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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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血まみれ皇子と茨の道1

「毬夜に対して無礼だ。庚淳」


 エドが静かな怒りをこめて抗議すると、庚淳は薄ら笑いを浮かべた。


「その女を信用するのですか殿下? その女は林櫂柚の娘なのですよ。いつ寝首をかかれるかしれませんがね」


 櫂柚の名を聞いて驚き毬夜を見た。悔しそうに唇を噛みしめている。まさか毬夜があの櫂柚の娘だったなんて……。

 毬夜は我慢できないという感じで剣を構えて、庚淳に斬りかかろうとした。それを制したのはエドだった。


「親の因果は子に報いず。それが帝国の文化だ。櫂柚の娘である事と毬夜に対する信用は別物だ。私の命令にそむくお前と毬夜なら、毬夜の方が信を置ける」


 エドのはっきりとした主張に毬夜は歓喜の眼差しでエドを見た。庚淳は忌々しげにそれを見て、がなりたてた。


「裏切り者の娘も他国人も殺してしまえ!」

「帝国の王族に弓引くつもりか!」


 庚淳の命令とエドの責め。二つの矛盾する指揮に、兵はどちらに従うべきかためらいを見せた。そんな部下達の様子に苛立った庚淳は自ら剣を抜き放ちこちらに歩みをすすめた。


「そこの創造神などとふざけた事を言う女に王子はたぶらかされたのだ。女を殺して目を覚まさせねば」


 え? 私が標的? ちょっと待って確かに帝国行きを主張したのは私だけど、それだけで命狙われるとか勘弁してよ。

 慌ててエドの背に隠れるとエドは私を庇って庚淳の前に立ち、剣を抜きはなって威嚇した。


「それ以上刃向かうなら不敬罪として切ってすてる」

「さすが『血まみれ皇子』帝国民を切って捨てる事にためらいもない、非情の王子よ。貴方はこの国の主として相応しくない」


 庚淳はエドの威嚇にも躊躇うことなく、剣を振り下ろした。それをエドは受け流し返す刀で庚淳の首をためらいなく切って捨てる。

 庚淳は喉をひゅーひゅー鳴らしながら力尽きて崩れ落ち、最後の力を振る絞るようにエドの服をつかんだ。その目は見開かれ力強くエドを睨んだまま息耐えた。その表情は最後までエドを責めていた。


 庚淳が死んだ事で周囲の兵達はざわついていた。庚淳の命令に今さら従おうとは思っていないようだが、目の前で非情に部下を切って捨てた皇子にたいして、恐怖を感じているようだ。


「私は碧海帝国第一皇子エドガー・フォーだ。私の命令に背く物は庚淳と同じく切って捨てる」


 エドの威圧的な態度にざわついていた兵達が水を打ったように静まりかえった。そして畏怖の念を浮かべながら、エドに向かって敬礼をする。その姿に満足そうに頷くとエドは剣を治めた。


「誰かこの不敬者の死体を始末せよ」


 人が変わったように冷たいエドの表情に、私は背筋を凍らせながら呆然と見返した。



 結局その夜は庚淳の後任指名や今後の対応のため出立できなかった。今度こそまともな部屋に案内された私達だったが、とてもではないが眠れる気分ではなかった。

 案内してくれた毬夜を引き留め、私は彼女に問いかける。


「どうして……どうしてあんなひどい事……エドじゃないみたい」


 毬夜は冷ややかな目線で私を見下ろしながら口を開いた。


「貴方を守るためでしょう。貴方を背に庇って手加減などできる状況ではなかった。それに動揺した兵達が庚淳側についてしまったら、私達に逃げ場はなかった。恐怖を持ってあの場を治めるしかない。そう殿下は判断したのです」


 私のせい……。そう思うと涙で視界がにじむ。あんな事エドはしたくなかったに違いない。庚淳の恨みのこもった目が頭から離れない。エドはあんな恨みを買ってこれからも皇子として人を従えなければいけないのだ。

 櫂柚の墓の前で、迷うエドの背中を押した。だがあれは本当に正しかったのだろうか? 朱里や櫂柚がエドを帝にする事を望んだから、だからエドは帝になろうとしている。でもエド自身は本当はなりたくないのではないか? しかも理解者の少ない茨の道だとするなら……。


「毬夜……毬夜はエドの味方だよね」


 私はわらにすがるような思いで毬夜を見つめた。彼女にしては珍しく微笑を湛えて言った。


「もちろんです。ご覧になったでしょう。殿下は私を庇ってくださった。信頼して下さった。裏切り者櫂柚の娘だというのに。」


 毬夜の目は歓喜の色を帯び、熱っぽくエドの事を語る姿は敬愛を超えた感情を思わせた。


「本当は父が殿下を裏切ったと聞いた時、責任をとって軍を辞めようと思ったのです。しかし殿下は私を引き留めて下さった。さらに責任のある警護役を任せて下さった。私はその時から一生殿下のために尽くすと誓ったのです」


 毬夜の感情はただ恩人として、信頼できる君主に対する物を超えている気がした。男として恋愛感情を交えて見ているのではないかという不安に駆られた。そしてそれに嫉妬している自分がいた。

 その事に私は驚きを感じた。例え毬夜がどんな感情であろうと、エドの味方であるなら喜ぶべきなのに……。私はその複雑な思いにしばらく悩まされるのだった。

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