第3話 握手(後編②)
「それじゃあ、これで登録は終わり!」
ギルドを出ると、昼の日差しが二人を包み込んだ。
午前中よりも人通りはさらに増え、石畳の道には買い物客や冒険者たちが行き交っている。
「無事に終わってよかったね。」
アムネジアはどこか自分のことのように嬉しそうだった。
「全部、アムネジアのおかげだ。」
「そんなことないよ。」
首を横に振る。
「私は少し手伝っただけ。」
「それでも助かった。」
「えへへ。」
照れくさそうに笑う姿を見て、ゆうきも自然と笑みがこぼれる。
昨日までは、この世界で一人だった。
右も左も分からず、不安しかなかった。
それが今では、隣に誰かがいる。
その存在だけで、不思議と心が軽くなっていた。
「今日はこのあとどうするの?」
「まずは街を見て回りたい。」
「そっか。」
アムネジアは少しだけ考え込む。
「それなら、おすすめの場所を教えるね。」
そう言って、広場や武器屋、市場、教会など、この街のことを一つひとつ話し始めた。
話している時のアムネジアは、本当に楽しそうだった。
自分の好きな街を紹介することが嬉しいのだろう。
その様子を見ながら、ゆうきは静かに耳を傾ける。
聞き上手なのか、話し上手なのか。
きっと、その両方なのだ。
「……あ。」
アムネジアが急に足を止めた。
「どうした?」
「私、午後から用事があったんだった。」
「ああ。」
「ごめんね。」
少し申し訳なさそうに笑う。
「本当はもっと案内したかったんだけど。」
「十分すぎるくらい助けてもらった。」
ゆうきは穏やかに首を振る。
「昨日からずっと世話になりっぱなしだ。」
「そんなことないって。」
「いや、本当に。」
宿。
食事。
ギルド登録。
どれも、自分一人ではどうにもならなかった。
感謝してもしきれない。
「ありがとう、アムネジア。」
改めてそう伝えると、アムネジアは少しだけ目を丸くした。
そして、柔らかく笑う。
「どういたしまして。」
その笑顔を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなる。
理由は分からない。
ただ、どこか懐かしいような気がした。
けれど、その感覚を言葉にすることはできなかった。
「じゃあ、またね。」
アムネジアは軽く手を振る。
「また。」
ゆうきも手を振り返した。
アムネジアは小走りで去っていく。
その後ろ姿が人混みの中へ溶け込み、見えなくなるまで、ゆうきはその場に立ち尽くしていた。
(……変な感じだ。)
出会ってまだ二日も経っていない。
それなのに。
別れるだけで、少しだけ寂しい。
そんな感情が胸をよぎる。
「まあ、また会えるか。」
小さく呟き、歩き出す。
ギルドカードの入ったポケットへ手を添えながら。
この世界で初めて手に入れた、自分の居場所。
そして、初めてできた繋がり。
まだゆうきは知らない。
あの少女との出会いが、偶然ではないことを。
自分のユニークスキルが、なぜ”五割”というあり得ない共鳴を示したのかを。
その答えは、まだ誰の記憶にも眠ったままだった。




