表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの時間をもう一度  作者: ゆうき
始まりの再会
PR
2/9

第1話 「降り立った草原」

風の匂いがした。


柔らかな草が肌をくすぐる。


頬を撫でる風は少し冷たく、それでいて心地よい。


「……ん。」


ゆうきはゆっくりと目を開けた。


真っ青な空。


雲一つない。


視界いっぱいに広がる草原。


「……。」


数秒、何も考えられなかった。


「ここ……。」


身体を起こす。


地面に触れる。


草を握る。


土の匂い。


全部、本物だった。


「異世界……か。」


不思議と怖くはなかった。


むしろ胸が高鳴る。


「本当に来たんだ。」


立ち上がり、辺りを見渡す。


見えるのは草原だけ。


遠くには森。


さらに奥には山脈。


煙が上がっている場所も見える。


「街かな。」


歩き出そうとした、その時だった。


頭の奥が熱くなる。


《魂の共鳴》


不意に、その言葉が脳裏に浮かぶ。


「そういえば……。」


もぐから授かったユニークスキル。


試そうにも、共鳴する相手がいない。


「まあ、今は使えないか。」


苦笑しながら歩き出す。


草を踏む音だけが静かに響く。



数十分ほど歩いただろうか。


突然。


「ギャアアアア!!」


獣の咆哮が森から響いた。


ゆうきは思わず立ち止まる。


「……え。」


次の瞬間。


森の木々をなぎ倒しながら、一頭の巨大な魔物が飛び出してきた。


高さは三メートルほど。


灰色の毛並み。


鋭い牙。


真っ赤な瞳。


「嘘だろ……。」


魔物もゆうきに気付いた。


目が合う。


沈黙。


そして。


「グルルルル……。」


「……いやいやいや。」


逃げよう。


そう思った瞬間。


魔物が地面を蹴った。


「速っ――!!」


死を覚悟した、その時。


ヒュン。


一本の矢が空を裂いた。


魔物の頬をかすめる。


「そこの人!」


女性の声。


「伏せて!!」


反射的に身を低くしたゆうきの頭上を、一陣の風が駆け抜ける。


その先で、一人の少女が魔物へ向かって駆けていた。


水色の髪をなびかせながら。


軽やかに。


迷いなく。


右手には、一振りの剣。


「──邪魔。」


その声は静かだった。


けれど次の瞬間、彼女の髪が淡い赤色へと変わる。


剣を振るう。


一閃。


炎を纏った斬撃が魔物を吹き飛ばした。


轟音と共に、巨体が地面へ倒れる。


静寂。


少女は剣を納めると、ゆっくりとゆうきの方へ振り返った。


「大丈夫?」


柔らかな声だった。


ゆうきは息を整えながら頷く。


「あ、ありがとうございます……。」


少女は少し安心したように笑う。


「こんなところ、一人で歩くなんて危ないよ。」


「えっと……」


ゆうきは初めて、その顔をしっかり見る。


どこかで見たことがある気がする。


初対面のはずなのに。


なぜか懐かしい。


水色の髪。


青い瞳。


優しく笑うその表情。


胸の奥が、少しだけざわついた。


「……誰だ?」


少女は倒れた魔物を一瞥すると、腰に下げていた小さな短剣を取り出した。


慣れた手つきで魔物の胸元へ刃を入れる。


「……あった。」


取り出したのは、親指ほどの大きさの淡い紫色の結晶だった。


光を受けてきらりと輝く。


「それって……?」


ゆうきが尋ねると、少女は結晶を小袋へしまいながら答えた。


「魔石。」


「魔物の体内で魔力が固まってできるものだよ。」


「売ればお金になるし、魔道具にも使われる。」


「あぁ……。」


もぐから頭に流し込まれた知識が少しだけ繋がる。


『魔物は魔石を宿すことがある。』


確かにそんな知識があった気がした。


「知識はあるのに、実物を見ると全然違うな……。」


少女はくすっと笑う。


「初めて見た?」


「うん。」


「そっか。」


それ以上は聞いてこない。


普通なら、


「どこの村?」


「なんで一人なの?」


と質問されそうなものだが、彼女は何も聞かなかった。


それが少し不思議だった。


「歩ける?」


「大丈夫。」


「じゃあ、一緒に街まで行こう。」


「街!」


ゆうきの表情が明るくなる。


少女はその反応を見て、少しだけ笑みを深くした。


「そんなに嬉しい?」


「いや……異世界の街って初めてだから。」


「……異世界?」


「あ。」


思わず口を滑らせた。


少女は首を傾げる。


「変なこと言う人だね。」


「いや、その……。」


ごまかそうとしたが、うまい言葉が出てこない。


少女は少しだけ考えたあと、


「まあ、いいか。」


と笑って歩き始めた。


助かった。


ゆうきは胸を撫で下ろす。


(転生者って言っても信じてもらえないよな……。)



森へ続く道を二人で歩く。


道と言っても、獣道のような細い一本道だ。


足元では小さな花が揺れ、木々の隙間から木漏れ日が差し込んでいる。


鳥の鳴き声も聞こえる。


平和だった。


さっきまで命を狙われていたとは思えないほど。


「そういえば。」


少女が前を向いたまま話しかける。


「名前は?」


「あ、俺はゆうき。」


「ゆうき。」


その名前を口にした瞬間だった。


少女の歩みが、一瞬だけ止まる。


本当に一瞬。


ゆうきは気付かなかった。


少女だけが、小さく目を見開く。


(……ゆうき?)


その名前。


胸の奥がざわつく。


懐かしいような。


切ないような。


何か大切なものを思い出しそうになる。


でも、思い出せない。


「どうした?」


「……ううん。」


少女は何事もなかったように笑った。


「いい名前。」


「ありがとう。」


再び歩き出す。


少女は横目でゆうきを見る。


黒髪。


黒い瞳。


どこにでもいそうな青年。


でも。


(なんだろ。)


(初めて会った気がしない。)


そんな違和感だけが残る。



しばらく歩くと、森が開けた。


その先には、高い石壁が見えた。


城壁。


大きな門。


その前には荷馬車が列を作っている。


「おぉ……。」


ゆうきは思わず声を漏らした。


本当にファンタジーの世界だった。


鎧を着た兵士。


荷物を運ぶ商人。


耳の長い種族。


獣耳の子ども。


見たこともない景色ばかりだ。


「すご……。」


少女はその反応を見て、少し楽しそうに笑う。


「田舎から来た人みたい。」


「いや、本当に初めてだから。」


「ふふっ。」


自然に笑い合う。


その空気は、不思議と居心地がよかった。


門へ近付くと、兵士が二人を止める。


「身分証の提示を。」


少女は首から下げていた銀色のプレートを見せる。


兵士の表情が変わる。


「失礼しました。」


深く頭を下げる。


「どうぞ、お通りください。」


ゆうきは驚いた。


(そんなに偉い人なのか?)


少女はプレートをしまいながら、


「この人は?」


と兵士に聞かれる。


「あ……。」


ゆうきは言葉に詰まる。


身分証なんて当然持っていない。


少女は少し考えたあと、兵士へ向き直った。


「私の保護対象。」


兵士は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、


「承知しました。」


それだけ言って門を開けた。


門の中へ入る。


石畳。


露店。


香ばしいパンの匂い。


鍛冶屋の金属音。


子どもたちの笑い声。


異世界の街は、想像していた以上に活気に満ちていた。


ゆうきは思わず立ち止まる。


「すげぇ……。」


少女はそんな様子を見て、小さく笑う。


「今日は宿を探そう。」


「お金ないでしょ?」


図星だった。


「……はい。」


「じゃあ、今日は私が出すよ。」


「え!? いや、それは悪いよ!」


「命を助けたついで。」


「ついでって。」


「困った時はお互い様。」


そう言って歩き出す彼女の後ろ姿を見ながら、ゆうきは思った。


(この人……。)


(やっぱり、どこか懐かしい。)


まだ、その理由には気付いていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ