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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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焦る彼らの旅路5

「さっそくだが宇治までの足が欲しい。忙しいところすまないが、急ぎ手配してほしい」

「はい。聞いておりましたから手配はしております。もう少しだけお時間をください。今日は部屋をご用意いたしますので、一泊ごゆっくりおくつろぎください」


 庚淳は部下を呼んで私達を部屋に案内するように言いつけた。エドも一緒について行こうとして庚淳に呼び止められる。


「エドガー様にはご相談があるので、こちらでお時間いただいてもよろしいですか」

「かまわない」


 残るエドについているのか、毬夜も部屋に残った。私とアルとジルの3人は人に案内されて長い廊下を歩き始めた。総督府は広く、いくつもの建物を廊下で繋いでいて、もはや来た道さえわからなくなるほど歩いた。

 どこまで歩くのかと思っていたら、土塀で四方を囲んだ建物の前で立ち止まり鍵を開ける。


「さあどうぞお入り下さい」


 促されて入ったものの、天井近くに明かり取りの窓がある以外は窓もなく、中は薄暗くてよく見えなかった。


「なんだここは? おい暗いぞ!」


 アルが文句の言葉を口にして振り返るとすでに扉は閉じられていた。アルは慌てたように扉を開けようとしたが鍵をかけられたようで開かなかった。


「閉じ込められたようですね」


 ジルの冷静な言葉に私とアルは動揺した。


「さっきの庚淳とかいう人なんか様子がおかしかったもんね」

「だからエドガー達を足止めしたんだな。だがなぜこんな事をしたんだ。俺たちを閉じ込めてどうしようって言うんだ」

「わかりません。ただ一つ望みがあるとすれば、エドガー殿下達が異変に気づいて、迎えに着てくれる事でしょう」


 薄暗い景色に目が慣れてくると、明かり取りの窓にも鉄格子があり、室内も簡易なベットのような物以外何もなかった。扉についたちいさな小窓はまるで食べものを差し入れるために、予め作られているかのようだ。


「ここは牢屋……でしょうか?」


 ジルの言葉に私も頷いた。たぶんそういう使われ方をするところなのだろう。

 私達は苛立ちを押さえ込んで無言で助けが来る事を待ち望んだ。日が傾き夜になり、月明かりだけの暗闇が私達をおおいつくす。

 その深い闇が恐ろしくてアルにしがみつくと、アルは無言で私を抱き寄せて背をさすってくれた。


「大丈夫だ。俺がついている」


 アルの言葉に何の保証もなかったが、私はすがる思いでその言葉にしがみついた。どれくらいの時が過ぎたのだろう。扉を小さくノックする音が聞こえた。

 ジルが真っ先に扉の前に移動する。


「そこに皆様おそろいですか?」


 毬夜の声にほっとした。ジルは扉越しに3人揃っている事を伝えた。しばらくすると鍵が開く音がして扉が開いた。

 扉の前にランプを手にした毬夜が立っていた。


「失礼お許し下さい。説明している時間がありません。お急ぎ下さい」


 毬夜は急かすように早口にまくしたてて歩き始めた。慌ててついて歩くが、スピードが速くてもはや歩くというより走るの方が近かった。

 暗闇が支配する夜の廊下をランプ1つだけを頼りに、毬夜について歩き続ける。毬夜の足が急に止まったかと思うと、夜の空気が変わった。


「逃げたぞ、捕らえよ!」


 兵士の声が聞こえて、毬夜に向かって剣が振り下ろされる。毬夜もそれに応じようとしたが、ランプを持っていたため、少し反応が遅れた。


「危ない!毬夜」


 毬夜に振り下ろされた剣は間近で何かに弾かれるようにとまった。こんな事できる人一人しかいない。振り返るとアルがこちらに向かって手をかざしていた。


「ランプは明にもたせろ。明を中心に固まれ」


 アルの指示に従い肩を寄せ合うと、まるで私達の周りに壁が出来たように、敵の攻撃が当たらなくなった。

 毬夜は開いた両手ですらりと剣を抜き放つ。


「なるほど偉そうなのは、口ばかりでは無かったのですね」


 皮肉めいた言葉だが、そこにはアルへの敬意がかすかにこもっていた。アルは余裕の笑みを浮かべながら魔法の歌を奏で続ける。毬夜が兵士を切って活路を見出し、アルの魔法で守る。そうやって私達は突き進んでいた。

 

 何度も曲がり角を曲がりながら廊下を歩き続け、行き着いた先には馬車があった。そしてその前にエドがいた。


「エド! よかった無事だったんだね」


 音量は潜めたが、喜びで満ちた声で呼びかける。


「すまない。迷惑をかけた。早く馬車に乗ってくれ。急ぎここを出立する」


 エドの焦りは声からも伝わってきた。いつも冷静なエドらしからぬ声だ。よほど状況が悪いのだろう。

 急ぎ馬車の中に乗り込もうと馬車の扉に手をかけた時、それまで薄暗かったあたりが、まぶしいほどの明かりに照らされた。


「エドガー殿下。京に上られるのであれば、そこの3人を置いていっていただきましょう」


 庚淳が兵達を従えて私達の周りを取り囲んでいた。ランプやたいまつを掲げて私達をてらしだしている。


「言ったはずだ。この3人の入国は帝がお許しになった事。帝の命令に逆らうつもりか?」

「しかし長年帝国は鎖国制度を貫いてきたのです。今さら異国人を国に入れる事は許される事ではありません」


 なるほど状況は掴めた。庚淳は鎖国制度を守るために、私達の入国を阻止したくて閉じ込めたと。だけど王室至上主義の帝国で帝やエドの命令に逆らってまでする事だろうか?

 庚淳の目にはエドに対する敬意は感じられず、むしろ侮るようなそぶりさえ見える。もしかしたらエドの悪い噂のせいでエドに対する侮りが生まれたのだろうか?


「エドガー殿下の命令に逆らうなど、不敬だ。庚淳殿」


 毬夜は静かな怒りを湛えて剣を抜きはなった。庚淳はその姿にひるむことなく、むしろ毬夜を馬鹿にするような眼差しをむけた。


「ふん。林家の女が、エドガー殿下に対する不敬を言うか? 笑わせるな」


 林というのはおそらく毬夜の名字なのだろう。帝国でタブーとされている家の名を出す事で、毬夜を最大級に侮辱しているのだ。冷静な毬夜ですら唇をわななかせて動揺している。

 私はただ一つの望みをかけて、エドの腕にしがみついた。

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