気なんだ?」
颯斗は少し考えた。
「さあ、どうだろ……
今ですら、これだけ力をつけたなら、
2000年前に行かなくたって、
良いんじゃないかと思うんだよな……
もう十分て思いつつ、
まだ先があるのかとも思う」
シヴァが眉を動かす。
「2000年前?なんのことだ?」
「色々事情があって、
2000年前に行かなくちゃならないんだ」
「行きたくないのか?」
「いや」
苦笑する。
「皆と一年も会えなくなるのがな」
「ああ、いくのが嫌なんじゃなく、
1年ってのが嫌なのか……」
少し考える。
「だったら、問題ねーじゃねえか?」
「え?」
颯斗が首を傾げる。
「なんで?」
「お前、自由に時空を越えられるだろうが?
ちょこちょこ帰ってきたら良いじゃねえか」
「そんなことできないよ」
颯斗が手を振る。
「はぁ?できるだろうが?
ここの異世界にだって、しれっと入り込むし……
自在に移動できるんだろ」
「空間は移動できるけど、時間はな……」
「できるはずだぞ?
高位の神は普通にやってる。
お前んとこの創造神だってやってるだろ」
颯斗が固まる。
「…………あ」
頭を掻く。
「……たぶんやってるな……」
父——海斗が言ってた。
『創造神様なら時間は自由に』
そんな言葉を思い出す。
シヴァが笑う。
「だろ?
お前の移動能力なら、
時も越えられるはずだ。
今度試してみろよ」
「サンキュー!シヴァ」
颯斗の顔がパッと晴れやかになる。
その後も次々に料理を勧める颯斗。
「ふぁ~~腹一杯だ~」
行儀悪く寝転ぶ。
「なあ、リック……
俺はサイモンを唯一の友だと思っていた。
でもあの関係は友達とは言えんな……」
少し間が空く。
「こうやって、お前といると……
これが友達なんだ……そう思えて……
リック?」
「…………」
「こいつ……寝ちまいやがった……」
シヴァが苦笑する。
「3日戦い続けた敵を目の前にして寝るか?普通……
やっぱ、〝敵〟じゃなく〝友〟じゃねえか……」
そう言うといつしか破壊神も瞼を閉じる。
ーーーー
「音がしなくなってもう半日よ……
どうなってるの……」
「仕方ねえ……行ってみるか?」
「待つのじゃカイゼル……危険すぎる……」
「何が危険なの?じいちゃん」
一同が振り向く。
「「「「リック!」」」」
「ただいま~」
颯斗が手を振る。
「怪我は!?」
「どこもなんともないの!?」
「大丈夫なのあなた!?」
「ん?」
颯斗が首を傾げる。
「どこもなんとも?
たくさん寝たから気分もスッキリ」
「ね、寝た?破壊神は?」
「さあ?起きたらいなくなってた……」
「リック……」
エレーナが指差す。
「その顔……」
「え?」
頬に文字が書いてあった。
そこには――
こう書かれていた。
『またな、リック』
~end~
最終話となります。
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