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虚無的な俺は、今日も善行する  作者: 結逸夢弐


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Episode6 - 虚構(フィクション)

 元気かお前らー! えっ? 俺が誰かって? 何だよ忘れちまったのかぁ? 君らがだぁい好きな物語『英有伝説ナロシス・サーガ』の、主人構しゅじんこう『ナロシス=エセッシティ』様じゃねーかよぉ~♪


 記憶力に難のある君らのために改めて説明すっと、俺はここ『意世解いせかい=エスカピス』で『善行値=アヘテー』を溜めて、来世では”女神さま”――かどうかは知らねーけど――に、『信世解しんせかい=ユードミア』に連れてってもらおうっつー野望に燃える『選ばれし有者ゆうしゃ』なんだけどな?


 今は隣国『ジャミェイヴ汪国おうこく』が『魔謳まおうアフォリア』に蹂躙されてるってなことで、相棒の『誓剣せいけんオナトゥス』とともに故郷『ディジェイヴ旺国おうこく』を後にし、冒険の旅に出てるってな状況だ(こらそこ! 固有名詞ばかりで覚えられるわけねーだろって顔しない!)。


 そしてここからが新しいお話! その都度待ち受ける障害を取り除きながら、順調にアヘテー稼ぎに邁進――もとい、ジャミェイヴへ向け進行――していた俺は、道中、己と馬の休息のために、『アーネミーシス』っていうヘンテコな村に立ち寄ることになったんだ。そこは村人のほとんどが『ナルコレプシー』とか『特発性過眠症』とか『睡眠時遊行症』とかの睡眠障害を患っている村で、俺が借りようとしていた宿屋の亭主でさえ、受付中に寝落ちしてぶっ倒れるほどの、凄まじい狂いようだった。


 だがどうもその睡眠障害、原因はその土地の地盤に埋まっている『アラネムイワ』とかいう鉱物らしくて、そこから発せられる強大な魔力が、村人の脳波に干渉して起こっているみたいなんだ(なぜ分かるかって? それは誓剣オナトゥスが教えてくれたからだ。前に言ったろ? こいつは俺の”絶対的優位性”だって。困ったことがあれば、すぐにカタカタ震えてテレパシーで助言をくれるんだ)。


 なかでも、この村の中心にまつられている『アラネムイワの巨大な原石』が、悪影響のほとんどを担っているとかで、村人の健康のことを考えれば、早急に取り除くべきだと言うんだ。俺は早速その岩を破壊しにいこうとしたんだが、何でもその岩、この村の住人たちには『ネムイワ様』と呼ばれ崇められてるらしく、実物はかなり強力な防御結界に守られてるようだった。


 そこで俺は、村長にその結界を切るよう頼みにいくことにした。だが健闘虚しく、村長は「偉大なネムイワ様。何人たりとも触れるべからず」の一点張りで、動いてくれそうもない。ムキになった俺が、「けど、それじゃあんたら、一生狂ったままだぜ?」と言うも、村長は「そんな深いこと、考えたこともねぇ」と、すっかり脳を侵食されてる様子だった。


 落胆しながら宿に戻っていた俺の元に、先日『ジャミェイヴから逃げてきた』って言う一人の娘が話しかけてきた。「既視きし様、既視様! もしやあなたは、これからジャミェイヴへ加勢に行く既視様ではありませんか!?」対して俺が「そうだ」と言うと、その娘は祖国の戦況と、自身の身の上話を聞かせてくれた。


 彼女いわく、魔謳アフォリアの軍勢は瞬く間にジャミェイヴ全土を陥落させ、すでに王様や家臣たちのほとんどが殺されてしまい、事実上ジャミェイヴはアフォリアの軍門に下っている状況だと言う。彼女は一人、命からがら戦地を脱してきたらしいが、その際『一匹の猫』を見つけたとかで、救える命は救おうとの観点から、その猫を拾ってきたらしいんだ。


 彼女の抱え持つ猫が「ニャーン」と鳴く。毛色は青みがかった灰色で、目の色はブルー(ま、そんときは夜だったから、街灯の光だけでは正確な色までは分かんなかったけどな)。その身は紺色の布(彼女が言うには、それは”マント”らしい)にくるまれ、首には『金色の指輪の付いたネックレス』が掛けられてる。


 彼女はそのマントと指輪が、ジャミェイヴ国の王子『ディペイズマン』が召していた物と瓜二つであることから、その猫に『ディペイズニャン』とかいう妙ちくりんな名前をつけては、やがて流れ着いたこの村で、数日身を寄せ合って生き抜いていたようだ。それを聞き、試しにその指輪を観察してみることにした俺は、すぐにそれが『本物の王家の指輪』だと気づいた。なぜならその指輪には、紛れもなく『王家の紋章(国と民への忠誠心を象徴する紋章)』が刻まれていたからだ。


 「この指輪は本物の王家の指輪だ。もしかしたらこの猫も、王族の飼い猫かも……」俺がそう言うと、娘は指輪を”猫ごと”差し出して、「でしたら、どうぞ”この子”をお連れになってください。王家の物をわたくしが持っているわけには参りません。それにこの子も、私のような無一文の娘といるよりも、あなたといた方が安全でしょう」仕方なく俺は猫を引き取り、代わりに娘にいくらかの金銭を恵んだ後、宿に戻っていくのだった……。


 そして明朝! メシを食って歯を磨いて、顔を洗った後に俺は、猫と剣を携えて宿をチェックアウトしていた! 目的地はもちろん、魔謳軍が待つ悲劇の国ジャミェイヴだ! っとその前に、ちょっこらこの村の『守り神』とやら、殺しに行きますかっ――ってなわけで、巨大な魔石の岩の前にやってきた俺は、颯爽とオナトゥスを鞘から抜いて、渾身の必殺技を繰り出すのだった!


 「『ソンドレイワ・カトゥルシス』!!」


 ズバァァァァァンッ!!! 強烈な光が大地を裂き、ネムイワ様は一刀両断真っ二つ! その魔力ともども断ち切られ、文字通り『永眠』なさることとなった! そう、昨日は村人たちへの礼儀として結界を解くよう頼みにいった俺ではあるが、ぶっちゃけこの程度の結界、ひと太刀に切り捨てるのは造作もないことだった! さぁて、これで心置きなく旅立てるぜ。そんじゃ行こうかオナトゥス、そして灰猫っ――。


 爆音に驚いて現場までやってきた村人たち。みんな次々と神の死を目の当たりにし、失望と悲嘆に暮れ始める……けどまぁ、いつか分かってくれんだろ? 会話中にいきなりぶっ倒れたり、夜寝てる間に勝手に殺人したりしなくなるわけだからさっ! だから感謝こそしても、間違っても俺を恨んだりしないでくれよぉ? 頼むからな――って何だよその目はっ!! しかもそんな不気味な速度で凶器(農具)持ち上げたりして……これってやっぱし、『やっぱしな状況』なのかーっ!?


 「皆の者ー!! あやつがネムイワ様を死に追いやった張本人じゃー!! 捕まえて血祭りに上げよー!! 出合えー! であえー!!」村長のそのひと言で、村人たちは暴徒と化し、一斉に俺めがけて襲い掛かり始める。俺は「やっぱこういうオチかよぉー!!」と叫びながら、一散に街を駆けていき、やがて自分の馬に飛び乗っては、ならず者のごとく村を後にするのだった。


 そしてその途中、昨夜出会った町娘(数日前に来たばかりだけど)が俺の方を見ながら、旅の安全を祈るように手を組んで、微笑んでくれてるのが見えた。そのとき俺にはハッキリと聞こえた。『ご武運を!』と囁く、彼女の祈りの声――別れの言葉が! 俺は勇ましく前を見定めながら、嬉しそうに顔を綻ばせては、同じようにテレパシーで彼女に、感謝を気持ちを届けるのだった。


 『おう! サンキューな!』



 ――と、いう夢を見た……”また”……。シングルベッドの上に横たわりながら、まだ断片的に微睡まどろみつつも、今しがた見ていた夢の世界へと思いを馳せている俺は、徐々に脳が覚醒していくに従い、また虚しい一日が始まろうとしていることを悟るのだった。

 「あぁ……全く……もう”いい”って……」いつものように悪態をつきながら、上体を起こしてボーッとする俺。普段ならその言葉には、『もう起きなくていいって』という意味が含まれてるのだが、今日に限っては違った――先日からたまに見る、『謎のファンタジー世界の夢』に対して出たセリフだった。

 ナロシス、エセッシティ……ソンドレイワ、カトゥルシス……マジで意味不明な固有名詞ばかりだ……しかもああいう『俺TUEEE』的な世界観は、正直苦手なんだがな……とは言え、夢にまで見るってことはつまり、俺の心の奥底にも、『そういう主人公になりたい』って安直な願望が、あるってことなのかねぇ……(ま、誰だってサクッと英雄になれるなら、そうしたいわな)。

 凄まじいほどの尿意に誘われて、俺はベッドから立ち上がった。


 *(いつものルーティーン! こなすよユージーン♪ チェケラッ!←誰やユージーンって)


 2026/03/28(土)11:29。名古屋市・千種区・今池のとあるアパートの一室にて。俺、『虚無ニヒリティ』の一日は、こうして始まった。昨日は『ストーカーの美青年』に『弟子になりたい』とか言われて、上手く言いくるめられたあげく承諾し、さらにはそいつに『虚偽フォルシティ』とかいう徒名あだなまで付けてしまった俺だったが、あれこそがもはや夢なのではないかという疑いを、今になって覚えてしまっている……。

 そう、きっとアイツは『妖精』だったんだ……。毎日まいにち虚しい善行を繰り返し、たまに夜眠れなければ哲学書を読み漁って、やっとこさ眠りに就いたと思ったら悪趣味な夢にうなされて、あげくこんな遅い時間に起床しては、こうやって朝食に『シリアル』ばかり食べている俺のことを心配した誰か――たぶん猫の『虚費ウェイスティング』だろう――が、俺を慰めるため妖精となって姿を現したんだ……。でなければ、あんな”都合よく”俺を慕ってくれる人間が現れるはずもない……。


 朝食と雑事を終え、満を持して本日の『救済』を始めようとする俺だったが、朝食中に見ていたニュースでは目ぼしい”ターゲット”は見当たらなかったので、今度はスマホのSNSアプリを使って”サーチ”してみることにした。本当に困っている人は『死にたい』とか『消えたい』とか、何かしらのSOS信号を発しているものなのだ――案の定、今日もネットの海にはそういう投稿が溢れかえっている。

 ただしその投稿そのものに、すでに多くの反応が寄せられているのであれば、それは救済対象にはなり得ない。なぜなら彼らはすで、一定の報酬を受け取っているからで、なかには正真正銘の『かまってちゃん』だっているはずだからである。探しているのは、『慢性的な希死念慮に襲われつつも、誰からのサポートも受けられていない人』である。そして概してそういう人物は、ネットの世界でも人付き合いが苦手である――。


 『死にたい……自分は生きていても何の意味もない存在だ……どうして生まれてきたんだろう……』


 言ってる傍から、お誂え向きな投稿が見つかった。早速この人の素性を調べてみよう――うむ……どうやらこの、『ミルヘルツィア・シュタインブルック』という人は(攻めた名前だな……)、『MIURE-ミューア- 宇宙最後の惑星ザ・ラスト・プラネット』というWeb小説を書いている作家さんのようだ。見たところフォロワーも読者もあまりいないようで、その投稿内容や語り口から察するに……恐らくは男性である。

 俺は創作についてはからっきし門外漢もんがいかんだが、クリエイターというのは相当に辛い仕事のようだ。この『ミル、ヘルさん?』の過去の呟きを見れば、それが一目瞭然だ。


 『創作なんか苦しいだけ。本当に読んでくれるのは数人だけで、ほとんどは同業者の偵察。時にバッド評価を置き土産してくる』


 そ、そういうもんなんかね……?(汗)


 『身内バレするのはデメリットでしかない。仲の良い友達でさえ、本当に自分の内面を分かってくれるわけじゃないと失望するだけ。時にバッド評価を置き土産してくる』


 や、やっぱ作家界隈では、『こういうの書いてみたんだ~。読んで感想聞かせて~』みたいなやり取りって、よくあることなんかね……?


 『読者からの誤字報告がイラつくって言ってる作家がいるけど、読んでもらえてるだけ羨ましいわ。自分は誤字報告すら貰ったことがない。わざと大量に五時仕手見様仮名』


 何か読んでて悲しくなってきたわ……。


 『生きていても良いことなんか一つもない。毎日まいにち辛いことばかり。喜びはちょっとだけなのに哀しいことが多すぎて、暗い部屋ひとり寝る夜が怖くて、なぜだか忘れたいことばかり思い出す。そして愛すべき人たちはいつも、手の届かないところにいる』


 くっ……共感を禁じえん……そこはかとなく『同類』感が漂っている……。ならまぁ、決まりだな――今回のターゲットはこの人ってことにする。とりあえずはこの人の作品でも読んでみて、適当に好感触な感想でも送ってみよう――あポチッとなっ。

 作品が掲載されているWebサイトを開いて、軽くあらすじを読み始める俺……。とは言え正直、あまり気乗りはしていなかった……。昔からどうも小説というものが苦手で、難読漢字や回りくどい言い回し、普段絶対に使わないような鼻につく表現とか、大袈裟なレトリックに溢れてるイメージだからだ(いやまぁ、四文字熟語とかことわざとか比喩とか、使いこなせるのはすごいことなのだろうが)……要するに、受け手にも高度な読解・認知能力が求められるがゆえに、知能的負担が大きいのである。


 そうこう考えながら、一話目を読み始める俺……。なるほど、一話目は『プロローグ』も兼ねているのか……ふむふむ……*(それから12分後)……や、やっと読み終わった……何と言うか、めちゅくちゃ哲学チックだなこれ……いきなり『朝食のソーセージとか目玉焼きの話』から始まったときには、マジで開くページ間違えたかと思ったぞ……。それに全体として、かなり暗い……主人公も暗い……(俺が言うのもなんだけど)。こりゃ相当病んでるな、ミルヘル氏……。

 だがどうやら、主人公は『ミア』という名の男子学生(まだ年齢は不明)で、物語の舞台は『ミューア星』という地球外惑星のようだ。今のところ俺たちのいる世界とそう違わない文明が描写されているが、はたしてこれからどうなっていくのだろう? 微かに香る地雷臭を無視して、俺は二話目を読み始めた。


 *(それから26分後)


 お、終わった……何やらいくつか伏線っぽいものが散りばめれていたが、今回は特に何もなく終わった……それにしても、かなり長く感じられたが、これ、文字数はいかほどなんだ……? 何なにぃ……い、1万5千文字っ!!? 一話目が……約7千文字だから、倍以上あるじゃんかっ!! ちょ、ちょい待ちっ!! この作品って何話まであるのっ――って六十六話っ!!? しかも連載中!! 何てこった……全話こんな長さだったら、とても一日二日じゃ読み切れんぞ……どうする? 引き返すなら今だぞ……。

 だが悔しいかな、二話目にして結構、心掴れてしまった……特に孤独で暗い印象だった主人公が、『唯一の生きる意味』として弟の『ナイン』くんを溺愛している様子は、何とも微笑ましいものがあった!! 喧嘩ばかりの両親、崩壊寸前の家庭……これからいったい、どうなっていくんだ~!!?

 ――しゃーない! 乗り掛かった舟だ! あと何話か読んでみよう! っとその前に、PCを起動しよう――こりゃスマホの小さい画面じゃ疲れるわ。


 *(それからどしたの)


 ピーンポーン♪ ちょうどパソコンで第三話を読み終え、これから俺が第四話に取り掛かろうかとしていた矢先、インターフォンのチャイムが鳴って、その画面に”妖精”の姿が映し出された。おっ、アイツ……夢じゃなかったのか? さも当然のように椅子から立ち上がり、客人を玄関まで迎えにいこうとする俺……。その最中、妖精がインターフォン越しに”はた迷惑な挨拶”をしてくる。

 「ヤッホー虚無ニヒリティさ~ん! 来ましたよ~! 開けてくださ~い♪」

 ばっ、あの能天気猫め……あんなギャーギャー騒ぎやがって……それに外で気安く『虚無』とか呼ぶなしっ!! こりゃお説教が必要だな……キツーイお説教がっ――ガチャンコ。煩わしさと嬉しさの両方を感じながら、俺がドアを開錠して開いてやると、そこに昨日の青年がニコニコした顔で立っていた。相変わらずオシャレな服装に身を包み、未成年かと見紛うばかりの童顔をしている。

 「お前なぁ……いい加減、家の外では大人しくしててくれ……このままじゃ俺、ご近所さんから『変な宗教団体に目をつけられてる、可哀そうな人』かと思われるだろうが……はたまたその教祖なのかなと……頼むから外で『マハー・グル・ニヒリティ』とか『ファーザー』とか『ともだち』とか呼ばないでくれな?」

 そう、早々に俺がお小言をくれてやると、青年は特に悪びれる様子もなく、「えっ? 僕そんな名前で呼びましたっけ?」とトボけたように首を傾げる。こ、コイツめ……いいだろう! なら俺もお前のこと、堂々と『虚偽フォルシティ』って呼ぶからなっ!? したらさぞ周りの人たちは、お前のことを『オオカミ少年』だと思うだろうな? ハッハッハッー、って……んなことしたら俺の方が心証悪いか……。

 世の中の不平等を呪いながら俺は、「まぁいいや。ほれ入りな」と、青年を家内に通すのだった。


 *


 「あー、パソコンしてたんですねー? 虚無きょむさーん?」部屋に入った途端、点いたままになっているPCモニタを発見した青年が、そう言う。もう”ニヒリティ”とさえ呼ぶのが面倒になっているようだ……やっぱ二音の方が呼びやすいって? 黙らっしゃいっ!「エッチなサイトでも見てたんですかぁ~?」青年が興味津々に画面を覗き込む。はいはい黙らっしゃい……。

 俺「そうじゃなくて、ちょっとWeb小説をな……今、その作者の人を救済しようと思ってて、読んでるとこ……ある程度読んだら今度、気の利いた感想コメントでも書こうかと」

 フォル「いいですね! 僕、娯楽には疎いので、ちょうどいい機会ですっ――僕も一緒に読みますよ! コメントは複数あった方がいいですよね?」

 俺「あぁ助かる。あとでこのサイトのアカウント、一緒に作ろう。ただ覚悟しとけよ? 結構長くて暗い作品みたいだから、娯楽慣れしてないならなおさら、途中で挫折することになるかも……」

 フォル「大丈夫ですよ! こう見えて僕、『冗長でつまらない文章読むのは得意』なんです! だから、ドーンと来いです!」

 俺「そ、そうか? じゃあ、読めるとこまででいいから頼むわ」

 フォル「ふぁーいっ!」


 こうして俺たちは、片やPC、片やスマホで、同じ小説を読み始めた。それからは存外、彼が大人しくしていてくれたので、俺は順調に第八話まで読み進めることができた。懸念していた長さに関してだが、以降のエピソードは概ね1万字前後で安定していてくれたので、それほど気にはならなかった。

 肝心のミア(主人公)の家庭は、第三話で夜中に強盗に入られることで、両親もナインくんも一遍に殺されるという、あまりにも突飛で悲惨な結末を迎えることとなり、その後犯人を追って自宅近所の路地に入った彼が、そこで犯人と対峙して、共倒れ狙いの無謀な戦いに臨むといったところで、突然『ファイナ』という謎の生物(小さな妖精みたいな風貌をしている)が現れて、彼の命を救いつつ、どこか別の場所へ『招集(拉致)』していくことになったのだ。

 そして見知らぬ土地(ミューア星上の別の国)に連れてこられたミアは、そこで何人かの”同じ境遇の者たち(いきなりファイナに拉致られた人ら)”と出会うこととなり、ともに奇妙な共同生活を始めることとなる。ファイナが彼らを集めた理由は他でもない、『七日後にミューア星に衝突する(であろう)隕石を阻止するため』であり、ミアたち『七人の選ばれし子ら(年齢はバラバラだが、恐らくほとんどはその世界における未成年)』は、そのために必要な『魔法の力』があると言われて、半強制的にその力を引き出すための訓練を受けさせられることとなる。


 要するに本作は、そんな彼らのドタバタ共同生活を描いた『SFファンタジー』と言った具合で、魔法という概念が出てきはするが、根幹には常にリアリティを置いている印象を受ける(たまに物理データなどが記載されてる)。当初の暗さはどこへやら、四話以降一気に賑やかになる環境。新たなる出会い、新たなる生活……。全てを失って絶望に沈むミアは、そのことに戸惑いつつも、少しずつ適応していき、やがて心の安らぎと幸せを取り戻していく……。

 と、そこまで読んだところで一旦、俺は休憩することにして、同じく小休止を迎えたフォルに飲み物を出してやりながら、「それで、どう思う?」と感想を尋ねるのだった。すると、いつの間にか俺のベッドに寝転んでいた彼が(もういいわ、好きにしろ)、起き上がって伸びをしてから、こう答える。

 「普通に楽しんでますよ? でも、そうですね……ちょっと”もどかしい”って感じはしますね。いろいろと伏線が張ってあって、常に何か起こりそうではあるけど、次から次へと時間が進んでいくから、何から処理していいのか分からない、そんな感じの印象を受けます。たぶんこの作者さん、事前に物語を作るための『設計図』みたいなのを、書いてないですね」

 俺「あぁ、たしかあの、『プロット』ってやつか……それは俺も感じた。まぁ、だからこそ、予定調和的な不自然さがないのが、逆にいいって思う人もいるんじゃないか? 少なくとも作者自身、そういうアドリブが好きなタイプなんだろう……」


 フォル「でしょうね……。その場その場で作者さんが考えていることが、各エピソードに最大限反映されている気がします……。そしてその根幹にある願望は、『既存の枠組み、既存の世界からの脱却』……三話目のあれがまさにそうです。ミルヘルさんはミアという主人公――と言うか、あの世界そのもの――に、自身の精神性全てを投影しているんです」

 俺「『魔法』の存在、もな……意味するところは、『不可能からの超越』……とは言え、そんな願望は誰もが持ってる、普遍的なものではあるがな……。どうだろう? ここいらで一発、コメントでも出しておくか? 二人一遍だとあれかもだけど、『善は急げ』とも言うしな?」

 フォル「ですね! じゃあアカウント作りましょう!」


 *


 ってなわけで、二人してサイトに会員登録し、初コメントを出すことになった。以下がそのコメント文である。

 俺(第八話に対して)『友達と一緒に楽しく読ませていただいてます。まだ序盤ですが、お気に入りのキャラクターはファイナです。彼女はもう成長しないかもしれませんが(笑)※、ミアたちのこれからの成長は楽しみです! どうぞこれからも、執筆活動頑張ってください!』


 ※と言うのも実は、ミアたちの前にも召集は行われていたとのことで、ファイナは千年前に招集された『第二世代』唯一の生き残りであるからして、年齢としては千歳を超えているのだ。今のところバトルらしいシーンはないが、本作きっての強キャラに位置付けられているのは間違いない(ちなみに胸の大きさも、本作トップクラスだ)。


 フォル(第七話に対して)「『セトナ』ちゃん超可愛いです~!!(ハートの目の絵文字) でもあんまり戦ってるシーンが想像できない>< 招集された時点での魔力順って、どうなってるんですぅ~?」


 ※セトナちゃんとは、同じくファイナから招集されたメンバーの内の一人で、ミアたちが共同生活を送る拠点となる家の家主でもある、『見目麗しい男の娘キャラクター』だ。誰よりも『心優しい人物』として描かれており、これからメイン・ヒロインの一人として、ミアとはイイ感じの仲になりそうな予感が……。


 コメントを出した後、また続きを読み進めていく俺たち……。結果としてその日、解散する17時までの間に、俺は第十八話まで、フォルは第二十四話まで読み進めることができた(彼は読書スピードがかなり速い)。その都度新しいコメントを、各々好きなタイミングで書き込んでいったが、その日とうとう、作者からの返信が来ることはなかった……。


 *


 そして次の日。いつもならこの『日曜日』は、俺も救済をお休みすることが多いのだが、その日は朝から嬉しいサプライズがあったので、俺は嬉々としてまた、PCの前に座っていた。そう、何と昨晩(深夜)の内に『ミューアの作者から、複数の返信コメントが届けられていた』のだ! どれも親切・丁寧な内容で、時折質問への回答や余談を交えながらも、最後には必ず、『読んでくれてありがとう』という感謝の気持ちが綴られていた。

 これには俺も感激して(この手の救済が、いつも”そう”だとは限らない)、すぐ新しいコメントを送信しては、そのことをフォルに報告する他ない(彼の元にも返信があったことは、サイトのコメント欄からすでに分かっていた)――すると案の定フォルも、それに気づいて喜んでいるようだった。

 その日は集合こそしなかったが(日曜なので)、俺たちはその後もテキストで連絡を取りながら、往々にして作品の話で盛り上がりつつ、各々のペースで続きを読み進めていった。


 フォル『第二十八話読みました? 『イクシュオ』vs『シンクシリア』、めっちゃ良くなかったですか!? 『やっとバトルらしいシーンが来た』と思いました(笑)』


 ※イクシュオとは、招集メンバーの一人である『エクスタリア』という少年に乗り移っている邪悪な意志(人格)。かつて存在したファイナたちの敵の残留意識であり、どういうわけかエクスタリアくんのなかに転生することに成功し、現世で何か暗躍しようとしている。一方シンクシリアはエクスくんの姉で、そんなイクシュオの野望を阻止するべく、弟の身体と悲しい戦いを繰り広げる。


 俺『あれはマジで燃えた。結末は悲しかったけど……(涙) それよりあれ読んだ? 三十話の『魔法の原理 完全版』! 何か、突拍子もない謎理論なのに、妙に納得しなかった?(爆笑の絵文字)』

 フォル『あーあれですね(笑) あの『クリプトン原子』がどうとか、『電子遷移』がどうとかってやつ……。僕は理系じゃないので、ああいう話は丸っきり意味不明でしたよ~(汗垂らした絵文字)』

 俺『同じくw ミルヘルさんいわく、あの『DNAダブル・クリプトン・クラスレート』っていうアイディアは、『宇宙人ユミットからの手紙』っていう本に影響を受けた(と言うか、ほぼ借用した)らしい。基本的にミューアの宇宙観は、その本のをベースにしているとか』

 フォル『マジですか? え、あの『ノーティシャンケ機構』とかいうメタ意識場の理論も?』

 俺『あれは『パン・サイキズム』と『ヒッグス機構』を合成して作ったらしい。そしてクリプトン二量体ダイマーの励起・イオン化状態を高次元意識に対応させたのは、もうそれしかクリプトン活かす手段思いつかなかったからとか(笑)』

 フォル『もうご本人さんも、”魔法”のひと言で片付けたかったでしょうね……(苦笑い絵文字)』


 フォル『祝、ミア覚醒ですね! 『第一極限励起状態』になったミアが強すぎる! それにしても、『完全なる5次元意識に目覚める』って、どういう感覚なのでしょう?』

 俺『痺れたね! やっぱああいう土壇場での覚醒はカッコイイわ。5次元意識か~。直感的には、『未来を時間面に沿って全て見渡せる』とかかな? それで何であんな物理限界を突破できるのか不明だけど(笑)』

 フォル『ですよね笑 それならファイナたちが目覚めてる6次元とか7次元とかって、もうその宇宙内の全事象を選択可能になるレベルなんじゃ……』

 俺『そこまで超越しているとか、もはや神だよね……あ、『セシアス(※ミューア星の属する銀河系を統治している人。第一世代の生き残りでファイナの師匠)』は女神だったか』

 フォル『インフレしすぎると理解追い付かなくなるので、ほどほどにしてほしいですね笑 僕はやっぱり、ほのぼの日常シーンが好きです(まったり絵文字)』

 俺『セトナのこと好きなら、お風呂のシーン興奮したでしょ?(ニヤリ絵文字)』

 フォル『し、してませんよー?(図星)』


 そして後日(月曜日)は、また集まって救済することになった俺たち。土曜日同様、黙々と小説を読んでは、感想を書いたり駄弁ったりして過ごした。


 俺「隕石はやっぱファイナの差し金かw 単なる試練テストにしては規模がデカすぎるだろww」

 フォル「でもあれくらい切羽詰まった期日作らないと、短期間で強くなれないと思ったんでしょうね?w とにかく、みんな覚醒できてよかった! 『アンフェリッド(※招集メンバーの一人である青年。セトナの幼馴染。ミアの恋敵)』と『リマージュ(※同。最年少の少女)』はともかく、『ウィエリー(※同。最年長の青年女子)』とセトナちゃんは絶対無理だと思ってましたもん」

 俺「確かに。でもその分、エクスくんが無理だったのは残念だったね……。まぁ、彼は力はほとんどがイクシュオ由来だったし、奴の意識が”ぬいぐるみ”に転換された時点でほぼ一般人になってしまったわけだから、仕方ないか」

 フォル「たぶんまた憑依させて闘ってくれると思います! イクシュオもぬいぐるみに囚われたままだと、戦闘能力皆無でしょうし笑」

 俺「”Tedテッド”状態だしなw ミルヘルさんも作中でTedネタ使ってたしww」

 フォル「あれは僕もたまたま知ってましたww 有吉さんが声優やってた大人向けな映画ですよねw」

 俺「そうそうw あぁいうオマージュは割と笑えるww はぁー……ともあれ、『ディヴァンジックさん(※最後の招集メンバーである少年。その正体はかつてファイナと戦友だった第二世代の猛者。イクシュオと同じく転生して現代にいる)』もいるし、ミューア勢力強すぎだわ。これから外来生物との衝突とかあんのかな?」

 フォル「いちおう想定はしてるでしょうね? 『そのために備えてる』ってファイナさんも言ってましたし、彼らは『ミューアの守護者』ですから」

 俺「あんなヤバい奴らしかしない惑星、誰も攻めて来ないだろww」


 さらに次の日の火曜も、俺たちは救済に精を出していた(もはやただ小説にハマっているだけ)。


 俺「やっと『リッタ』たちと『ワルト・ルノエス・レマ』の戦い始まったね。さてどうなるやら」

 ※リッタとは、ミューア政府の大統領であり、エクスタリアくんの父。ミアたち招集メンバーとは別枠での主人公。

 ※ワルト・ルノエス・レマとは、ミューア社会の秩序を破壊しようとしている秘密結社。首領は『インシエム』という第一世代の生き残りの女性(力の大部分はセシアスに奪われてる)。

 フォル「問題なく解決すると思いますよ。あっちサイドで未知数なのはインシエムくらいで、他は一般人――せいぜい科学者とかハッカーとか大企業の幹部とかでしょうし」

 俺「いや分からんぞ? 『ノクヌス氏(※リッタ大統領の友人にして、彼の屋敷の元スチュワード。さらに元警察のエリートでもある)』みたいな格闘技に長けた人がいるのかも!」

 フォル「もうファイナさんに頼みません?w 数秒で片付くと思いますよ?w」

 俺「でも地上のイザコザには感心ないんだろうね、あの人は……w ”天使”だからww」


 そうしてワルト・ルノエス・レマとの決着が着いた後、次の脅威として『エイヌル』とかいうヤバすぎる敵が現れる。エイヌルはインシエムの崇拝する第一世代の生き残りで、かつてミューアの王(セシアスの想い人)と敵対し、辛くも王を殺めた後、激昂したセシアスにより封印されていた(マイクロ・ブラックホールのなかに閉じ込められていた)男だ。

 しかしその封印をついにこじ開けることに成功したエイヌルは、真っ先に駆けつけてきたセシアスと再び相対することとなる。そして一騎打ちの結果、エイヌルが勝利を収め、彼は数年ぶりに(いちおう浦島効果がある)ミューアの地に降り立つこととなる(ずっと浮いてはいるけど……頭を下にして……)。


 フォル「もう終わりですよミューアは……あんなやつに勝てる人いませんよ……」

 俺「セシアスが負けるくらいだからな……たぶんファイナでも無理やな……」

 フォル「みんな素粒子にされちゃいますよ!(※エイヌルはかつて奴隷として生まれた境遇から、この世に強い憎しみを抱いており、全てを無に還そうとしている。物質を量子レベルで切断する魔法の剣を使って、一瞬で相手の存在を葬り去る)」

 俺「まぁ落ち着け! 総力戦なら多勢に無勢だ! 事の顛末を見届けようぞ!」


 そしてエイヌルの恩寵により力を取り戻したインシエムも加わり、『第一世代2人』vs『第二・第三世代8人』の熾烈な戦いが繰り広げられる。構図としては『ファイナvsインシエム』と『エイヌルvs他7人』ではあるが、終止劣勢を強いられるミアたち守護者勢。

 最終的に『ファイナvsインシエム』はファイナが勝利し(インシエムが彼女を『下等生物』と呼んでしまったのが運の尽き)、エイヌル戦はエイヌルの勝利に終わる……かに思われたそのとき、セトナが命懸けの固有能力を発動させ(彼は付近にいる人の心を癒す力がある)、その命と引き換えにエイヌルの心から憎しみを浄化するのだった……。


 フォル「はいっ。僕のミューアは終わりました。セトナちゃんがいない世界に未来はありません!」

 俺「こ、これは損失だな……重要なキャラクターが一気に三人も……せやな、そろそろ潮時だわ。最後にコメント送って、一旦節目ってことにしよう」


 こうして、俺たちの師弟としての初救済は終了した。火曜日までの四日間で、俺たちはその小説を五十五話まで読み進めて、四十件弱のコメントと、二件の高評価を投稿した。作者の心がどこまで救われたか不明だが、SNSを見る限り間違いなく、俺たちのサポートに意味はあったようだ。


 ミルヘル氏の呟き『最近、喜びがちょっとだけ増えた。けどそのちょっとが、自分にとっては大きな意味を持つ』


 これは成功と考えてよかろう! 少なくとも俺のこれまでの救済歴のなかでは、特に功を奏した部類と言って差し支えない。フォルとの友好も深まったし、かなり実りの多い1週間だった……。

 ちなみにミューアの物語はあの後、エイヌルが仲間になるのと引き換えにアンフェリッドが闇墜ちしたり、銀河外生命体(高度に進化した昆虫)が攻めてきたり、ミアたちが『双子宇宙』にある俺たちの『地球』を訪れたり、そこでセトナの生まれ変わりである『リンネ』という名の少女が出てきたりと、いろいろ続いていくようである。俺も気が向いたらまた、読んでみるつもりだ。

 それじゃ俺は、そろそろ仕事に行ってくるとするよ。アディオス!(この元気さは次の日には消えるんだろうな……)


 『この世界がどんなに悪いところでも、自分の創る物語のなかだけは、幸せが満ちているから』by ミルヘルツィア・シュタインブルック


 第六話『虚構フィクション』 完

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