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18 殺意

 勇一達は、とりあえず襲い掛かってきた一団はなんとか退けた。

 しかし、それは両姫様達を襲撃してきた集団の一部に過ぎない。

 姫様達を守る護衛は今も、敵の本隊と、戦闘中のはずだ。


 更に前方にいるであろう、姫様達を追って、電動バギー(ピェーピェー)を加速させる。


 暗い森の道の上には、あちこちに、死体が転がっていた。

 黒い鎧に黒いターバンを巻いた敵達と、白い鎧を着た騎士達の死体が交じり合っている。


 前方に敵の集団の後ろ姿が、見えてきた。

 だが、数が少ない。小さな集団で敵の本隊では無さそうだ。


 ん? 何だ あれ?

 勇一が目をこらす。

 前を走る敵の集団のさらにその先になにかいる。

 道を塞ぐように、赤い鎧を着た人物が仁王立ちしていた。

 足元には白い鎧の騎士が一人倒れていて、さらにその周辺には、尋常じゃない数の、敵の死体が転がっている。


 いや、よく見ると違うぞ。

 勇一は目を凝らす。

 あの仁王立ちしてる人の鎧は、赤なんじゃない。

 白い鎧が、血で真っ赤に染まっているんだ。


 敵が、その赤い鎧の騎士に襲い掛かった。

 赤い鎧の騎士は、騎馬で襲い掛かる敵を、両手にもった二本の剣を操り、阿修羅のごとく次々と切り裂いていく。

 足元の敵の死体の数をさらに増える。

 圧倒的な強さだが、敵の数が多すぎた。

 多くの敵が、仲間が切られる隙をついて、脇を抜けて前方へと駆けていってしまう。

 すでに、敵の本隊も駆け抜けて行った後だろう。

 それでも、その赤い鎧の人物は、敵を一人でも減らそうと剣をふり続ける。


 そのうえ騎士の体力も装備も限界が近かったようだ。

 敵の両手斧の斬撃を受けた時に、片方の剣が折れてしまう。

 さらに別の敵の大剣が、赤い鎧の騎士の兜にかする。その勢いで兜が吹き飛んだ。

 黒い長い髪が風に靡く。

 赤い鎧の騎士は、女性だった。

 褐色の肌、黒い髪、黒い瞳の美女だ。

 ハァッ! 裂帛の気合と共に目の前の、斧を持つ騎馬を首を跳ねる。

 だが、別の大剣が彼女に迫る。避ける事は出来そうにない。


 光の筋(レーザー)が、森の中を奔った。


 大剣をかまえた敵は、十字が刻まれ、地面に転がった。

 更に、光の筋(レーザー)がいく筋も、森の中を奔る。

 騎士の周りにいた敵に、次々と十字を刻み、僅かな間に全滅させた。


 電動バギー(ピェーピェー)が、赤い鎧の人物に近づく。

 赤い鎧の女性は、呆然と立ち尽くしていた。

 よくみると、その人物自身もかなりの傷を負っている。

 鎧を赤く染めている血は、返り血だけでは無かったようだ。


「浮けとれ!」

 ディケーネが、回復薬(ポーション)を二つ投げる。

 だが、彼女はもう、腕さえ上げる気力も体力も残っていないようだった。回復薬(ポーション)は彼女の胸にあたりに当たって、地面にポトリと落ちた。


「気になるが、ポーションがあれば死にはしないだろう。先を急ごう」

 電動バギー(ピェーピェー)は赤い鎧の女性の脇をすり抜ける。

 更に前方にいると思われる、姫様達と、敵の本隊を目指し、更に加速した。





 目の前には大量の黒い敵の集団の背中が見えてきた。

 数からして間違いなく、敵の本隊だろう。

 その敵の本隊の、更に先の暗い森の道に、白い豪華な馬車の姿がチラリと見えた。

 その馬車を守るように白い騎士達が、黒いターバンを巻いた敵と戦っている。


 どうやら俺達は、やっとお姫様に追いついたらしいな。

 勇一は胸元のマイクに向かって叫ぶ。


「タッタ。確認する。俺達の前にいるのが敵。更に前方を逃げてるのがお姫様の馬車だよな」

『はい。前方にいるのが敵対勢力グループAです。

 更にその前、一番前方を逃走しているのが、グループBになります。

 なお、現時点での、敵勢力グループAの人の反応数は、64

 グループBの人の反応数は、13となっております』


 姫様達の護衛の数がかなり減っている。

 ギリギリで間に合ったと言う所だろうか。


 接近する勇一達の存在に、敵も気が付いていた。

 敵の集団の指示をしていると思われるリーダーが、後ろの様子をみる。

 後ろから来ているはずの後続がいつの間にか、消えてしまっている。

 その異常な状態にも、敵のリーダーは気付いていた。

 ターバンの隙間から、細くきつい眼が、勇一達を窺う。


 ……あの者だな。


 リーダーの男が、後ろから迫る三人の敵の中から、勇一に目を付けた。

 単純な戦闘能力ならばディケーネが一番上だ。パーティーの弱点を狙うなら、電動バギー(ピェーピェー)を運転しているニエスを狙うべきだ。

 だが、リーダーの男は勇一を見すえている。

 彼は追いついてきた、この正体不明の一団こそが、自分達の任務において『最大の障害』なのだと認識している。

 そして、勇一こそがその集団の中心なのだと直感で感じていた。

 敵のリーダーが手を上げ、いくつかサインを出す。

 それに反応して、周りの騎馬が手綱をあやつる。

 なんと半数以上42騎の敵が反転して馬車を追うのを止め、勇一達に馬先を向けてきた。


 中途半端な事などはしない。

 最大の攻撃をもって、一撃でしとめる。

 そして……、あの者を必ず、殺す。


 リーダーの男が、腰の剣をぬき、天に掲げながら叫んだ。

「抜刀!」

 42騎すべての敵が、腰の剣をぬく。

 森の枝の隙間から漏れる光を反射して、その42本の剣がギラリと鈍く光った。


 その姿を正面から見た勇一が戦慄する。

 あれって、ま、まさか。


「ニエス 止めろ!」

 勇一の声に反応して、ニエスが急ブレーキを踏む。

 強烈なGが体を前に投げ出すようにしながら、その場に無理矢理急停止する。

 敵の騎馬集団から、約100m程離れた所だ。

 距離を取る為に、バックさせようかとも考えたが、止めた。

 曲がりくねった森の道でバックするのは逆に事故を招くだけだろう。


 リーダーの男が、手に持つ剣をこちらに向けて振り下ろすと同時に叫ぶ。

突撃(マーチ)!」


『『『ウゥーーラァーー!!!!』』』

 42騎の敵が雄たけびをを上げ、42本の剣が天に捧げられる。

 馬は地面を蹴り、土煙をあげながら、こちらに突進し始めた。

 地響きが、勝利に為に捧ぐ叫び声と交じり合い、森の中に響きわたる。


 騎兵突撃!

 騎兵の巨体と速度を有効に活用し、その攻撃力を最大に発揮することのみに特化した戦術。

 自らの死を恐れず、敵を打ち倒すまで止まることのない必殺の攻撃。

 勇一の体に恐怖が走る。


 敵と勇一達の 距離は100m程。

 この距離が"(ゼロ)"になること。それは勇一達の死を意味している。


「撃て!」

 勇一も指示を出すと同時に、引き金(トリガー)を引きまくる。

 光の筋(レーザー)が奔り、先頭の騎士へと襲い掛かる。

 レーザーは、集団の先頭を走る三人の騎士の体のほぼ真ん中に、十字を刻む。

 その三人は衝撃で一瞬、体を跳ね上げた後に、崩れるように倒れていく。

 馬からずり落ち、地面へと衝突する前に、後ろの騎馬が激突する。

 だが後ろの騎馬は、その体を跳ね飛ばし、蹴りつけ、踏み潰し、突進をやめようとはしない。


 ディケーネもレーザー小銃(ゴーク)を撃つが、まともに当たらない。

 たまに当たってダメージを与えても、敵はまったく気にせず突撃を緩めない。

 ニエスも慌てて、ハンドルから手をはなし、腰のレーザー拳銃(レイニー)をぬく。狙いもなくめちゃくちゃに乱射する。

 

 残り80m

 勇一は更に光の筋(レーザー)を撃つ。

 行く筋もの光の筋(レーザー)が、突撃する騎馬へと襲い掛かる。

 先頭を走る騎馬を、数騎打ち倒す。だが、突進はまるで怯まない。

 騎馬の突撃は、更に迫ってくる。


 残り60m

 地面を蹴りつけ地響きを鳴らし、土煙をあげながら怒涛のごとく騎士が突進を続ける。

 その突進へ、正面から行く筋もの光の筋が浴びせかける。

 敵の騎士が、頭から十字に貫かれ、地面に崩れ落ちる。

 それでも崩れ落ちた仲間の死体を踏みつけ、後ろから騎士が突進してくる。その騎士にも十字を刻む。

 次々と仲間が打ち倒されても、なお、ひたすらに敵は、我武者羅に突進してくる。


 残り40m

 この距離になってくると、ディケーネの下手な射撃でも当たる。

 ニエスの無茶苦茶な射撃も当たる。

 勇一の正確な射撃が更に敵を打ち倒す。

 物凄い勢いで、先頭の騎士が倒れ、地面に崩れ落ちていく。だが、さらにそれを上回る勢いで敵騎が迫る。

 まるで、溢れ返りすべてを打ち崩す黒い津波のように、こちらに押し寄せてくる。

 馬が地面を蹴る地響きが伝わり、電動バギー(ピェーピェー)の車体が上下に揺れる。

 騎士の雄たけびが、森の木の葉をゆらし、心に恐怖と焦りを生み出す。


 残り20m

 この距離になると、相手の顔の表情まで解る。

 強い意志と、確固たる殺意をもった瞳が、こちらを見据えている。

 馬の口から垂れる涎がみえ、嘶きがすぐそこから聞こえる。

 恐怖と焦りがピークになって、叫び出し逃げ出したくなる。その気持ちを押さえ込み、引き金(トリガー)を引く。

 ディケーネが、レーザー拳銃(レイニー)に持ち替えて、目の前の騎士達を切り裂く。

 騎士の体が真っ二つに裂け、血を噴出す。その仲間の死体を吹き飛ばすようにして後ろから騎士が迫る。

 その騎士もまた二つに切り裂く。その後ろからくる騎士に十字を刻む。その後ろからくる騎士に滅茶苦茶な射撃をくわえ、その後ろ からくる騎士を切り裂き、そのうしろから来る騎士に十字を刻み、そのうしろから来る騎士に十字を刻み、その後ろからくる騎士に 十字をきざみ、その後ろからくる騎士を切り裂く。


 残り5m

 敵はもう、手をのばせば触れられそうだ。敵も、そう思っている。

 もうあとちょっとで、俺の剣をお前の首に突き立ててやる。

 敵の目が、勇一にそう語りかけてくる。

 馬の口から吐かれる息が、鼻先に掛かりそうだ。

 もう、射撃も技術も何もない。ただただ引き金を引き、レーザー拳銃(レイニー)を振り回す。

 敵は刻まれ血飛沫を飛ばし、その後ろから襲い掛かる敵もまた刻まれ血飛沫を撒き散らす。

 あまりに多くの騎士が間近で切り裂かれたため、飛び散る血しぶきが、視界を奪う。


 視界のすべてが、

 まるで血でできた幕を張り巡らしたように、真紅に染まる。


 その真紅の幕を打ち破るように、突然、目の前に男が飛び出してきた。

 短剣をもった敵のリーダーが、空中から勇一に襲い掛る。

 仲間の死体を乗り越え、仲間の血を目くらましに使い、とうとう達した、必殺の一撃。

 

 勇一が、その男に向け、引き金を引く。

 男の胸を光が突きぬけ、胸に綺麗な十字の穴を開けるが、男の動きは止まらない。

  近すぎたか?!


 短剣が、眉間に振り下ろされる。

 とっさにレーザー小銃(ゴーク)を横にして、それを受け止める。

 勇一の眉間、わずか3cm手前で、短剣の刃先が止まった。

 迫る短剣と、それを止めるレーザー小銃(ゴーク)を挟んで、勇一と敵のリーダーの男が睨みあう。

 その男の目に宿る『確固たる殺意』が、勇一を見据えていた。


 「ユーイチ!!」

 周りからまだ襲いくる敵を切り裂きつつディケーネが、悲壮な叫び声を上げる。

 男を切り刻みたくても、勇一と敵が近すぎて手が出せない。


 男は、そのまま無理矢理、手に力をこめる。

 胸の十字から大量の血を流しながら渾身の力を込めて、じりじりと短剣を刃先を、勇一の額へと近づけていく。

 勇一も歯を砕ける程に食いしばり、必死に手に力を入れて押し戻そうと抵抗する。

 男と勇一、短剣とレーザー小銃(ゴーク)、殺意と抵抗。

 その力のバランスは僅かに男の方が上回っていた。

 ブルブルと震える短剣の刃先は、ゆっくりと、だが確実に勇一に迫ってくる。

 刃先が額に触れる。

 皮膚を破れ、一筋の血が垂れる。

 刃先は更に、勇一の額の奥へと、ゆっくりと刺さっていく。


 ガクンと、大きく体が揺れた。

 勇一と男、両方の体がバランスを崩す。

 ニエスが、いきなり電動バギー(ピェーピェー)後進(バック)させたのだ。

 停止からの急発進で、体に大きな負荷()が掛かる。

 振り落とされそうになった男が、とっさに電動バギー(ピェーピェー)の鉄パイプを握る。

 男と勇一の体の間には、隙間が出来ていた。

 それをディケーネが見逃すはずも無い。


 フッ! ディケーネが、短く息を吐く。

 と、同時に光の剣(レイニー)が、鉄パイプを握る、男の腕を断ち切った。

 鉄パイプをつかむ腕だけを残し、バランスを失った男の体が、空中に放り出される。

 フッ!再びディケーネが、短く息を吐く。 

 ヒュンヒュンと音を立てながら、光の剣(レイニー)が男を切り裂いた。


 空中で肉塊と化した男は、地面へバラバラと降りそそいだ。




 ニエスがすぐさま電動バギー(ピェーピェー)を止める。

 勇一が次の敵に備え、レーザー小銃(ゴーク)を構える。


 フゥ

 勇一が小さくため息をついた。

 周りを見回したが、動く者はもういなかった。

 42騎、全てを撃破しきっていた。

 周りの森は暗く静かだ。

 人々の争いに驚いた動物や鳥達が逃げ出した後なので、怖いくらいの静けさだった。


 目の前には約100m、まるで赤い絨毯(レッドカーペット)を敷いた様な、真紅の道が伸びている。

 電動バギー(ピェーピェー)の鉄パイプには、最後の男が掴んでいた腕だけが、そのまま残っていた。


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