第2話 学院生活
学院長室の扉が静かに閉まり、廊下に再び穏やかな静けさが戻る。
アムは一度だけ深く息を吐くと、軽く肩を回した。
リリィと話し込んでいる間、ゆうきは学院の職員が案内してくれている。
先ほど別れる前にそう聞いていた。
「……そろそろ終わる頃かな。」
窓の外へ目を向ける。
青空の下、白い校舎と色鮮やかな木々が風に揺れていた。
この学院は何度訪れても変わらない。
学生たちの笑い声が響き、誰もがそれぞれの未来へ向かって歩いている。
リリィが守り続けてきた場所。
そして――レイが託した未来。
アムは小さく微笑み、そのまま廊下を歩き始めた。
◇
「こちらが講義棟になります。」
学院職員の穏やかな声を聞きながら、ゆうきは周囲を見回していた。
白い石造りの建物は五階建て。
長く続く廊下の両側には教室が整然と並び、開け放たれた扉の向こうからは教師の講義が聞こえてくる。
「現在は一年生のホームルーム中ですので、中には入りませんが、明日からはこちらで授業を受けていただきます。」
「ありがとうございます。」
学院へ来ることは決まっていた。
けれど、こうして実際に歩いてみると実感が湧いてくる。
本当に学生になるんだ。
冒険者として各地を旅してきた自分が、机に向かって学ぶ日が来るとは思わなかった。
「こちらは実技棟です。」
建物を抜けると、一気に視界が開けた。
広大な訓練場。
石畳の演習エリア。
魔法用の的が並ぶ射撃場。
木剣を打ち合わせる音。
風を切る槍。
炎を放つ魔法。
結界に包まれた演習場では、多くの学生が真剣な表情で訓練していた。
「すごい……。」
思わず声が漏れる。
「学院には様々な実技授業があります。剣術、槍術、魔法戦闘、連携訓練、模擬戦闘など、実践を重視した授業も多いですよ。」
見ているだけで胸が高鳴る。
ここなら、自分に足りないものを学べる。
そんな期待が自然と膨らんでいた。
「続いてこちらが食堂になります。」
建物へ入ると、昼食を終えた学生たちが談笑していた。
香ばしい焼き立てパンの匂い。
煮込み料理の優しい香り。
冒険者ギルドの酒場とは違い、どこか穏やかな空気が流れている。
「学生価格ですので、一般のお店よりかなり安く利用できます。」
「それは助かります。」
旅では食費も馬鹿にならない。
少しでも節約できるならありがたい。
職員は微笑みながら頷いた。
「特待生は一部補助もありますので、後ほど資料をお渡しします。」
「特待生……。」
まだその響きに慣れない。
自分が特待生と呼ばれることに、どこかくすぐったさを覚えた。
食堂を後にすると、そのまま購買へ向かう。
店内には教科書だけでなく、魔導書、インク、保存食、ロープ、包帯、小瓶に入った初級ポーションまで並んでいた。
「学院内でも簡単な装備品は購入できます。」
「冒険者向けなんですね。」
「ダンジョン実習がありますから。」
その一言で、ゆうきは少しだけ背筋を伸ばした。
冒険者として経験はある。
それでも学院の実習はまた違うものなのだろう。
新しい仲間。
新しい戦い方。
少し楽しみでもあった。
続いて医務室。
そして学生寮。
鍛錬場。
図書館は入口だけ案内された。
巨大な白い建物を見上げるだけで、その規模が伝わってくる。
「ここは国立魔導図書館と繋がっています。」
職員が説明する。
「詳しい利用方法は入学後に説明がありますので、本日は外観のみとなります。」
「……大きいですね。」
「世界最大級ですから。」
ゆうきは思わず見入ってしまう。
本好きなアムなら、一日中いても飽きないだろう。
そんな姿が容易に想像できた。
学院を歩いているだけで、一つの街を巡っているようだった。
講義棟。
実技棟。
研究棟。
学生寮。
医務室。
食堂。
購買。
図書館。
どれもが整然と並び、多くの学生を支えている。
「最後になります。」
職員は廊下を歩き、一つの教室の前で足を止めた。
「こちらが、明日からゆうきさんが所属するクラスになります。」
扉の向こうからは、ちょうどホームルームが終わったらしい話し声が聞こえてきた。
椅子を引く音。
笑い声。
友人同士の何気ない会話。
「今日はすでに終わっていますので、ご紹介は明日にしましょう。」
「はい。」
ゆうきも静かに頷く。
扉を開けて顔を出すこともできた。
けれど、初対面ならきちんと時間を取った方がいい。
そう思えた。
「今日はゆっくり休まれてください。」
「ありがとうございました。」
深く頭を下げる。
職員も穏やかに微笑み、その場を後にした。
「終わった?」
聞き慣れた声が聞こえた。
振り向くと、廊下の向こうからアムが歩いてくる。
「アム。」
「案内どうだった?」
「思ってたより広かった。」
「でしょ?」
アムは少し嬉しそうだった。
「図書館なんて、外から見ただけで圧倒されたよ。」
「中はもっとすごいよ。」
「今度一緒に行こう。」
「もちろん。」
二人は自然と並んで歩き始める。
学院を出る頃には、太陽はゆっくりと西へ傾き始めていた。
石畳が夕日に照らされ、街全体が橙色へ染まっていく。
「今日は宿を探そうか。」
「学院から近い方がいいよね。」
「毎日通うしね。」
二人は学院近くの通りを歩き始めた。
長期滞在向けの宿。
冒険者向けの宿。
商人向けの宿。
ルーメンには様々な宿が並んでいる。
「ここなんてどう?」
アムが立ち止まったのは、白い壁に青い屋根の落ち着いた宿だった。
入口には花壇が置かれ、派手さはないものの手入れが行き届いている。
中へ入ると、年配の女将が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。」
二人部屋も空いているという。
学院まで徒歩十分ほど。
食事付き。
静かな環境。
条件は十分だった。
「ここにしよう。」
「うん。」
部屋へ案内されると、窓から学院の塔が見えた。
「思ったよりいい部屋だね。」
「当たりだったかも。」
荷物を置き、一息つく。
夕食を終える頃には、窓の外はすっかり夜になっていた。
虫の鳴き声が静かに響く。
部屋には柔らかなランプの灯りだけが揺れていた。
ゆうきは窓辺へ立ち、夜の学院を眺める。
「緊張してる?」
後ろからアムが聞いた。
「少しだけ。」
素直に答える。
「知らない人ばかりだから。」
「だよね。」
アムも隣へ来る。
しばらく夜景を眺めた後、小さく笑った。
「でも、それでいいと思う。」
「え?」
「明日からは別行動しよう。」
その言葉に、ゆうきは少しだけ目を丸くした。
アムはゆっくり続ける。
「もちろん困ったらいつでも頼っていい。でも学院生活は、ゆうき自身が歩いた方がいいと思う。」
窓の外では、学院の灯りが静かに揺れている。
「うちはリリィのところにも行くし、図書館にも顔を出したい。昔から知ってる先生もいるから。」
少し照れたように笑う。
「だから学生としての時間は、ゆうきが自分で楽しんで。」
ゆうきは少しだけ考え、小さく頷いた。
「……うん。」
それは突き放す言葉ではなかった。
親友だからこそ、自分の力で新しい世界へ踏み出してほしい。
そんな優しさが伝わってくる。
「じゃあ、放課後は?」
「その時は一緒。」
「それなら安心だ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
明日から始まる学院生活。
新しい仲間との出会いは、もうすぐそこまで来ていた。
翌朝。
東の空が白み始める頃、窓から差し込んだ柔らかな朝日が部屋を照らした。
街はまだ静かだった。
通りを歩く人影も少なく、パン屋から漂う焼き立ての香りだけが、一日の始まりを知らせている。
ゆうきはゆっくりと目を開けた。
昨日までとは違う朝。
冒険へ向かうためでも、依頼を受けるためでもない。
今日は、学院へ通う学生として迎える最初の一日だった。
身支度を整えて部屋を出ると、ちょうど隣の部屋からアムも姿を現した。
「おはよう。」
「おはよう、アム。」
眠そうな様子はまったくない。
長命種だからというわけではなく、昔から朝は強かった。
「よく眠れた?」
「思ったよりぐっすり。」
「それならよかった。」
二人は一階へ降り、宿の食堂で簡単な朝食を取る。
焼き立てのパンに野菜のスープ。
厚切りのベーコンと卵。
豪華ではないが、どこか家庭的で温かい味だった。
「学院の食堂も楽しみだな。」
ゆうきが呟くと、アムが笑う。
「種類が多いから飽きないよ。」
「そんなに?」
「うちでも全部は食べ切れてない。」
「それはすごい。」
食事を終えると、二人は並んで学院へ向かった。
朝のルーメンは、昨日とはまた違う表情を見せている。
学生たちは教科書や杖を抱えながら足早に歩き、商店街では店主たちが開店準備に追われていた。
学院へ近づくにつれ、人の流れも自然と増えていく。
正門へ到着すると、アムが歩みを止めた。
「じゃあ、ここからは別行動。」
昨日話した通りだった。
「うん。」
「放課後になったらまた宿で。」
「分かった。」
ゆうきは少しだけ笑う。
「なんか不思議だな。」
「何が?」
「一緒に旅をしてきたのに、ここで『行ってきます』って言うの。」
アムも少しだけ目を細めた。
「旅も続いてるよ。ただ、今日は違う景色を見るだけ。」
その言葉は、どこかアムらしかった。
長い時間を生きてきたからこそ言える、穏やかな考え方。
「それじゃ。」
「うん。頑張って。」
軽く手を振る。
アムはそのまま学院の奥へと歩いていき、ゆうきも職員棟の方へ足を向けた。
昨日案内してくれた職員が、入口で待っていてくれた。
「おはようございます、ゆうきさん。」
「おはようございます。」
「こちらへどうぞ。」
二人は講義棟へ向かう。
廊下には昨日よりも多くの学生が歩いていた。
友人同士で笑い合う者。
授業の確認をする者。
慌てて走っていく者。
様々な表情が行き交う。
その様子を眺めながら歩いていると、不思議と緊張が湧いてきた。
冒険者ギルドで初めて依頼を受けた時とも違う。
剣を握って魔物と向き合う時とも違う。
もっと静かで、胸の奥が少しくすぐったくなるような緊張だった。
「こちらです。」
昨日教えてもらった教室の前で職員が立ち止まる。
「ホームルームが始まる前にご紹介します。」
「お願いします。」
深呼吸を一つ。
扉がゆっくりと開かれた。
教室では、すでに多くの生徒が席についていた。
談笑している者。
本を読んでいる者。
眠そうに机へ突っ伏している者。
視線が一斉に入口へ集まる。
「皆さん、おはようございます。」
職員が教壇へ立つ。
「今日から、このクラスへ新しく編入する生徒を紹介します。」
教室が静かになった。
「どうぞ。」
ゆうきは一歩前へ出る。
「初めまして。ゆうきです。」
軽く頭を下げる。
「まだ分からないことも多いですが、よろしくお願いします。」
顔を上げた、その瞬間だった。
「……ぁ。」
一人の少女が目を見開く。
ミルクブラウンの長い髪。
ぴんと立った狐耳。
星を思わせる飾りの付いた制服。
金色の瞳が、まるで信じられないものを見るように揺れていた。
次の瞬間。
「ぁーーーーーー!!!!」
教室中へ響き渡るほど大きな声だった。
勢いよく立ち上がった少女は、机へ両手をついたままゆうきを指差す。
「ゆうきくんだぁーーーーーーっ!!」
教室が静まり返る。
突然の大声に、全員が固まっていた。
ゆうきも思わず目を丸くする。
「……ちゃま?」
その一言で、少女の表情がぱっと明るくなる。
「やっぱりゆうきくんだぁ!」
今にも飛び出してきそうな勢いだった。
しかし、その袖を隣に座る銀髪の少女がそっと掴む。
「ちゃま。」
落ち着いた声だった。
「……授業、始まるよぉ」
「あ。」
狐耳がぴくりと動く。
ようやく周囲の視線に気付いたらしい。
「えへへ……。」
照れ笑いを浮かべながら、ゆっくり椅子へ座り直した。
教室のあちこちから小さな笑い声が漏れる。
「ちゃまらしい。」
「朝から元気だな。」
「びっくりした。」
そんな声が聞こえてきて、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
職員も苦笑しながら咳払いを一つする。
「……それでは、ゆうきさんの席はこちらです。」
案内された席は、ちゃまたちのすぐ近くだった。
椅子へ腰掛けると、ちゃまはそわそわと落ち着かない様子で何度もこちらを見てくる。
話しかけたい。
でも授業前だから我慢している。
そんな様子が表情からよく伝わってきた。
ゆうきは思わず笑みを浮かべる。
変わっていない。
昔と同じ、人懐っこい笑顔だった。
やがて教師が教室へ入り、ホームルームが始まる。
編入の簡単な説明。
今日の授業内容。
そして最後に、一枚の紙が配られた。
「本日から一年生はダンジョン実習を開始します。」
教室の空気が少し引き締まる。
「実習は五人一組で行います。すでに編成済みの班もありますが、一部調整がありますので後ほど発表します。」
ちゃまの耳がぴくりと動いた。
その視線が、ちらりとゆうきへ向く。
どこか期待に満ちた表情だった。
ホームルームが終わると同時に、教室中へ一斉に話し声が広がった。
椅子を引く音。
教科書を閉じる音。
あちこちで友人同士が次の授業やダンジョン実習の話を始める。
そんな中、一番最初に席を立ったのは、やはりちゃまだった。
「ゆうきくーーん!!」
勢いよく駆け寄ってきたかと思えば、寸前でぴたりと足を止める。
「……あ。」
我慢するように両手を胸の前で握りしめる。
「飛びつこうと思った。」
「思っただけで止まれたんだ。」
「えっへん!」
胸を張るちゃまに、ゆうきは思わず笑ってしまう。
「久しぶり。」
「久しぶりなのー!」
嬉しそうに尻尾が左右へ大きく揺れていた。
「まさかゆうきくんが同じ学院に来るなんて思わなかったよ!」
「俺も、ちゃまたちがここにいるなんて知らなかった。」
「ちゃまたちも昨日まで知らなかったもん!」
相変わらず感情がそのまま表情へ出る。
その明るさに、教室の空気まで自然と和んでいく。
「やっほー! ゆうきくん!」
ちゃまの後ろから、ひらひらと大きく手を振る少女が歩いてきた。
淡いピンクゴールドの長い髪が揺れ、屈託のない笑顔が弾ける。
「こっちでは初めまして、になるのかな?」
「そうなるね。」
「なんか変な感じだねぇ。でも、また会えて嬉しい!」
昔と変わらない距離感。
初対面のような言葉を口にしながらも、その笑顔には昔からの親しさが溢れていた。
「改めてよろしく、おむたろ。」
「うん! よろしくね、ゆうきくん!」
おむたろは満足そうに頷くと、そのまま隣の少女の背中を軽く押した。
「ほらほら、ももねも!」
「わぁ〜……。」
銀髪の少女が、ふんわりと笑う。
穏やかな青い瞳がゆうきを映した。
「ゆうきくんだぁ〜。」
間延びした口調は昔のまま。
「久しぶりだねぇ〜。」
「久しぶり、ももちゃん。」
「えへへぇ〜。また会えたねぇ〜。」
その柔らかな笑みに、ゆうきの頬も自然と緩む。
最後に、小柄な少女が少し照れたように一歩前へ出た。
「あ、ゆうきくんだ。」
紫色の優しい瞳が細められる。
「やっほー。」
「やっほー、さめちゃん。」
「ふふっ。また一緒になれたね。」
その一言だけで、胸の奥の緊張がすっとほどけていく。
知らない学院へ来たはずなのに、気付けば昔と変わらない空気に包まれていた。
「そういえば!」
ちゃまが両手を叩く。
「先生から聞いた?」
「ダンジョン実習のこと?」
「そうそう!」
狐耳をぴんと立てながら大きく頷く。
「実習って五人一組なんだけど、ゆうきくんの班、まだ決まってないんだよね?」
「そうみたい。」
「だったらさ!」
ちゃまが身を乗り出す。
「一緒の班になろうよ!」
ゆうきは四人の顔を順番に見渡した。
おむたろはにっと笑いながら親指を立てる。
「わたしは大歓迎!」
ももねも、ゆったりと頷く。
「ゆうきくんと一緒なら安心だよねぇ〜。」
なもも優しく微笑んだ。
「僕も賛成です。」
「ちゃまももちろん賛成!」
四人とも迷いがない。
その様子に、ゆうきは少し照れくさそうに笑った。
「俺でよければ。」
「やったぁーーー!!」
ちゃまが勢いよく両手を上げる。
教室中へ響く歓声に、周囲からも笑い声が漏れた。
「またちゃまだ。」
「朝から元気だなぁ。」
「でも、ちゃまらしいよね。」
そんな声が聞こえても、本人はまったく気にしていない。
「じゃあ放課後!」
拳をぎゅっと握る。
「実習の準備しに行こ!」
◇
授業を終える頃には、空は少しずつ夕暮れ色へ染まり始めていた。
学院を出た五人は、そのまま冒険者向けの商店街へ向かう。
「まずはポーション見に行こっか。」
おむたろが先頭を歩きながら振り返る。
「実習で使う分くらいは揃えといた方が安心だしね。」
「賛成〜。」
ももねがのんびりと頷く。
「こっちこっち!」
ちゃまが元気よく先導し、迷いなく路地を曲がっていく。
最初に入ったのは薬屋だった。
棚には色とりどりの薬瓶が並び、ほのかに薬草の香りが漂っている。
「初級回復ポーションは二本くらいあると安心かなぁ〜。」
ももねが一本手に取りながら言う。
「状態異常回復も一本あると便利だよ。」
おむたろが隣の棚から小瓶を取り、ゆうきへ見せた。
「ありがとう。」
ゆうきは一本ずつ籠へ入れていく。
「学院の実習だからって油断しない方がいいもんね。」
「うん!」
なもが小さく頷く。
「準備しておけば安心だから。」
次は道具屋へ。
包帯や保存食、ロープなどを見て回る。
「さめちゃんは何か買うの?」
ゆうきが尋ねると、なもは背中の大盾へ手を添えた。
「盾の革紐だけ替えようかな。」
「ちゃんと手入れしてるんだ。」
「うん。この子は相棒だから。」
そう言って優しく盾を撫でる姿は、いかにもなもらしかった。
一方、ちゃまは杖を眺めながら腕を組んでいる。
「ちゃまは?」
「見るだけ!」
「買わないの?」
「お金ない!」
胸を張って言い切る。
一瞬静まり返り、次の瞬間、全員が吹き出した。
「威張るところじゃないでしょ。」
おむたろが笑いながら頭を軽く小突く。
「えへへ。」
ちゃまは悪びれる様子もなく笑った。
必要な物を買い終え、店を出る頃には夕日が街を優しく染めていた。
「これで準備ばっちりだね!」
ちゃまが大きく伸びをする。
「明日の実習、楽しみだなぁ〜。」
ももねが空を見上げながら微笑む。
「みんなで一緒だもんねぇ〜。」
「うん。」
なもも嬉しそうに頷く。
ゆうきは四人の後ろ姿を眺めながら、小さく息を吐いた。
学院へ来る前は、新しい生活に少しだけ不安があった。
知らない場所。
知らない仲間。
けれど、そのどれもが杞憂だった。
またこうして笑い合える仲間がいる。
それだけで、この学院生活はきっと楽しいものになる。
夕暮れの風が五人の間を吹き抜ける。
その穏やかな風に背中を押されるように、ゆうきたちは明日から始まる初めてのダンジョン実習へ向け、ゆっくりと宿への帰り道を歩き始めた。




