表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵と黒の魔女  作者: KK
51/90

第5章:黒き囮と、野犬たちの挽歌

 たった一撃で指揮官機を蒸発させられたアレスの殲滅せんめつ部隊は、完全に統制を失いパニックに陥っていた。


「た、隊長機がロストした! あの黒い機体、一体どこから……!」


「化け物めッ! 全機、中央の黒い奴に火力を集中させろ!」


 敵の残存部隊が、恐怖を塗り潰すようにノワールへと全砲門を向ける。


 だが、それこそが俺の狙いだった。


「セリア。俺を世界で一番目立つ的にしろ。……奴らのヘイトを、一ミリ残らず正面に集めるぞ」


『ええ、お安い御用よ。私と貴方のダンスなら、こんな三流の弾幕、かすり傷一つつけさせないわ』


 俺はスロットルを全開にし、ノワールを前傾姿勢で敵陣のど真ん中へと突進させた。


 赤いレーザーと徹甲弾てっこうだんの雨が降り注ぐ。だが、セリアの戦術領域タクティカル・グリッドが描き出す『射撃の隙間』を縫うように、漆黒の巨躯きょくが泥の上を滑るようにステップを踏む。


 バジリスクから得た超高密度合金の胸部装甲は、避けきれない流れ弾すら火花と共に物理的に弾き返していた。


「ヒィィッ! ば、化け物……!」


「よそ見してんじゃねえぞ、豚ども!」


 ふところに潜り込んだ俺は、ノワール・ブラスターを鈍器のように振り回し、前列にいた重装甲機の脚部を粉砕した。機体がバランスを崩して倒れ込む隙に、空いた左手で別の敵機の頭部を鷲掴わしづかみにし、岩壁へと力任せに叩きつける。


 圧倒的な暴力の嵐。


 敵は完全にノワールという『死神』に目を奪われ、左右への警戒を完全に怠っていた。


「……よし。ザック! 今だ、やっちまえ!」

 俺がオープンチャンネルで怒鳴った、その瞬間だった。


『オオォォォォォォォォッ!!』


 採掘場のすり鉢状の崖上から、獣の咆哮ほうこうのようなエンジンの重低音がとどろいた。

 夕闇の空を背にして姿を現したのは、ザック率いる灰犬アッシュ・ハウンドの主力部隊だ。


「なっ……増援だと!? 側面から来てるぞ!」


 敵が慌てて砲塔を旋回させようとするが、遅すぎる。


めるなよ、アレスの腰抜け共! 俺たち灰犬アッシュ・ハウンドのテリトリーで、デカい顔してんじゃねえッ!」


 ザックの号令と共に、限界までチューンナップされた量産機たちが、崖を滑り降りるようにして敵の側面へと雪崩なだれれ込んだ。


 エレナがリミッターを解除し、バイパスを直結させたことで、普段は鈍重な旧式機体が、まるで別の機体のような爆発的な加速を見せる。


 ダダダダダダダッ!!


 バークスの重機関銃が火を噴き、ウェッジの機体が死角からグレネードを放り込む。


 正面のノワールに気を取られ、完全に無防備になっていた敵の側面装甲に、灰犬たちのありったけの鉛玉が次々と突き刺さっていった。


「馬鹿な……!? ゴミ拾いの傭兵ようへいどもの機体が、なぜこんな出力を……!」


『当然よ。私が直接エンジンをいじってやったんだから!』

 後方の岩山から、エレナのりんとした声が響く。


『ザック! その機体のジェネレーターが保つのはあと十五分よ! エンジンが溶け落ちる前に、一匹残らず片付けなさい!』


 ズキュゥゥンッ!!


 エレナの『ヴォルフ・ハウンド』から放たれたリニア弾が、ザックを狙おうとしていた敵機のメインカメラを正確に貫く。


「十五分もありゃ、お釣りが来るぜ! 行くぞお前ら、ヴァンスの野郎にいいところを見せてやれ!」


 ザックがアサルトライフルを連射し、混乱する敵陣をさらに掻き乱す。


 正面からは、俺のノワールという絶対的な『盾』にして『矛』。


 側面からは、ザックたちが怒濤どとうの勢いで突っ込む『挟撃のハンマー』。


 そして後方からは、エレナという『必殺の狙撃手』。


「……まったく、最高の兄弟たちだぜ」

 俺は無精髭ぶしょうひげの奥でニヤリと笑い、ノワール・ブラスターの銃剣を再び構え直した。


「ベイル! ボケっと見てねえで、手負いの連中をまとめて後退させろ! ここからは、泥にまみれた大掃除の時間だ!」


「……へっ、相変わらず人使いの荒い野郎だぜ!」

 死を覚悟していたベイルが、コックピットの中で安堵あんどと歓喜の入り混じった笑い声を上げ、残存する部下たちを安全な後方へと誘導し始める。


 アレスの最新鋭機を揃えた白銀の殲滅部隊は、いまや完全に狩られる側の『獲物』へと成り下がっていた。


 夕闇の採掘場に、野犬たちの猛烈な挽歌ばんかが響き渡る。泥臭い恩返しは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ