第63話 妖怪大行列じゃん
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
ーー東京……夕暮れの庭。
「ねえ父さん、裏庭の祠のことなんだけど……」
「あれか?」
父は懐かしそうに目を細めた。
「太古の昔からあると伝わっているやつだな。
我らの祖――伊弉諾の神が建てた祠だとな」
風に笹が揺れて鳴って耳をくすぐる。
「祠がどうかしたか?」
「思い出したんだけど……
小さい時あそこの前に行くと……」
颯斗は庭の奥を見つめる。
「なんだか不思議な気配……というか、
他とは違う空気感があったんだよね」
父は首を傾げる。
「そうか?私は何も感じなかったがな……」
少し考え、
「そういえば、アステリアが、
あそこでよく瞑想をしていたな」
「母さんが?」
颯斗の胸がざわつく。
「俺、ちょっと気になるから入っても良い?」
「もちろんかまわんよ。
門弟に掃除をさせていたくらいだ。
誰が入っても問題はない」
「一番奥に石碑があったよね?
あれ、お墓みたいで怖かったんだよな。
訳のわからない模様が彫ってあって……
あの模様、宝魔石の文字と似てる?」
「いや、全然違うだろ、
お前、嫌がって寄り付かなかったから、
あまりよく見てなかったんじゃないか?」
「まあ、世界が違うし同じ文字って事はないか」
「向こうに帰る前にちょっと見てきたら良い。
そうだな……私も久しぶりに行ってみようか」
ーーーーー
ーー裏庭の祠。
低い鳥居。その奥に小さな洞穴があった。
「ここ、こんなに狭かったっけ?天井も低いし」
「お前が大きくなったってことだろ。
だから狭く感じるんじゃないか?」
中は狭い石窟。
奥には苔むした石碑が一つあるだけ。
「この石碑だね。
父さん、灯を照らしてみてくれない」
「こうか?」
懐中電灯の光が、模様を浮かび上がらせる。
「ああ、これこれ」
「なんだろうなこの模様は、
文字に見えなくもないが……」
「やっぱりルーン文字とは違うな……
あれ?……」
〝封印し我が剣、ここに眠る。心正しき我が子孫。
この石に、神聖なる力を注げよ。
されば道は開かれる〟
「読めるのか?」
「読めたのかな?勝手に口が動いたって感じなんだけど」
「神聖なる力とは何だ?」
「う〜ん……こっちでは神聖力も魔力もないし……」
「なくはないんじゃないか?
お前母さんは、上手く使えない……
そんなふうに言ってたぞ。
日本の神も神通力を使ったというしな」
颯斗を見つめる。
「お前の正しき思いを流してみてはどうだ?」
「流す……何をどうやって……」
「……そうだな……家族や仲間を守りたいって、
気持ちを込めてみたらどうだ」
「なるほど……」
颯斗は石碑の上に両手を添えて、
頭に家族を思い描く。
「……!」
父、海斗が息を呑む。
「颯斗、お前から〝気〟が溢れている」
石碑が淡く光る。
〝ズズズズズ……〟
奥の岩壁が割れ、闇の通路が現れる。
暗くて中は見えない。
父が一歩踏み出す。
〝ガツッ!〟
「痛っ!」
何もない空間に弾かれる。
「見えない壁がある」
それ以上は前に進めなかった。
「ほんと?」
〝ガクッ!〟
「うわっと……」
颯斗は手探りで進んでみるが、
何もなかったため、
バランスを崩して前につまずいた。
「……何もないよ?普通に入れる」
海斗は、もう一度そこを叩いてみた。
〝コンコンコン〟
「やっぱり私には入れないようだ。
石碑に力を注いだお前だけが入れるってことか?」
〝パッパッパッパッ……〟
「うわ。明るくなった!父さんここずいぶん深そう……
あれ?閉まっちゃった……」
「颯斗!颯斗!……どうしたんだここは……」
一歩踏み入れた瞬間――
入口が閉じる。
ただの岩壁しかない。
「父さん!父さん!
だめだ……聞こえないみたいだな。
向こうの姿は見えて声もするのに……
仕方ない1人で進んでみるしかないな」
深呼吸をして心を落ち着かせる颯斗。
30mも行かないうちに、陰からゾロゾロと、
緑色の小柄な魔物が襲いかかってきた。
「お〜日本にも魔物がいたんだ。
ゴブリンか?違うな、あれは小鬼?
この剣で、倒せるか?」
エゼルソードを抜く。
蒼光が走る。
〝ザンッ!ザンッ!〟
一撃。それだけでゴブリンは霧散する。
〝ザンザン!ガシュッ!ガシュッ!ズシャ!〟
「いけるいける!エゼルソード」
ーーーー
奥から次々に現れる魔物……ここでは妖怪。
「ぬりかべ……?」
壁が迫る。
「いったんもめん……」
布が首を狙う。
「あらら……ぬらりひょんまでいるのかよ」
苦笑する颯斗。
「妖怪大行列じゃん」
軽く切るだけで全て霧になる。
「弱っ……」
ーーーー
何層潜っただろうか。
通路の先に巨大な扉が見える。
「行き止まり?大きな扉……
迷宮のボス部屋みたい……」
扉を開けると広い部屋に出た。
「柱がいっぱい……この部屋だけ装飾されてる……
でも、さすが日本……〝和〟っぽいな。
神社かなんかみたいじゃん」
〝ギ……ギギギギ……〟
天井が、軋む。
「な、何だ?」
闇の中から、巨大な影が垂れ下がる。
「……でかっ」
頭蓋だけで五、六メートル。
空洞の眼窩が、赤く灯る。
骨同士が擦れ合う音が、洞窟全体に響く。
〝カラ……カラカラカラ……〟
「ラスボス?あれって……がしゃどくろ?
あのスカジャン欲しかったんだよな……
なんて、言ってる場合じゃ……」
その瞬間ーー
〝ドゴォォォォン!!〟
振り下ろされた拳が、床を砕く。
石片が弾丸のように飛びちった。
颯斗はその中を――
「よっ」
紙一重で抜ける。
再び拳が横薙ぎ。
空気が圧縮され、衝撃波となって走る。
「あの図体なのに速いな……意外……」
間髪入れずに3度目の拳が襲う。
〝ズドォォン!!〟
洞窟が揺れる。
「やるじゃん?
でももういいや……」
颯斗は一瞬で間合いを詰める。
「終わりだよ」
刃を振り抜く。
〝ザァァァァンッ!!〟
巨大な骸骨が縦に割れる。
全身が白い霧となって崩壊。
霧が渦を巻き、がしゃどくろは消えた。
静寂が戻る。
「……ビジュアルの割には手応えなさすぎ……」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




