19 姫様
電動バギーが、白い馬車に追いつく。
まだ数騎の敵と、姫を守る白い騎士が戦闘を続けていたが、もうすでに大勢は決まっている。
残りの敵を、レーザー小銃で打ち抜き、全滅させた。
森の中の道を、そのまま走ったところに、開けた広場のような場所があった。
そこで白い馬車が、速度を落として停車した。
周りを警戒するためだろう、その馬車の周りをぐるりと取り囲むように、輪になって騎士が止まる。
なんとなく他を寄せ付けない雰囲気があったので、少し離れた所に電動バギーは、停止する。
勇一が確認の為に、胸のマイクに話しかける。
「タッタ 周りに敵はいるか」
『グループAと思われる人の反応はありません。別途いくつかの人の反応が森の中に存在しておりますが、無関係だと思われます』
よし、敵は居ないな。
勇一が安心していると、白い鎧を着た騎士が一人、馬を下りて近づいてきた。
「誰か知らぬが、助かったよ」
兜を取る。燃えるような真紅の髪と、更に紅いルビーのような瞳が印象的な女性だった。
かなり背が高く、体格も厳つくて、兜を取るまでは女性だとは思っていなかった。
「まずは、私から名乗らせてもらうよ。
アルバ姫の護衛を勤める『穢れなきバラ親衛隊』隊長、ダフネ・ド・コスターだ。
そちらのお名前をお聞かせいただけるかな」
勇一も電動バギーを降りて、立ち上がって名乗る。
「勇一・五百旗頭です」
「ディケーネ・ファン・バルシュコールだ」
「ニエルエンス・スィンケルです」
「ふむ。それにしても不思議な乗り物と武器だな。
一体、君達は何者なんだ?」
何者と聞かれて勇一は、どう答えていいか迷う。
そう言えば、俺っていったい何者なんだ?
口ごもってしまっている勇一に代わって、ディケーネが答えてくれた。
「我々は、こちらのイオキベをリーダーとして活動している、ダーヴァの街の冒険者パーティーです。
姫様達が襲われていると知り、義をもって戦いに参加させて頂きました」
そう言ってから、服の袖を肘までめくり上げ、両腕を差し出して見せる。
あ! あのジェスチャーって、確か『武器をかくしていません。怪しい者ではありません』っていう意思表示だよな。
横を見ると、ニエスも同じように、両手を差し出している。
勇一も、あわてて真似をして、服の袖をめくりあげ、両手を差し出す。
その両手を見つめて納得したようにダフネは頷く。
「ふむ。まずは、助力頂いた事、感謝する」
そこへ別の騎士が奔り寄ってきて、ダフネの耳元で何か囁く。
大きく頷いた後に、こちらを向く。
「姫様達が、皆に直接にお礼を述べたいとご希望だ。
ただ、姫様達と面会する場合は、たとえどんな略式の面会と言えど、武装の携帯は認められない。
大変申し訳ないが、皆、武装を解除してから、馬車の近くに来て頂けないだろうか」
まあ、そりゃそうだ。
VIPに面会するのに、武器の解除は必須だよな。
レーザー小銃やレーザー拳銃を電動バギーの座席に置いていく。
ディケーネとニエスは、腰につけていた剣も外す。
馬車に近づこうとすると、更に止められて、ボディチェックまで行うと言われた。
「それにしても、すごい念入りだな」
「そりゃそうだろう。
さっきまでの襲撃がおとりで、実は私達が本命の刺客だと言う可能性だって、無きにしもあらずだからな」
ああ、なるほど。
確かにそうだな。思わず納得してしまう。
どうやら、この姫様の護衛をする親衛隊には女性しかいないらしい。勇一のボディチェックを行う騎士も、やっぱり女性だった。
金髪の美女が、体の隅々まで、手で触り念入りにチェックされる。
ちょっと、こそばゆいな。
そんな事を思っていたら、いきなり股間をしっかりと触られた。
形を確認するかのように、かなりしっかりと握ってくる。
ちょっと、あれだ! 美女にそんな所をしっかり触られると、その、あれだ。
さらに後ろへと手が回り、お尻の穴にも軽く触わられた時などは、思わず、ウヒョゥ! と変な声が出てしまった。
たぶん、こーゆー場所って、武器が隠しやすいから、重点的にチェックしてるんだろうな。
いや、それにしても、美女に触られると変な気分になってくるよ。
チラっと横を見ると、ディケーネとニエスも、別の女性騎士に体中をまさぐられている。
胸とか、本物かどうかしっかり揉みしだいて確かめているし、当然、両足の間も、ばっちりしっかりじっくりと触られている。
ディケーネは無表情に、さらるがままに体をまさぐられる。
ニエスは、くすぐったがりなのか、触れるたびに、アヒュン、アヒュンとへんな声を出して、悶えている。
なかなか、その、なんというか、エロティックな良い眺めだった。
「では、こちらへ」
ボディチェックが終わりダフネに先導されて、馬車に近づいていく。
「お姫様に会えるなんて、なんかすっごいですねー 楽しみです」
ニエスが浮き浮きして、不思議なステップで歩いている。
ちょっと前から気になってたんだけど、いったい何なんだろう、あのステップ。
謎だ。
馬車の手前で、ダフネが立ち止まり、こちらに向けて、手を上げる。
その動きに反応して、ディケーネが、さっと地面に跪く。
勇一とニエスもあわてて真似をして、地面に跪いた。
さてさて、この世界のお姫様に対面だ。
そういえば、姫様って姉妹で二人いるんだよな。
二人とも、美人なのかな?
ひょっとして、どちらかのお姫様が助けに現れた俺に一目惚れとかしちゃって、こっから、お姫様と平民の俺との間の禁じられたラブストーリーとかが始まっちゃったりして。
あ、姉妹で、俺に惚れてしまって、二人で俺を取りあってしまうとか!
勇一の妄想が、とめどなく広がっていく。
そして、馬車のドアが開かれようとする。
その瞬間。
胸のマイクから『タツタ』の声が響いた。
『周辺監視範囲内の反応に新たな動きがあります。状況から推測し危険な可能性が『高』と判断しました。詳細をご報告いたしますでの、対応をご検討してください』
いきなり勇一の胸元から響いた、理解不能な言葉に、周りの騎士たちが殺気だつ。
騎士全員が一斉に剣をぬいて、こちらに向けて構えてきた。
「ちょ、タッタ。タイミング悪すぎる。できればもうちょっと後にしてくれ」
勇一の言葉を無視して、タツタは報告を続ける。
『左前方十時の方向、距離980mの地点に、人の反応が77、馬と思われる哺乳類の反応が12。
爬虫類系のトカゲに近いと思われる大型生物反応に接触しました。
瞬間的に大量の熱反応も発生しております。
至急に対応をご検討ください』
人の数が77? 爬虫類系トカゲに近いと思われる大型生物反応?
その数と、爬虫類にピンとくる。
間違いない。
ドラゴン退治のレイドパーティー達と、対象のドラゴンだ。
「近くにドラゴンがいるぞ!」
思わず勇一が叫ぶ。
なに? 勇一達に剣を向けていた騎士達が、すぐさま回りを警戒する。
一人の騎士が叫んだ。
「今、私の探知魔法でも反応がありました。
間違いありません。この近くでドラゴンが、冒険者と思わしき集団と戦闘を行っています」
胸のマイクから、更にタッタの報告が続く。
『反応に変化がありました。
人と思われる反応の数が急速に減少。68まで減少しました。
更に減少。68、67、66まで減少しました。更に減少、65、64
至急に対応をご検討ください。更に減少63、62、61、60、59、58
至急に対応をご検討ください。更に減少57、56、55
うわ、しかも、レイドパーティーの連中、無茶苦茶ボロボロ一方的にやられてないか?
「すまないが、我々は姫様の安全を優先させて頂く。
今すぐ、ここから安全だと思われ地点まで移動する。君達はどうする」
そう叫びながら、ダフネ隊長は、もうすでに馬に飛び乗っている。
周りの騎士も馬に飛び乗り、今すぐにでも出発しそうだ。
勇一は、別にドラゴンを倒したい訳ではない。
正直に言ってしまって、レイドパーティーの連中も気に食わない。
『至急に対応をご検討ください。更に減少54、53、52、51、50
至急に対応をご検討ください。更に減少40、49、48、47』
タッタの報告の声が響く。その声にイドウコウヘイ准佐の最後のメッセージが重なる。
『君と、君の周りで困難な状況にあるすべての人の為に、この機器達を使ってくれ』
レイドパーティーの連中も気に食わない。
気に食わないけど……
だからと言って、見捨てることはできないよな。
「俺達は、冒険者達を救いに行きます」
「ユーイチ・イオキベ殿、そなたの勇気には、敬意を表す。
その名と、その勇気ある行動は、私が責任もって後世に言い伝えると約束しよう」
ん? んんん?
その言い方って、たぶん俺が死ぬと思ってないか?
『目の前のこの男は義をもって、ドラゴンに挑み、そして勇敢に散るだろう』
ダフネは、実際に、そう思っていた。
何十人と集まって準備したレイドパーティーが敗れるのだ。
今更、三人くらい援軍が入った所で、どうなるものでもない。
それ程に、ドラゴンは強い。
「それでは、"アルドニュス"の神のご加護があらんことを!」
そう言い残し、隊長ダフネを先頭に、姫様をのせた馬車とそれを守る騎士達は行ってしまった。
さて俺達も行くかな。
けっきょく姫様達には会えなかったな。
姫様達にほっていかれて、助けにいくのが、あの街の冒険者たちだもんな。
テンション落ちる。
でも、そんな事も言っていられない。
「いくぜ! ちくしょう、最悪のダブルヘッダーだぜ!」
勇一が、自分自身に気合をいれる為にも、叫んでみる。
「御主人様、ダブルヘッダーってなんですか?」
不意に、ニエスに聞かれて、戸惑ってしまう。
えっと、たしか、一日二試合行うって意味でいいんだよな。
正確にはどんな意味なんだ?
それを、どうやってニエスに説明すればいいんだ?
「いいだよ。細けえ事は気にするな。とにかく 行くぜ!」
「ふむ」
「はい、行きましょー!」
電動バギーに飛び乗って、次の戦場へ向かって、疾走する。




