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傭兵と黒の魔女  作者: KK
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第3章:鉄屑の覚醒と、高価な弾丸

 親父のテントを出ると、外の景色は一変していた。


「……おいおい、信じられねえ。あの姉ちゃん、魔法使いか何かか?」

 後からテントを出てきたザックが、驚きのあまり間抜けな声を漏らす。


 広場に並んでいた灰犬アッシュ・ハウンドの旧式魔導鎧たち。先ほどまで配線がむき出しになり、装甲がひしゃげていたその機体群が、今は見違えるように重厚で安定したアイドリング音を響かせていた。


「よし、第三小隊の機体、出力リミッターの解除とバイパスの直結完了よ! ただし、ジェネレーターの冷却が追いつかないから、連続稼働は二十分が限界。それ以上は機体が溶けるわよ!」

 顔を油まみれにしたエレナが、巨大なレンチを肩に担ぎながら団員たちに怒鳴り散らしている。


「す、すげえ……! エンジンの唸りが全然違う! これならいけるぞ!」

 巨漢のバークスが機体の前で歓喜の声を上げていた。


「まったく、元アレスの技術将校サマをコキ使うなんて、世界一贅沢ぜいたくな貧乏傭兵団だな」


 俺が苦笑しながら歩み寄ると、エレナは作業着の袖で額の汗を拭い、フッとつややかな笑みをこぼした。


「貴方が『実家』のために一肌脱ぐんでしょう? なら、専属メカニックとして私も最高の仕事をするだけよ。……さあ、主役のお出ましね」

 エレナの視線の先。


 分厚いカモフラージュネットが払われ、黒のレガリア『ノワール』が、その漆黒の巨躯きょくを荒野の空の下へと現した。


 バジリスクから得た超高密度合金で胸部装甲を強化し、ロキのガレージで完璧なオーバーホールを終えたばかりの、完全な姿。


 俺はタラップを駆け上がり、コックピットへと滑り込んだ。

 シートに深く身を沈め、操縦桿そうじゅうかんを握る。


『システム・オンライン。戦術領域タクティカル・グリッド、広域展開。ザックから送られた黄昏たそがれの採掘場の座標、同期完了よ』

 網膜の隅で、セリアのホログラムが扇を広げて優雅に微笑む。


「頼もしいぜ、相棒。……だが、相手はアレスの最新鋭機を揃えた殲滅せんめつ部隊だ。いつもの安い鉛玉じゃ、分厚い装甲をぶち抜くのに手間取る」


 俺はコンソールのサブパネルを開き、武装の選択メニューから特定のロックを解除した。


 機体が重く駆動し、ノワールが背部にマウントしていた巨大な銃剣『ノワール・ブラスター』を右手に引き抜く。


 ガコンッ!


 重々しい金属音と共に、巨大な銃身のブリーチ(薬室)が横へとスライドして開いた。


 俺はマニピュレーターを精密に操作し、ノワールの腰部アーマーに隠されていた特注のウェポン・ラックから、一本の巨大な円筒形の弾薬を取り出した。


 鈍い真鍮しんちゅう色の薬莢やっきょうに、青白いマナのラインが幾何学的に刻まれた、対重装甲用の『徹甲てっこうブラスターカートリッジ』。


「……、ヴァンス。あんた、それを使う気!?」

 通信機越しに、エレナが信じられないものを見るような声を上げた。


「それ、この前のニケ・ハーバーの裏市場で、私が冗談半分でカタログを見せた『対艦用』の特注弾じゃない! 一発で、このガレージの家賃半年分は吹っ飛ぶ代物よ!」


『あら。マスターの口座からごっそりクレジットが引き落とされたと思ったら、こっそりこんな無駄遣いをしていたのね』

 セリアが呆れたように溜め息をつく。


『契約金ゼロのボランティアで、自腹でそんな高価な弾薬を撃つなんて。傭兵としての計算式が完全に破綻はたんしているわ』


「うるせえ。親父への長年のツケを払うんだ、ここでケチな真似はしねえよ」


 俺は無精髭ぶしょうひげの奥で不敵に笑い、ノワールの指先を動かした。


 ガチャンッ!!


 高価なブラスターカートリッジが薬室に装填され、ブリーチが重々しく閉鎖される。


 機体全体に、弾薬から漏れ出す微弱なマナの余波がビリビリと伝わってきた。引き金を一度引けば、アレスの最新鋭機だろうが、山ごと消し飛ばせる破壊力が宿っている。


「外したら俺の酒代から引いとけ。……行くぞ!」

 俺はノワールの外部スピーカーを最大にし、キャンプ全体に響き渡る声で怒鳴った。


灰犬アッシュ・ハウンドの兄弟ども、よく聞け!」


 広場に集まったザックやバークス、ウェッジたち傭兵が一斉にこちらを見上げる。


「敵の重装甲機は、俺のドン亀とエレナの狙撃で全部引き受ける! お前らは俺たちの背中に隠れて、残った雑魚どもにありったけの鉛玉をブチ込んでやれ!」


「「「おおぉぉぉッ!!」」」

 傭兵たちの、士気を限界まで引き上げる咆哮ほうこうが荒野にとどろいた。


 テントの入り口では、杖をついたガルドが、目を細めて俺たちの出撃を静かに見送っていた。


 俺はノワールの単眼センサーを一度だけ親父に向け、不器用な瞬きで合図を送った。


「泥臭い狩りの時間だッ!」


 スロットル全開。


 ノワールとヴォルフ・ハウンドを先頭に、灰犬の部隊は土煙を上げ、血と硝煙の待つ『黄昏の採掘場』へと爆風のように駆け出していった。

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