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傭兵と黒の魔女  作者: KK
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第8章:ベルゼルクの覚醒

「ミラッ!!」

 ライオスの悲痛な叫びが通信機を裂いた。


 ドームの壁面に激突し、機能を停止したミラの白銀の機体。その頭上に、毒蜥蜴バジリスクが音もなく舞い降りる。


 ジュウウゥ……ッ!


 バジリスクのあぎとから、強酸性のプラズマがミラのコックピット・ハッチへと滴り落ち、装甲をドロドロに溶かし始めた。ハッチの隙間から、青白い熱気が機内へと侵入していく。


「お兄ちゃん……動けない……ッ」

 ミラの、恐怖に震える声。


「ミラ! 今助けるわ!」

 エレナがヴォルフ・ハウンドのスラスターを吹かし、ライフルを連射する。


 だが、バジリスクは鞭のような尾を一閃し、放たれたレーザーを物理的に弾き返すと、ギョロリと単眼センサーをエレナへと向けた。


 シュッ……!


 残像すら残さない速度。

 次の瞬間、エレナの機体は至近距離から放たれた体当たりを喰らい、装甲を大きくひしゃげさせて吹き飛ばされた。


「エレナ! くそっ……ッ!」

 ライオスが高台からライフルを構える。


 だが、バジリスクはその異常な動体視力で照準を予測し、挑発するようにミラのコックピットの上で体をくねらせた。


 これ以上狙撃を続ければ、妹の機体ごと撃ち抜くことになる。ライオスの指が、引き金の上で凍りついた。


「……ゴホッ! ウガッ……ガハッ!!」

 最悪のタイミングで、ライオスの病が発作を起こす。


 彼は血の混じった唾液を吐き捨て、激しい喘鳴の中でスコープから目を離した。


 全員、沈黙。


 右腕に武器を失い、岩盤にめり込んだままのテッカブラIIIの中で、俺は己の無力さに唇を噛みちぎった。


 ミラのコックピット・ハッチが、酸で完全に溶け落ちた。


 剥き出しになった彼女の小さな体が、バジリスクの巨大なプラズマ顎に飲み込まれようとしている。


「……やめろ……ッ、やめろォォッ!!」

 俺はテッカブラIIIの操縦桿を力任せに引き絞った。


 動け、動け、動け! 俺のドン亀! 俺の体!


『――ヴァンス! 脳の神経結合レベル、異常。……生存本能によるリミッター解除を開始します。安全のため、私が強制同期……』


「黙ってろ、ポンコツAI」

 俺はセリアのアナウンスを遮った。


 生存本能による自動解除など、三流のプログラムに相棒たちの命を預ける気はない。


「……脳のリミッター? そんなくだらねえ『壁』、俺のこの不愉快な記憶と、泥臭い己の技量《ガン=カタ》で……」

 俺は視界の端で、脳内の『精神的な壁』へと意識を伸ばした。


 アレスの研究所で刻み込まれた、実験体としての忌まわしい記憶。

  その後、俺は逃走して傭兵の義父に拾われ、相棒セリアと出会った。

  人や仲間とのつながり……

 それらが、俺が「人間」として留まっていられた理由だ。


「俺の身内に手を出すなよクソトカゲ!……リミッター?手動マニュアルで、こじ開けてやるァァァッ!!」


 パキィンッ!


 頭蓋の中で何かが物理的に砕ける音が響いた。


 脳神経が灼熱の激痛に焼けつき、全身が沸騰する。


 視界が一瞬で血の赤黒に染まり、世界が歪んだ。


『SYSTEM STATUS: CRITICAL ERROR』


『NEURAL LIMITER: DEACTIVATED BY USER』


『ACTIVATE CODE: BERZERK MODE』


 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!!


  心臓が獣の咆哮を上げ、狂戦士の血が全身を駆け巡る。


  理性が焼き切れ、獣の衝動だけが残った。


「……ギィァァァァァァァァァッッ!!!」

  俺はコックピットの中で、喉が裂けるような咆哮を上げた。


  岩盤を粉砕し、テッカブラIIIが立ち上がる。機体が、俺の狂気と共に咆哮を上げている気がした。


 シュッ……!


  バジリスクが反応するより早く、俺は突進した。


「ギィッ!?」


  左腕でバジリスクの顎を掴み、凶暴にこじ開ける。金属が軋み、火花が散る。


  右腕のパイルバンカーを脳天に叩きつけ——!


 ズドォォォンッ!!


 楔が頭部装甲を粉砕し、内部回路を肉塊のように抉り出す。


「ギィィィィィッ!!」


 バジリスクがのた打ち回るが、俺は背中に飛び乗り、 無骨な右腕で鞭のような尾を掴んだ。


「ブチ……ブチブチブチブチッ!!!」


  力任せに引きちぎる。金属の悲鳴と火花が飛び散り、千切れた尾を戦場に叩き捨てる。


  狂気がさらに加速する。


 俺はバジリスクの胸部に右腕を深々と突き刺し、継ぎ目を抉りながら引き裂いた。


「これで終わりだ……デカブツィィィィッ!!」

 ゼロ距離でパイルバンカーの撃鉄を絞る。


 ズガァァァァァァァンッッッ!!!!


 内部で爆発した破壊エネルギーが、バジリスクの巨体を内側から木っ端微塵に吹き飛ばした。


 断末魔の金属悲鳴が響き渡り、毒蜥蜴はただの焼け焦げた鉄屑の山と化した。


 硝煙の中、全身ボロボロのテッカブラIIIがゆっくりと立ち上がる。


 俺の視界は赤黒い狂気の残滓を残したまま、徐々に元に戻っていく。


「……ヴァンス?」


 ミラがハッチから顔を覗かせ、恐怖と驚愕の目で俺を見つめる。


 俺はひしゃげた操縦桿を握りしめ、激痛と疲労に全身を震わせながら、血の混じった薄笑いを浮かべた。


「……無事か、嬢ちゃん」

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