第4話「連携の一歩」 後編
「そこぉ」
ももちゃんの声は大きくなかった。
けれど、ここまで一緒に戦ってきた四人には、それで十分だった。
さめちゃんが一歩前へ出る。
構えた大盾へ、コボルトジェネラルの戦斧が振り下ろされた。
耳の奥まで響くような重い音が、広間へ弾ける。
「っ……!」
盾の表面を滑らせるように角度を変えていても、衝撃までは消せない。
さめちゃんの膝が僅かに沈む。
靴底が石床を擦り、半歩ほど後ろへ押された。
それでも倒れない。
すぐに足を踏み直し、盾の向こう側にいるジェネラルから視線を逸らさなかった。
「大丈夫。まだいけるよ」
強がるような声ではなかった。
自分の身体の状態を確かめた上で、まだ前に立てると伝えている。
ゆうきはその背中を見ながら剣を握り直した。
コボルトジェネラルが戦斧を引く。
大きな動き。
その瞬間、巨体の重心が僅かに左へ寄った。
ももちゃんの目が細くなる。
「おむたろ」
「了解」
呼ばれたおむたろは、それだけで動いた。
槍を真正面から突き出さない。
ジェネラルの左側へ回り込むように走り、わざとその視界へ入る。
黄色い瞳が追う。
戦斧が横へ振られた。
おむたろはそこで踏み込まず、逆に半歩だけ引く。
風を裂く音。
大きな刃が目の前を通り過ぎた。
「うわ、近っ……!」
口ではそう言いながらも、足は止まらない。
戦斧が振り切られ、石床へ刃先が触れる。
「今だよぉ」
ももちゃんが前へ出る。
小さな装飾品が魔力を帯び、次の瞬間には両手へ巨大な大斧が収まっていた。
狙ったのは、ジェネラルの身体ではない。
左足の少し前。
大斧が石床へ叩き込まれる。
轟音。
ひび割れた床から細かな石片が跳ね上がった。
踏み込もうとしていたジェネラルの足が、一瞬だけ止まる。
ほんの僅かな遅れ。
けれど、ももちゃんはその一瞬を作るために、ずっと相手の動きを見続けていた。
「ゆうきくん!」
おむたろの声が飛ぶ。
ゆうきは迷わず踏み込んだ。
さめちゃんの横を抜け、ジェネラルの間合いへ入る。
剣を振る。
大盾がすぐに返ってきた。
甲高い金属音。
剣先が盾の表面へ弾かれる。
ゆうきは逆らわない。
力を抜き、そのまま剣を盾の縁へ滑らせた。
刃が金属を擦りながら走る。
ジェネラルの視線が一瞬だけ剣を追った。
その下。
おむたろの槍が伸びる。
狙うのは盾を持つ腕ではない。
踏み出そうとした足元。
石突が脛の近くへ当たり、ジェネラルの姿勢が僅かに崩れた。
「さめちゃん!」
「うん!」
大盾が前へ出る。
叩きつけるのではなく、身体ごと押す。
一人ではびくともしなかった巨体。
それが。
ほんの半歩。
後ろへ下がった。
ゆうきの目が見開かれる。
初めてだった。
何度攻撃しても正面からは崩せなかった相手が、五人の動きが重なったことで確かに動いた。
けれど、喜んでいる暇はなかった。
コボルトジェネラルが喉の奥から低い声を漏らす。
それに応じるように、広間の左右へ散っていた取り巻きが一斉に動き出した。
「来るよ!」
ちゃまの声が響く。
ゆうきはすぐに周囲へ意識を戻す。
三体。
短剣を持ったコボルトたちが、今度はももちゃんへ向かっている。
大斧を振り下ろした直後。
五人の中で、今もっとも動きにくい者を選んでいる。
「ももちゃん!」
ゆうきが向きを変えるより早く、おむたろの槍が返った。
横薙ぎ。
穂先で斬るのではなく、柄を大きく振って三体の進路へ入れる。
一体が止まり。
もう一体が跳ぶ。
三体目はさらに外側へ回った。
完全には止められない。
それでも、三体が同時にももちゃんへ届く形は崩れた。
「私が入るね」
さめちゃんが身体を滑り込ませる。
大盾が一体目の短剣を受ける。
二体目。
斜めから来る。
盾を返す。
その間にゆうきが三体目へ剣を向け、回り込みを止めた。
金属音が重なる。
「さめちゃん、そのまま!」
ちゃまが杖を向ける。
柔らかな光が広がり、さめちゃんの肩口へ走っていた浅い傷を包んだ。
切れていた皮膚がゆっくり閉じていく。
「ありがとう、ちゃまちゃん」
「うん! まだ大丈夫!」
ちゃまは明るく答える。
けれど、その声を聞いたゆうきは一度だけ彼女を見た。
《星降る祈り》。
傷を治した痛みは、ちゃまへ残る。
今の傷は小さい。
それでも、積み重なれば話は変わる。
――長引かせない。
その考えが自然と浮かんだ。
「右、空いたよ!」
おむたろの声。
ゆうきはすぐ正面へ戻る。
取り巻き一体の短剣を剣で外へ流し、空いた腹へ蹴りを入れる。
倒そうとはしない。
距離を作る。
その横をももちゃんが抜けた。
大斧。
しかし振らない。
ジェネラルへ視線を向けたまま、攻撃できる位置まで戻って止まる。
好機が来るまで待つ。
最初の頃なら、大斧を持つももちゃんが攻撃しない時間を、ゆうきは少し不思議に思ったかもしれない。
今は違う。
待っている。
それ自体が、ももちゃんの戦いだった。
取り巻きが飛び込む。
さめちゃんが受ける。
おむたろが崩す。
ゆうきが空いた場所へ入る。
ちゃまが後ろから全体を見る。
そして、ももちゃんは相手を見る。
戦い始めた頃より、声を掛け合う回数は減っていた。
必要がなくなったわけではない。
むしろ逆だった。
誰が何を見るのか。
誰がどこへ動くのか。
少しずつ分かるようになってきたから、必要な言葉だけで足りる。
目が合う。
盾が僅かに上がる。
槍の向きが変わる。
それだけで次が分かる。
「ゆうきくん、前!」
ちゃまの声に、ゆうきは剣を上げる。
ジェネラルが再び来る。
戦斧。
今度は振り下ろしではない。
斜め。
さめちゃんが正面から受けようとする前に、ゆうきが横へ入った。
「さめちゃん、流して!」
「うん!」
大盾の角度が変わる。
戦斧が表面へ触れ、そのまま外へ滑っていく。
重い音。
さめちゃんの身体が揺れる。
だが、先ほどほど押されない。
相手の力を止めるのではなく、行き先を変える。
その動きが少しずつ安定してきている。
戦斧を振り切ったジェネラルが、すぐに大盾を構え直した。
ゆうきたちを睨む。
その視線が。
少し変わった。
最初は、前へ出てきた者だけを見ていた。
今は違う。
さめちゃん。
おむたろ。
ももちゃん。
ちゃま。
そしてゆうき。
順番に目が動いている。
五人全体を見ている。
「……あっちも分かってきてるね」
おむたろが声を落とす。
「ああ」
ゆうきも感じていた。
こちらが相手の癖を見ているように。
ジェネラルもまた、五人の連携を見ている。
広間の中ほど。
互いに少し距離ができた。
誰もすぐには動かない。
傷を負った取り巻きたちはジェネラルの周囲へ戻り、低く唸りながら様子を窺っている。
ちゃまの呼吸。
さめちゃんが盾を持ち直す音。
遠くで水滴が落ちる音。
それらが、不自然なほどはっきり聞こえた。
その静けさの中で。
ももちゃんが小さく息を吸った。
「……次で、いけるかもぉ」
ゆうきは顔を向けなかった。
ただ、剣を持つ手へ僅かに力を入れる。
ももちゃんはここまで、一度も根拠のないことを言っていない。
見えていない未来を断言することもしない。
だから。
その言葉の重さが分かる。
「何すればいい?」
おむたろが聞く。
「いつも通りで大丈夫だよぉ」
ももちゃんはジェネラルから目を離さない。
「でも、少しだけ合わせてねぇ」
大盾の奥で、ジェネラルの脚が動いた。
来る。
「さめちゃん」
「うん」
「一歩だけ前ぇ」
さめちゃんが迷わず踏み込む。
大盾を構える。
ジェネラルは正面に出た彼女へ反応した。
戦斧が持ち上がる。
振り下ろし。
さめちゃんは逃げない。
ただし、正面から止めもしない。
僅かに盾を傾ける。
轟音。
大盾の表面を戦斧が滑る。
「っ……!」
脚が沈む。
肩が下がる。
それでも踏みとどまった。
「おむたろ」
「任せて!」
おむたろが左へ大きく回る。
槍を突かず。
まず、ジェネラルの視界へ入る。
黄色い瞳が動く。
大盾が僅かにおむたろ側へ向いた。
ももちゃんは。
動かない。
ただ見ている。
ゆうきも剣を構えたまま待つ。
何を狙っているのか。
聞かない。
今は、任せる。
ジェネラルが戦斧を引いた。
さめちゃんから離し。
おむたろへ向けて身体を回そうとする。
左足が前へ出た。
「今」
ももちゃんが動いた。
大斧を持ったまま、迷いなく踏み込む。
狙うのはまた身体ではない。
左足。
そのすぐ前。
大斧が床へ落ちる。
石が砕けた。
跳ねた破片。
踏み出したジェネラルの足が、その上へ乗る。
ほんの僅かに滑った。
肩が傾く。
「ゆうきくん!」
おむたろの声。
ゆうきは地面を蹴った。
さめちゃんが同時に盾を押し出す。
体勢を崩したジェネラルの上体が僅かに起きる。
おむたろは槍を盾の内側へ差し込んだ。
「こっち!」
石突を使い、盾を持つ腕を外へ押す。
一瞬だけ。
正面が開く。
胸。
鎧の薄い部分。
今まで何度も守られていた場所。
そこだけが、ゆうきの視界へ残った。
考える時間はなかった。
踏み込む。
剣へ無属性の魔力を流す。
余計な力は入れない。
仲間が作った隙へ。
一撃だけ届ける。
「――っ!」
白い魔力が刃へ沿う。
剣を振り抜いた。
手応え。
浅くはない。
ジェネラルの身体が大きく揺れた。
「グォ……!」
低い声。
戦斧が床へ落ちる。
それでも倒れまいと、ジェネラルは大盾を地面へ突き立てた。
一歩。
踏み出そうとする。
だが左脚に力が入らない。
膝が落ちる。
取り巻きのコボルトたちが動こうとした。
「まだ!」
さめちゃんが前へ出る。
大盾で進路を塞ぐ。
おむたろも槍を横へ構え、反対側を止めた。
ももちゃんは追撃へ行かない。
ジェネラルだけを見ている。
ゆうきも一歩下がった。
焦らない。
もう必要な一撃は入っている。
数秒。
ジェネラルは大盾を支えに立とうとしていた。
けれど。
力が抜ける。
膝が完全に床へついた。
身体の輪郭が薄くなる。
戦斧。
大盾。
巨体。
それらがゆっくりと黒い瘴気へ崩れていった。
ジェネラルが消えると同時に、残っていた取り巻きたちの身体も次々に形を失っていく。
広間へ黒い霧が広がり。
風に乗って薄れていった。
最後に。
硬い音を立て、拳ほどの魔石が床へ転がった。
静かになった。
ゆうきは剣を下ろす。
すぐには鞘へ戻さない。
探知魔法を広げる。
反応はない。
広間の左右。
入口。
岩陰。
念のためもう一度確認する。
「……終わった」
ようやく言葉にした時。
「はぁぁ……」
おむたろが大きく息を吐いた。
槍の石突を床へつける。
「さすがにこれは疲れたぁ……」
「おむたろ、最後いっぱい走ってたもんねぇ」
ももちゃんが大斧を小さな装飾品へ戻しながら笑う。
「誰の指示で走ったと思ってんの」
「私かなぁ」
「そうだよ!」
いつもの調子のやり取り。
それを聞いた途端、張りつめていたものが少しだけほどけた。
さめちゃんも大盾を床へ下ろし、その場へゆっくり腰を落とした。
「……盾、持っててよかった」
両腕へ残る痺れを確かめるように指を握る。
ちゃまがすぐ近くへ寄った。
「さめちゃん、腕見せて」
「大丈夫だよ。ちょっと痺れてるだけ」
「ちょっとかどうかは、ちゃまが見るの」
「……うん」
言われた通り腕を差し出す。
細かな切り傷。
赤くなった場所。
ちゃまは一つずつ確かめ、必要なところだけへ小さく回復魔法を使った。
「これくらいなら大丈夫」
淡い光が消える。
「ありがとう、ちゃまちゃん」
「えへへ。どういたしまして!」
ゆうきも剣を鞘へ収めた。
全身が重い。
大きな傷はない。
それでも、終わったと理解した途端に疲れが一気に出てきた。
「勝てたねぇ」
ももちゃんが床の魔石を見ながら呟く。
「ああ」
ゆうきは頷く。
「ほんとに、ぎりぎりだったけど」
「でも、ちゃんとみんなで勝ったよ」
さめちゃんが小さく笑う。
その言葉に。
誰もすぐ返さなかった。
ジェネラルの重い一撃を一人では止められない。
取り巻きを一人ですべて追うこともできない。
ももちゃん一人が相手の動きを読んでも、そこへ合わせる者がいなければ意味がない。
どこか一つ欠けていたら。
最後の形は作れなかった。
ゆうきは床へ落ちた魔石へ手を伸ばそうとした。
その時。
広間の中央で、淡い光が灯った。
「あっ」
ちゃまの狐耳が立つ。
光は少しずつ形を作り。
やがて古びた木箱へ変わった。
「宝箱!」
ちゃまの声が一気に明るくなる。
「元気だなぁ」
おむたろが苦笑する。
「宝箱は別!」
「何が別なの?」
「気持ち!」
そんな会話をしながら、五人で木箱へ近づく。
これまでの階層でも宝箱は見てきた。
それでも、ボスを倒した直後に現れるものを見ると、自然と少しだけ胸が高鳴る。
ゆうきはしゃがみ込み、念のため周囲と箱そのものを確認する。
「罠はなさそう」
「開けよ開けよ!」
「近いって」
後ろから覗き込むちゃまへ苦笑しながら、蓋へ手を掛けた。
木が軋む。
ゆっくりと開いた箱の中。
そこには一本の槍が収められていた。
「……槍?」
最初に声を漏らしたのはおむたろだった。
柄は深い黒。
穂先は赤銅色で、根元には小さな紅色の魔石が埋め込まれている。
近くへ手を寄せるだけで、僅かな温かさを感じた。
「火属性だねぇ」
ももちゃんが覗き込む。
ゆうきも槍へ魔力を薄く流してみる。
抵抗はない。
むしろ、こちらの魔力を受け取るように紅い魔石が淡く灯った。
「たぶん火属性の魔道具だ」
「え」
おむたろが自分を指差す。
「これ、もしかして私?」
「他に槍使う人いる?」
ゆうきが笑う。
「いないね」
「だよな」
槍を持ち上げる。
思ったより扱いやすい重さだった。
そのまま、おむたろへ差し出す。
「ほら」
「……いいの?」
「いいも何も、おむたろが使うのが一番自然だろ」
「それは、まあ……そうなんだけど」
珍しく少しだけ遠慮するように笑い、おむたろが両手で槍を受け取る。
指が柄へ触れた瞬間。
紅い魔石が一度だけ強く光った。
「わっ」
おむたろが目を丸くする。
光はすぐに落ち着く。
その代わり、槍全体へ薄い赤い魔力が流れた。
「……あったかい」
「熱くない?」
ちゃまが心配そうに聞く。
「うん。全然。なんか……身体の中まで少し温かくなる感じ」
おむたろは握りを確かめるように持ち替えた。
軽く一度、槍を振る。
穂先が空気を切る。
その軌跡へ、小さな火の粉が散った。
「おお……!」
今度は本人が嬉しそうに声を上げた。
「かっこいいじゃん!」
ちゃまが身を乗り出す。
「もう一回やって!」
「ちょっと待って、まだ慣れてないから!」
笑いながら槍を戻す。
その時。
ゆうきはおむたろの周囲の魔力が僅かに変わっていることへ気付いた。
火属性の魔力。
ただ武器から出ているだけではない。
身体の周囲へ薄く纏わりついている。
「おむたろ、少し待って」
「ん?」
ゆうきが近づき、槍へ視線を向ける。
「これ、火を出すだけじゃないかも」
「どういうこと?」
「持ってる間、おむたろの身体にも火属性の魔力が回ってる」
おむたろも自分の腕を見る。
「言われてみれば……さっきより暖かいかも」
「耐性かなぁ」
ももちゃんが首を傾げる。
「火に強くなるとかぁ」
「ありそうだな」
ゆうきは頷く。
「詳しくは学院で見てもらった方がいいけど、火属性耐性が付いてる可能性は高いと思う」
「え、攻撃もできて火にも強くなるの?」
おむたろは槍を見つめる。
嬉しそうな顔。
けれど、少ししてその表情が落ち着いた。
槍の石突を床へつける。
「……でもさ」
声が少しだけ静かになる。
四人も自然とそちらを見る。
「今日、ほんとにぎりぎりだったよね」
誰も否定しなかった。
ジェネラルの攻撃を受けきれなかった場面。
取り巻きの動きに追いつけなかった瞬間。
どこから崩せばいいか分からず、何度も攻めあぐねた時間。
ももちゃんが相手の癖を掴むまで、決定的な形を作れなかった。
「うん」
さめちゃんが静かに頷く。
「一回間違えたら、誰か大きな怪我しててもおかしくなかったと思う」
「ちゃまも、途中ちょっと怖かった」
杖を抱えたちゃまの狐耳が僅かに下がる。
「治せるかどうかじゃなくて、間に合うかなって」
ももちゃんも、ジェネラルがいた場所を見つめた。
「知らないこと、多かったねぇ」
ゆうきはその言葉に、ゆっくり頷いた。
戦いながら知った。
盾をどう使うのか。
戦斧を振ったあとにどんな癖があるのか。
取り巻きがどの合図で動くのか。
全部。
目の前で起きてから考えた。
それで勝てた。
けれど。
毎回それでいいのか。
次も。
その次も。
知らない相手へ、その場で考えるだけで進み続けるのか。
「……もっと知りたいな」
気付けば、口から言葉が出ていた。
四人がゆうきを見る。
「魔物のことも。このダンジョンのことも」
ゆうきは床へ残った魔石を拾い上げる。
「今日みたいに、戦ってから初めて分かることもあると思う。でも、戦う前に知れることまで知らないまま行く必要はないよな」
「うん」
さめちゃんが柔らかく頷いた。
「知ってたら、最初から違う動きができることもありそう」
「図書館行けばいいんじゃない?」
おむたろが新しい槍を見ながら言う。
「ルーメンなんだし。魔物もダンジョンも、めちゃくちゃ資料ありそうじゃん」
「国立魔導図書館だねぇ」
ももちゃんが小さく笑う。
「アムもよく行ってるって言ってた気がする」
ゆうきの頭に、水色の髪が浮かぶ。
学院へ来てから。
ゆうきが授業を受けている間、アムは街を歩いていた。
図書館にも何度か行っていると言っていたはずだ。
「じゃあ、聞いてみる」
「みんなで行く?」
ちゃまが嬉しそうに尋ねる。
ゆうきは少し考える。
「まず俺、アムと一回行ってみるよ。どんな資料があるかも分からないし」
「それがいいかもねぇ」
ももちゃんが頷く。
「必要なの分かったら、みんなで見てもいいしぃ」
「じゃあ私は、この槍のこと学院で調べてもらおっかな」
おむたろが新しい槍を軽く持ち上げる。
「火属性耐性ほんとにあるなら、ちゃんと知っときたいし」
「それも大事だな」
ゆうきは魔石を収納袋へ入れた。
疲れている。
身体も重い。
それでも。
戦いに勝った時とは少し違うものが胸に残っていた。
次はもっと強くなる。
それだけではない。
次は、もっと知った上でここへ戻ってきたい。
広間を満たしていた青白い魔力光は、戦闘前と何も変わらず淡く揺れている。
「そろそろ帰ろうか」
ゆうきが言う。
「賛成ー!」
ちゃまがすぐに片手を上げる。
「ちゃま、お腹空いた!」
「さっきまで緊張してたのに元気だね」
おむたろが笑う。
「戦い終わったもん!」
「分かりやすいなぁ」
ももちゃんも小さく笑った。
さめちゃんが大盾を背負い直す。
少し疲れたように肩を回してから、四人を見る。
「じゃあ、帰ろう」
「ああ」
五人で出口へ向かう。
今度は誰も先を急がなかった。
ゆうきは歩きながら、一度だけ後ろを振り返る。
さっきまでコボルトジェネラルが立っていた広間。
戦斧の重さ。
取り巻きの連携。
ももちゃんが見つけた僅かな癖。
知らなかったからこそ、苦労した。
けれど。
知らなかったことに気付けた。
それなら。
次にすることは決まっている。
ゆうきは前へ向き直る。
足元には五人分の足音が重なっていた。
その歩みは戦いに勝った高揚よりも少し落ち着いていて。
これから何を知るべきなのか。
それぞれが考えながら進んでいるように、静かに揃っていた。




