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虚無的な俺は、今日も善行する  作者: 結逸夢弐


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Episode5 - 虚偽(フォルシティ) Part 2

 ひょんなことから、自宅に不審者(20歳の美青年)を上がらせてしまった俺は、そいつから『弟子になりたい』などとたわけたことをかされては、これまでの人生で優に一番であろう大口を開けて、無様に仰天していた。で、弟子って……俺は伝統芸能のたくみとかじゃないぞ!? 単に『神への反逆を目論んでるだけの、盲目的な善行者ぎぜんしゃ』だぞっ!? その弟子って……意味が分からんっ――。

 「いきなりこんなお願いをされて、驚かれるのも無理はありません……ですが僕は本気です! 本気であなたの弟子になりにきました!」桃茶色のセミロング・ヘアを揺らして、ウルウルした目で一心に俺を見つめながら、両膝立ちで床に手を付く青年……目下その目の奥からは、詐欺師特有の薄汚れた邪気は感じられない。「あなたの生き様に惚れたんです! だからどうか……どうかご一考をっ!! お願いしますっ!!」

 ようやっとお口を閉じ、ひと呼吸置いて冷静さを取り戻した俺が、答える。「てぇ、言ってもなぁ~? 『俺の善行は俺自身の課題』であって、別に『他人にいるようなものでもない』しなぁ~? それにそもそも、基本的に自分だけで”手は足りてる”し、『給料出してやれる仕事』ってわけでもないからなぁ……そんなことをして、君に何のメリットがあるのかが分からん」


 すると迷いの欠片もなく、青年がこう返してくる。「メリットならあります! 僕はあなたに『お礼と償い』がしたいんです! 『スミレたんを救おうとしてくれたこと』へのお礼と、『長い間プライバシーを侵害してしまったこと』への償いです! それと欲を言えば、『僕だって誰かを救える人になりたい』……だから憧れの人――あなたの傍に身を置くことで、そのための修業がしたいんです。そんな理由じゃ、ダメですか……?(ウルル~ン♡)」

 図ったように手指を組んで、およそ常人には使えない”禁じ手”を使って、『必殺の懇願』をかましてくる青年。だが心配ご無用! そんな”あざとい”やり方に屈する俺ではない。しからばここは一発、この幼気いたいけな青年に”世間の厳しさ”を教えてやろうかっ――。確かな意気込みとともに、俺は椅子から立ち上がった――。

 「いやっ、別にっ、ダメってわけじゃ……(デレッ)」俺は実に厳格な態度で、この迷える若者に愛の鞭を――打ち込むはずだった……。だが、自分のなかに眠っていた僅かばかりの『承認欲求』が、あろうことか彼の”おだて”に悦びを覚えてしまったのだ! 長年”一匹オオカミ生活”を続けてきたのが、仇となった……(我ながら情けない(涙))。俺はデレ顔を隠すように、部屋の奥へと歩いていく。「けどなぁ……そんな理由ならなおさら、俺の傍にはいない方がいいと思うけどねぇ? ほらよく言うじゃん? 『憧れの人には会うな』って」


 青年(そんな俺を目で追いながら)「何を言うんですか! 僕は”素のあなた”に惚れたんですから、今さら『あなた自身』を知って幻滅したりしませんよ――ってどこ言うんですか虚無ニヒリティさーん!」

 「あぁすまん。お前が来たとき食べてた朝食が出しっぱなしになってたもんで……あと少しだから食っちまうわ――」そう言って、食卓に載っていた『シリアルの入ったボウルとスプーン』を手に取り、元の位置に戻る俺。「よいしょっと……それで、話の続きなんだけど……正直言って、『君の気持ちは嬉しい』……だがどうにも俺には、まだ見えていない――『君が俺の弟子になる”意味”』ってやつが……君が自由に、好きなように善行していけばいいんでね? 俺たちが組む必要ってある? 一緒にボランティアにでも参加して、汗水流して”仲良しこよし”しようって……そういうこと?(ぱくっ……もぐもぐ)」

 「はい! それもまた一興だと思います!」あ、あれ……? 『群れること』に対して結構”皮肉った”つもりなんだけど、何この子の真っすぐな目!(恐ろしい子……)「ボランティアの場合は、端っからみんなが共通の目的のために動くので、あまり意味を感じられないかもしれませんが、あなたの普段の活動にもそれが適応されるということは、必ず意味のあることだと思います!」


 俺(ぱくっ……もぎゅもぎゅ)『……続けたまえ』

 青年「さっき虚無さんは、『人手は足りてる』っておっしゃっていましたが、失礼ながら、『一人で何でも完璧にこなせる』ってわけじゃないですよね? もし僕がいれば――”昨日の救済のとき”みたく――きっとお役に立てると思います! 『より大きなことを成す』ためのお役に……そうは思いませんか?」

 俺(もぎゅもぎゅゴックン)「まぁ、一理あるね……」

 青年「でしたらっ!(ウルトラうるる~ん♡)」


 俺はしばらく黙然しながら、シリアルを食べ進めていった。正直なところ、気持ちはかなり揺れていた。もう俺の発した否定的な見解は粗方潰されてしまったし、これ以上、無理にゴネてまで、自分に傾倒してくれている相手を突き放す必要性も感じなかった。となれば……決まりだな――。

 シリアルの残党ごと、皿に残った豆乳を一気に飲み干した俺は、お終いに深く息を吐いてから、最終結論を告げる。「そこまで言われちゃーなぁ……分かった。ならよろしく頼むわ。お弟子さん?」

 対して青年が、まだ半信半疑だと言うような顔でこう返してくる。「ふぇっ? ほ、本当ですか……?」

 俺は爽やかな顔で言う。「あぁ、負けたよ……『虚無主義者ニヒリストに二言はない」てやんでぃ! こちとら江戸っ子よぅ!(大嘘)「とは言え、後悔させないでくれよ? 俺は『ガラスの虚無ハート』の持ち主だから、『やっぱり詐欺でした~』とか、『ドッキリでした~! バーカ! バーカ!』とか言われたら、二度と立ち直れないわ……」

 すると青年はハッキリとした口調でこう宣言しつつ、俺に熱い抱擁を交わしてくるのだった。

 「はい! もちろんです! 『この恩義には必ず報います』!(バサッ、ムギュッ!) わ~い! これで僕も善行者ぎぜんしゃの仲間入りだぁ~! ありがとうございます虚無さぁ~んっ!!」ってどんなセリフやねん! まるで俺が、慈善団体を隠れみのにした詐欺グループの親玉みたいに言うなっ!!


 柄にもなく顔中を赤面させる俺。「うわっ、ちょっ、引っ付くな!」と言いつつも、人の温もりを心地よく感じずにはいられなかった。やはり何だかんだ言って俺も、愛に飢えているイチ人間に過ぎないのだろう……ん? 愛……? って違うからなっ!? 別にコイツのことがどうとか、そういうことじゃなくって! 俺はただ……ただっ――。

 青年「えぇー? どうしてですかぁ~? こんなに気持ちいのにぃ~(スリスリ♡)」

 たとえコイツが猫みたいに頬を擦り付けて甘えてこようが、断じて、断じて……。

 青年「えへへぇ……虚無さんのほっぺ、柔らかぁ~い……」

 うっ……うぅ……あぁもう分かった! 白状するっ!! こいつはスゲー可愛い! マジで顔もタイプだっ!!(開き直りすぎ) それに何だか、『懐かしくて良い匂い』もして、こうしてると訳もなく落ち着くっ!! 全く我ながら不本意だ……今さら他人にこんな感情を抱くなんて……それも相手が、『会ったばかりの年下の男子』だなんて……一生の不覚だ――。

 俺は無意識に抱き返そうとする手を何とか制しては、奴の首根っこを捕まえて自分から引き剥がすのだった――。「ほら、もういいだろ。弟子なら弟子らしく、分別のある行動をとってくれ」

 青年(嬉しくも不服そうに)「はぁーい……」


 *(それから俺は、ドリンクとサプリを飲んで歯を磨きしましたとさ)


 俺(食器を洗いながら)「そう言やお前、『先日短大を卒業したばかり』って言ってたけど、進路の方は決まってるのか? 仕事とか……」

 青年(リビングでスマホを弄りながら)「いえ、お恥ずかしながらまだ……とりあえず今は、自分のやりたいことを模索しているところです」

 俺「はえーそうかい。ま、俺も”こんな”だし、他人ひとのこと『とやかく言える身分じゃない』けどな? 就職浪人は1年くらいで卒業しとけよ? 昨今はいろいろと厳しいからな」

 青年「何ですかぁ虚無さ~ん? まるで『僕のお父さん』みたいな口ぶりですねぇ~? 心配しなくても大丈夫ですよ~! 何とかなるなるぅ~♪」

 俺「や、真面目に言ってるんだ。ただでさえそんな大事な時期に、猫とたわむれたり、赤の他人”盗聴”したりしてるべきじゃないのに、お前はそのうえ『俺といることまで選んだ』んだぞ!? こんな虚無的で、社会の落伍者らくごしゃである俺と……分かってるか!? そんな呑気のんきに構えてたら、マジで人生棒に振るぞ――」

 「――いい*すよ、こんな*ソみたいな*界……どうでも……」


 俺がちょっとした老婆心から、つい大人げなく、浪人には耳が痛くなるような説教をしてしまっていた最中、青年がこれまでとは別人のような声で、何やらボソッと呟くのが聞こえた。俺はちょうど水仕事をしていたので、それをハッキリと聞き取ることはできなかったが、その声の雰囲気があまりにも先までの彼と違っていたので、思わず背筋を凍り付かせて、水道の水を止めることとなった――。「な、何か言ったか?」

 すると青年が立ち上がり、ドタドタと俺のところに向かってくる音が聞こえる(対面キッチンじゃないので、俺には彼の様子が見えない)。内心、俺は身の危険を感じたが、五つも年下の子供相手に、振り向いて戦闘態勢になるのも気が引けたので、とにかく目の前の食器を水切りしては、タオルで拭いていく他なかった。そしてついに、彼が俺の背中をとる――。

 もにゅっ♡ 俺は背後から心臓をひと突きにされ、その短い生涯に幕を閉じた……ぁ……わけではないようだ。どうやら俺はまだ生きていて、青年から抱きつかれているようである……また……。彼の陽気な声が耳元で響く――。「何でもないでーす!」すかさず吹き込まれてくる吐息。フーッ♡

 「――はんっ♡」不意に襲いくる慣れない刺激のせいで、俺は思わず甘い声を漏らして――ってやめろぉ~!! んなことしてたら『BL作品』かと思われるだろぉぉぉ!! これ以上好き勝手されて堪るかぁ~! ここはガツンと言ってやらないと! ガツンとぉっ――。俺は食器とタオルをカウンターに置いてから、半ば強引に”彼奴きゃつ”の拘束を振り解きにかかる――。「お前なぁ! いい加減――」


 そのとき悲劇が起こった――何と振り向きざま俺の左肘が、図らずとも彼の”みぞおち”に直撃してしまったのだ!

 「ごふぁっ――」悶絶して撃沈する青年……。うわぁぁぁすまんー! 今のは事故だぁー事故ー! あまりにも不本意な状況に、俺が戸惑うことしかできないなか、床に片膝を突いた彼が辛うじて恨み言を唱えてくる。「きょ、虚無きょむさん(←ニヒリティとさえ言えない状況)……何も、殴らなくたって……」俺はようやく我に返った――。

 「わ、悪かった……ってか、わざとじゃないからな今の? お前が引っ付いてたのが悪いんだからな?」そう言って彼を立たせてやった後、肩を貸してリビングまで誘導していく俺。「分かったら今度からパーソナル・スペースを保て? さもなくば俺の肘鉄が、また火を吹くかもしれんぞ?」歩きながら俺が言うと、青年は苦悶の声で「ふぁい……」と返してくる。

 やがて彼を絨毯に下ろしたところで、俺が「いやぁマジで悪かった……何か飲み物でも飲むか?」と言うと、彼は「ミルク……皿で……(ボソッ)」と、牛乳――もとい豆乳を要求してくる。はいはい、待ってなよぉ。すぐに用意して――って皿でミルクッ!!? 猫かっ!! ずっと猫として俺を盗聴してたから、自分を猫と勘違いしているのか!!?(←ファンタジー作品なら間違いなくフラグ) ならマジで持ってくるからな『皿ミルク』ッ!!? 飲めるもんなら、飲んでみやがれっ――。


 *


 と言うわけで、豆乳入りの皿を持って戻ってきた俺は、「ほらよ。ご所望のミルクだ」と言って前屈しては、その皿(普段”虚費ウェイスティング”に水を飲ませるために使っている皿と同型の物)を颯爽と、絨毯の上に置くのだった。「召し上がれ(ニヤッ☆)」

 すると早速、青年が四つん這いになってミルクを飲み始める。舌を使ってペロペロペロ……。俺は『なぁんだこのシュールな絵は……』と思いつつも、しばらく”しゃがんだ”まま興味津々で、その様子を眺めていく。ペロペロペロ……。気づけば俺は愛おしげに、「どうだぁ? 美味いかぁ?」と語り掛けながら、”いつものように”その頭を撫でてしまっていた。

 すると虚費――じゃなくて青年が、ふと俺を見上げて何かを伝えようとしてくる。ん? 何だ? もうお腹いっぱいか? ならちゃんと、ご主人様に『ありがとう』って言ってみな? んー? 彼の口が開く――。

 青年(真顔で)「そう言えば、猫にミルクって与えちゃダメみたいですね? 『完全肉食動物』だから、大人になると『乳糖不耐症』になるんだとか

 俺「あぁ、らしいな……。俺も虚費には普段、水しか与えてないわ。お腹壊したらいけないからな――って開口一番がそれかぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 堪らず、肉声で雑なツッコミを入れ、この長い茶番を終わらせる俺。全く……いったい猫奴キャトは何を考えているのか……? 近年稀に見る”虚無な時間”だったぞ今のは……。師弟だからとか関係なく、コイツにはいろいろと言いたいことがありすぎるっ――。


 俺「今どういう心境なの!? どの面下げて雑学披露した? 教えてくれ! さっきからお前は何がしたいん――」猫奴がまたミルクを舐め始める。「ってわぁぁぁぉぉぉぉいっ!! 他人ひとが怒ってんのにペロペロすなっ! 真面目に聞けっ!」叱られた猫奴が一瞬ベロを引っ込めるも、その身の渇きは止められない――またすぐ皿へと伸びていく舌――ペロリンッ♪ イラついた俺は思わずこう説教してしまう。「『豆乳ミルクペロリ』すなっ!」これが引き金となった――。

 俄然、聞き分けなくミルクを舐め始める猫奴。ペロリンッ♪ ペロリンッ♪ ペロリンッ♪

 めげずに躾ていくご主人様(俺)。「すなっ! すなっ! すなっ!」

 二人の掛け合いがしばし、超現実的に繰り返されていく(誠に申し上げ難いが、第二の茶番が始まります)。


 ペロリンッ♪「すなっ!」ペロリンッ♪「すなっ!」ペロリンッ♪「すなっ!」ペロリンッ♪「すなっ!」ペロ――。「すな――と思ったら、せんのかーいっ!!」”するな”と言われたからやめたのに、なぜか今度は逆のことを言われた猫奴キャトが、また懲りずに舌を伸ばそうとするも、そうは問屋が卸さない――すぐさまご主人様の牽制の目が飛んできて、つかの間、ヒリヒリするような二人の睨み合いの時間が続く――。

 俺(顔色をうかがう猫奴の行動を観察しながら)「ペロリッ? ペロリッ? ペロリせんのかーいっ! ペロリ? ペロリ? ペロリせんの――すんのかーいっ!!」申し訳なさそうに顔を上げる猫奴に対して、俺が精一杯の”愛の軟棒”を振るう――。「すんのかいと思ったらせんのかい! すんのかいと思ったらせんのかい! すんのかいと思ったらせんのかい! すんのかいと思ったら――」ペロッ♪「すんのかぁい……」ペ……ロ……。「すぅぅぅぅぅぅんのぉぉぉぉぉ」リンッ♪「かぁ~い……」

 ひと通り”おふざけ”が済んだところで、ようやく人間に戻った猫奴――もとい青年が、激しく困惑した顔でこう尋ねてくる。「あの……虚無さん? 僕って今……何をさせられてるんですか?」

 俺はこっずかしさを誤魔化すように、鋭い語気でこう言い返すのだった。

 「お前が言うなっ!!」


 *


 それから何事もなかったかのように会話を続けた俺たちは(何で何事もないねん……)、ひとまずこれからの活動について、以下のような方針で進めていくことに決めた。


①二人揃って善行するのは義務ではない

②弟子は来たいときに師匠の家に来ればいい(ただし日曜以外の13時~18時に限る)

③基本的には救済対象と内容は師匠が決める(目ぼしい案件がなければ弟子が提案できる)

④二度と猫に盗聴器は仕掛けないし、猫に”なりきる”こともしない(特に前科のある弟子はこれを厳守する)

⑤活動にかかる金銭は全て師匠が負担する(なんで、極力遠出はしない)

⑥端っから大きな成果は期待しない(何事にも”ダメ元精神”で臨む)


 そこまで決まったところで、話題はまた『青年の名前』のことに。

 俺「そう言えば”お前ん家”って、向かいのアパートなんだろ? それならサッと行って、例の『卒業証書』持ってきてくれよ。ぶっちゃけ早く、『”○○さん”が短大卒業している証拠』見たいんだけど」※改めて説明すると、青年の本名は”あの国民的スター”と同姓同名らしい。

 青年「あーそれがぁ、卒業証書はつい3日前、実家に置いてきてしまったんですよぉ。今度ちゃんと持ってきますから、今日のところは勘弁してくださいー」

 俺「mjkマジか……それで、実家って遠いのか?」

 青年「ズケズケ聞いてきますね……。いえ、すごく遠いってわけじゃないのですが……愛知県の……あま市、です……」

 俺「『あま』か……『ちょっと行ってこい』って言うには酷な距離だな……しゃーない、なら今度でいいよ」

 青年「はい! できるだけ早く持ってきますので、待っててください!」そう言った途端、彼が何やら物欲しな様子で、俺に顔を近づけてくる。「そ~れ~よ~り~もぉ~……いい加減『僕のこと、名前で呼んで』くれません? ずっと『お前』とか『君』とか『そち』とか『おぬし』とかって呼ばれてると、悲しくなっちゃいます」なるほど、そういうことか――。


 俺「いや、後半二つで呼んだ記憶はないけどな……けどぉ……まぁそれもそうか。じゃあ何て呼べばいい? 無難に○○(彼の下の名前)とか?」

 そちのターンよの「んー。それだと面白みが……あぁっ、いい考えがあります! 僕も虚無さんみたいな『二つ名的なコードネーム』が欲しいです!」

 よのターンじゃ「うげっ……別に俺、お前に『虚無ニヒリティと呼べ』とはひと言も頼んでないけどな……むしろお前が先に、その呼び名を矯正してくれ」

 おぬしぃー!「えーっ! でも僕にとって虚無さんは、虚無さんだからなぁ……じゃあ”つとむさん”って言えばいいんですぅ? それとも”吉居よしいさん”? どっちもしっくり来ないなぁー」

 たわしぃー!「ちょちょちょい待った! よくよく考えたら、お前って何で俺の本名まで知ってるの!? 俺、そんなことまで独話してたか? 近所の猫に対して?」いっけね……デキちゃったムエタイ――。

 なんじぃー!「えっ? あぁそれはぁ! その……僕がずっとあなたの*した*ミ*ってたからですよ……(ボソボソ)」

 われぇー!「はっ? ちょっとごめん。よく聞こえなかったんだけど、もう一度言って?」

 そなたぁー!「だからぁ! 『僕がずっとあなたの出したゴミ、漁ってたから』ですよー!!(ヤケクソの大声)」

 わらわぁー!「何ですってぇー!!? 俺の、出した、ゴミを、”そち”が!!? こ……このヘンタイッ!! それでユニセフに寄付してることとか、実家の住所まで知ってたのか!!」


 きーさーまーらー!「あ、憧れの人がすぐ近くに住んでるなら、ゴミを漁るのは当然のことです! 紳士ですからっ!!(キリッ)」

 それがし、参る!「どこの世界の紳士じゃ!! 犯罪行為はスパイ・キャットだけかと思えば、まさかの『カラス』まで! お前はCIAのエージェントか!? いやむしろ、お前こそがCIAの最高傑作か!? いつまで冷戦中やねんっ!」

 貴公の言い分を聞こうか?「分かりません! あなたの言ってることは何一つ! ただ、ゴミを漁ったことは謝ります! ごめんなさい! それだけ『あなたのことが知りたかった』んです! 後悔はしてません!」清々しいな、おい……。

 マロのシャクはマロの物でおじゃる!「謝って済む問題か!!? ゴミにはとてつもない量のプライバシーが詰まってんだぞ! あ、あれとか……それとか……」

 うぬぅ~!「大丈夫です! どれも決して、”悪用”はしてません! ゴミに関しても、重要な情報のみ抜き取って、あとは元通りゴミ置き場に返しました!」

 プリンもマロの物じゃっ!「ご親切にどうもっ!! おかげでシュレッダーの必要性に気づけましたよ!!」

 出ました、”殿下の放蕩ほうとう”! じゃねえよ!「どういたしまして!! じゃ、そろそろお怒りをお収めになって、話を先に進めませんか!? ”お・に・い・さん”!?」


 わい(ネタ切れ)「ヘンタイの兄になる気はないっ!」

 おんどりゃー!「なら虚無さんでいいんですね!? いや、やっぱり”虚無ニヒリティ”は言いにくいので、この際短縮して『ニヒさん』にします!」

 わて「逆に兄っぽくなってる!!」

 おたく「あらそうですかぁ? じゃあ二つ合わせて『ニヒ兄さん』でどうだ!」

 わし「もういいわ! 虚無で!」

 貴殿「はい了解です! 次行きましょう! 僕にもそんな感じのニックネームつけてください!」

 俺(原点回帰)「んじゃ『虚偽フォルシティ』で! だってお前どう考えても胡散臭いし! 本名からして嘘っぽいし!」

 虚偽(仮)「フォルシティ……異議なしです! 何か格好いいので!」

 俺「じゃあさ”フォル”……お前そろそろ帰ってくれ! 俺もいい加減リラックスしたいし、シュレッダーも買いたい!」

 虚偽(敬礼しながら)「アイアイ”ニヒ兄さん”! 不肖ふしょうフォルシティ、これにて本日の任務から帰投します! それでは、ミルクご馳走様でしたー!(スタスタスタスタッ)」

 俺「達者でなぁ~!!」


 ガチャンッ! 自宅のドアが閉まった瞬間、そこにあったのは『いつも通りの静寂』だった。俺は何気なくスマホを起動して、ショッピング・アプリで『シュレッダー』と検索してみるが、表示された商品の一覧を2、3度スクロールしたところで、「ま、もう遅いか……」と苦笑してアプリを閉じてしまう。

 気持ちはなぜかフワフワしていて、心はすでに『アイツと行う未来の善行』に向けられていた。だが人がそう簡単に変わるわけもない――次の瞬間には俺の心は、普段通りの『虚無主義者』へと戻っていた――。

 何浮かれてんだ、俺は……アイツが本当に申告した通りの人間で、偽りなく俺のことを敬愛していて、この先いろんな善行をともにできて、その都度ハッピーな結末が待っていると、本気で思っているのか……? いや、仮にそうなったとしても、人生にはいつか必ず終わりが来る……なぜなら全ての活動は、『死ぬまでの暇つぶし』なのだから……そうですよね、シオランさん――。

 ふと目に入ってくる”床の皿”……俺はそれを無の表情で拾い上げては、呆然と洗い場に運んでいくのだった。


 『吉居 務』の部屋を出て、アパートの通路を大股で歩き始める美青年の表情が、不気味に歪む。フフフッ、これから楽しくなりそうですね……ニ・ヒ・リ・ティ・さんっ♡


 第五話『虚偽フォルシティ Part 2』 完

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