作者不明の物語4
「みんな集まる事無いのに。ただ手紙が届いただけだよ」
ジルと会った数日後、突然手紙が届いた。それを聞いて慌ててみんな集まってきたのだ。
「何が書いてあるか分かったものではない。あのジル・ラリックだぞ。下劣な想像力で明を苦しませるかもしれない」
「アルフレッド殿下の言う通り、何が書いてあるか分からない以上、今後のために皆で相談すべきだ」
「僕がジル・ラリックを連れてきてしまったのがいけないんです。僕にも協力させて下さい」
アル、エド、朱里、3人の男に囲まれて、私はジル・ラリックからの手紙に触れた。ジルと会ったあの日から数日。対策や今後の事をずっと考えていた。たいていの事では動揺しないつもりだった。
それでも緊張しながら、ゆっくりと開封して読み進めた。
『 明殿
お体の具合はその後いかがでしょうか?実は次回の私の作品を思いついたので、明殿に是非見ていただきたくお手紙しました。もしご意見があるようでしたら、またお呼びいただければいつでも参ります。
ジル・ラリック』
手紙とは別に、本のあらすじのようなものが入っていた。
ーー
想像力豊かな一人の少女が、とある物語を生み出した。ところが何故かその少女は、自分の書いた物語世界に入り込んでしまったのだ。物語世界に紛れた少女は、二人の王子に求愛されてとまどいつつ、世界の危機と闘うのだった。
ーー
思わず手紙を落としてしまうほど驚いた。だって私何も話してないのに、ほとんど事実。しかも意見があるなら会わせろと脅してるような物じゃない。ここで私が無視したら、おもしろおかしく脚色されて世界に広まってしまう。
私は3人に手紙を回し読みさせている間に思った。ジル・ラリックは私の想像以上に、すごい人物だ。いい意味でも悪い意味でも。敵にするよりむしろ味方に付けた方がいい。
「なんだこの手紙は失礼極まりない。明無視しろ」
「しかし無視すれば本を出すと脅しているようなものだ。何か対策をするべきだ」
「いっそ拉致・監禁してペンを持たせないとかだめですか?兄上」
朱里……君意外に怖いところあるんだね。過激な大人になっちゃだめだよ。
「一つ提案があるんだけど。ジルもこのまま帝国に連れて行っちゃだめかな?」
「なぜだ?」
エドが冷静な表情で聞いてくる。エドは帝国行きメンバーの責任者でもある。彼の理解無くして、私の提案は通らない。
「『大災害』の原因って、帝国に関係あるかもってだけで、未だによくわかってないじゃない。私達だけじゃ思いも寄らない原因かもしれない。でもこのジルは少ない情報から事実をすくい上げる、鋭い観察力を持ってる。貴重なアドバイザーになると思うの」
エドは厳しい表情のまま首を横に振り、重いため息をついた。
「もし仮にジルが戦力になるといっても、帝国に連れて行くわけにはいかない」
「どうして?」
「明やアルフレッド王子を帝国に連れて行くだけでも、相当な決断だったのだ。ましてあの男を帝国に入国させたら、その後帝国の秘密を暴き出して、世界中に本にしてばらまきかねない」
エドの不安はもっともだった。秘密国家・帝国の内情なんて、ジルが喜んで飛びつきそうな気がする。
「うーん。そうか……でも敵にするより、味方にしておきたい人なんだけどな……」
「明。あんな男がいなくても、俺が協力するぞ。忘れろ」
アルの言葉を私は無視してどうしたものかと首を傾げていた。そうしたら朱里が可愛い顔してまた恐ろしい発言をくりだした。
「そうしたらやっぱり帝国から一生外に出さないとかにすればいいのでは?帝国内にいる限り問題は少ないでしょう」
「朱里。そのように簡単な問題ではないぞ……」
「待って!それいいかも。強制的にじゃなく、あくまでジルの同意を得て、亡命・永住を前提に帝国へ入る許可を出すとか」
「帝国から一生出られないのだぞ。そんなことあの男が同意するのか?」
アルは眉間に皺を寄せて、疑問を口にした。どうもアルはジルが私に近づく事が嫌なようだ。
「わからないけど、あの人すごい好奇心が強そうだった。秘密国家・帝国に入国できるチャンスが転がってたら、もしかしたら食いつくかも」
エドは黙ったまま、しばらく考えるように目をつぶった。それからゆっくりと目を開いて、言葉を紡いだ。
「『大災害』を解決するために、ジルの力が必要なんだな」
「うん」
「わかった。こちらの条件をすべてジルが飲むならば、帝国への入国を許可するようにとりはかろう」
「本当!よかった」
私が喜ぶと、エドはぼそりとつけたした。
「いざとなれば、作家一人葬り去ることなど簡単だからな……」
ちょっと怖いよ、兄弟揃って過激だ!やっぱ似てるかもしれないこの二人。