第3章:荒野の歓迎、あるいは死の舞踏
メインモニターの砂嵐の向こうから、三つの無骨なシルエットが姿を現した。
ツギハギだらけの魔導鎧。アレス・セキュリティの小遣い稼ぎに雇われた野盗どもだ。肩や腕に不揃いな重火器をマウントし、下品な排気音を撒き散らしながら扇状に包囲してくる。
「……ヴァンス! 敵よ、三機もいるわ!」
後部シートでリリアが悲鳴に近い声を上げた。彼女の声がわずかに上ずっている。
「落ち着け。ただの歓迎のパレードだ」
俺は操縦桿を軽く握り直し、フットペダルに足を置いた。無精髭の奥で唇がわずかに吊り上がる。
『ヴァンス、敵機の武装は旧式の実弾と劣化マナ・レーザーよ。被弾すれば、この偽装装甲でも塗装が剥げるわね』
「エステ代が高くつくからな。傷一つつけずに片付けるさ」
俺が鼻で笑った瞬間、敵の三機が一斉に火を噴いた。
無数の曳光弾と赤いレーザーの線が、殺意の網となって迫り来る。
俺はペダルを浅く踏み込み、操縦桿を滑らせるように動かした。
鈍重に見える漆黒の機体が、フワリと横へ滑る。
「え……?」
リリアが息を呑むのが背後から聞こえた。
これは力任せの回避じゃない。敵の射線とタイミングを完全に読み切り、重心移動だけで紙一重の隙間をすり抜ける『歩法』——俺の流儀だ。
巨大な鉄の塊が、ワルツを踊るように優雅に、かつ不気味な静けさで弾幕を躱していく。
これが『ガン=カタ』。最適解の暴力。
一瞬のステップで敵の懐に潜り込んだ俺は、背部の巨大な銃剣を引き抜いた。
「まずは一機」
無骨な銃身を、目の前の敵機の顎下——首の関節部へと冷徹に突き入れる。
「なっ——」
野盗の間抜けな声と、俺がトリガーを引くのは同時だった。
ズドンッ!!
至近距離からの極大鉛玉が、敵機の首を根元から吹き飛ばした。頭部を失った魔導鎧が、火花と黒煙を噴き上げながら膝から崩れ落ちる。
休む間もなく、俺は操縦桿を捻った。
崩れ落ちる一機目を盾にし、二機目の射線を遮る。その死角から、巨大な銃剣を横薙ぎに振り抜く。
ガガガガァッ!!
装甲が裂ける嫌な音が響き、二機目の胴体が真っ二つに分断された。
「漆黒の重装甲に、このデタラメな機動……まさか、てめえ……ッ!」
残る最後の一機が、通信越しに絶望の悲鳴を上げた。
「『黒い死神』……! なんで荒野の死神が、こんな所に……ッ!」
――『黒い死神』。
壁の外を這いつくばる者たちにとって、それは「絶対の死」と同義の通り名だった。
野盗が恐怖でパニックを起こし、機体を後退させようとする。
だが遅い。
俺はスロットルを全開にし、前傾姿勢で突進した。一瞬で背後に肉薄し、漆黒の左手で首根っこを乱暴に掴み上げる。
「悪いな。俺の契約書に、命乞いの項目はねえんだ」
銃口を後頭部に押し当て、二度目の引き金を引いた。
三つ目の首が吹き飛び、荒野に鉄屑の雨が降る。
戦闘開始から、わずか数十秒。
砂煙が晴れた頃には、三機の野盗はただの燃える残骸に変わっていた。
コックピット内は、異常なほどの静寂に包まれていた。
「……嘘、でしょう」
リリアが震える声で呟いた。彼女はシートベルトを握りしめたまま、青ざめた顔でモニターを見つめている。亜麻色の髪が汗で額に張り付いていた。
『お見事。相変わらず、泥臭くてエレガントなダンスね』
セリアのホログラムが、優雅に拍手を送ってくる。口元にはいつもの薄い笑みが浮かんでいた。
「……さてと」
俺は大きく息を吐き出し、傷だらけの指でコンソールのスイッチを弾いた。
メインモニター越しに、首を狩り尽くした荒野の残骸を見下ろす。
「道草は終わりだ。目的地へ急ぐぞ、お嬢様」




