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あの時間をもう一度  作者: ゆうき
第一章 始まりの再会

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第9話 スタンピード 第二部 再会



「西側防衛線! オークジェネラルを確認!」


その報告が響いた瞬間だった。


「遊撃部隊、出ろ!」


ギルドマスターの号令とともに、数人の冒険者が前線を飛び越えて駆け出す。


ジェネラル級。


キング直属の指揮官。


あれを放置すれば、防衛線そのものが崩壊する。


「バルドさん!」


「ゆうき、お前も来い!」


「え?」


「近接が足りねぇ!」


返事を待たずに駆け出す。


ゆうきも迷わず後を追った。


街道を抜け、魔物の群れを切り裂くように進んでいく。


途中、オークやゴブリンが立ちはだかるが、遊撃部隊の冒険者たちは連携よく突破していく。


さすがは歴戦の冒険者たちだった。


「見えた!」


前方の丘。


そこに、一際大きなオークが立っていた。


全身を黒い鎧で包み、巨大な戦斧を肩へ担いでいる。


周囲のオークたちは、その動き一つで陣形を変えていた。


「あれが……。」


「オークジェネラルだ。」


バルドが低く呟く。


「キングほどじゃねぇが、あいつも十分化け物だ。」


その瞬間だった。


オークジェネラルがゆっくりと戦斧を掲げる。


「グォォォォォッ!!」


咆哮。


次の瞬間、周囲のオークたちが一斉に動き始めた。


左右へ展開し、防衛部隊を包み込むように回り込んでいく。


「まずい!」


「包囲する気だ!」


「ジェネラルが指揮してやがる!」


遊撃部隊が迎撃へ向かう。


しかし、その数は圧倒的だった。


「くそっ……!」


バルドが舌打ちする。


「数が多すぎる!」


その時。


遠くから、風に乗って一つの音色が聞こえた。


――ジャラン。


優しく、それでいて力強い。


戦場には似つかわしくないギターの音。


一度。


二度。


旋律が響くたび、不思議と胸の奥の恐怖が薄れていく。


「……なんだ?」


誰かが呟いた。


音は少しずつ近付いてくる。


そして。


「そんな怖い顔しなくていいよ。」


穏やかな声が戦場へ響いた。


「笑って帰ろう。」


その一言とともに、鮮やかな赤いマントを羽織った一人の青年が丘の上へ姿を現した。


肩には一本のギター。


歩くたびに、軽やかな音色が戦場へ広がっていく。


「間に合ったみたいだね。」


柔らかな笑みを浮かべながら、青年はゆっくりとギターを構えた。


その姿を見た冒険者たちの表情が変わる。


「来た!」


「笑奏の吟遊詩人!」


「ぽぽさんだ!」


歓声にも似た声が上がる。


青年は照れくさそうに頭をかいた。


「そんな大げさに呼ばないでよ。」


「みんな頑張ってるのは同じなんだから。」


そう笑うと、静かに弦を弾く。


優しい旋律が戦場全体へ広がっていった。


その音を聞いた瞬間。


疲れ切っていた冒険者たちの表情が、少しだけ和らぐ。


重かった体が軽くなる。


震えていた手が止まる。


「支援魔法……!」


魔導士が驚きの声を上げる。


「これほど広範囲に……。」


ぽぽは笑ったまま視線を前へ向ける。


「さぁ。」


「第二ラウンド、始めようか。」


ギターの音色が戦場へ広がる。


優しく、どこか懐かしい旋律だった。


張り詰めていた空気が少しだけ和らぎ、恐怖で強張っていた体から自然と力が抜けていく。


「よーし!」


ぽぽが大きく声を張る。


「みんな! 下向いてる暇ないよー!」


にかっと笑いながら、ギターを軽く掲げた。


「今日はちゃんと全員で帰る!」


「約束ね!」


その一言だけで、不思議と戦場に笑みが戻る。


「相変わらずだな、ぽぽさん!」


「帰ったら一杯奢ってくださいよ!」


「もちろん!」


「でも今日は君たちのお財布でね!」


「ひどっ!」


冒険者たちから笑いが起こる。


ほんの数秒前まで死と隣り合わせだった空気が、少しだけ軽くなった。


ゆうきはその様子に目を奪われていた。


(この人……。)


戦う前に、みんなの表情を変えた。


剣でも魔法でもない。


たった数秒の言葉だけで。


ぽぽは前へ出ない。


ゆっくりと一歩下がり、ギターを抱え直す。


「じゃ、始めよっか。」


ジャラン――。


軽快なコードが鳴り響く。


赤い魔法陣が戦場全体へ広がっていく。


「おぉ……!」


「力が……!」


重かった剣が軽い。


足取りが自然と前へ出る。


魔力が体の奥から湧き上がってくる。


「支援魔法!」


「攻撃力上昇!」


「魔力上昇!」


「身体強化まで!」


魔導士たちが驚きの声を上げる。


ぽぽは笑いながら肩をすくめた。


「細かいことは後で!」


「今は勝って帰ることだけ考えて!」


その笑顔を見た瞬間だった。


ゆうきとぽぽの視線が、初めて真正面から交わる。


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


ぽぽの笑顔が止まった。


「……え。」


思わず漏れた小さな声。


見間違えるはずがない。


あの優しい目。


誰よりも仲間を気遣う立ち姿。


三十年前。


この世界へ転移する前、何度も笑い合った大切な友人。


目の前の青年は、その頃のゆうきと、あまりにも同じだった。


胸の奥から、喜びが一気に込み上げる。


(ゆうき……!)


(会えた……!)


ずっと心のどこかで願っていた再会。


まさか、こんな形で叶うなんて思ってもいなかった。


思わず駆け寄りそうになる。


けれど次の瞬間、オークの咆哮が戦場に響く。


我に返ったぽぽは、ふっと笑みを浮かべた。


「……よし。」


今は戦いの最中だ。


再会を喜ぶのは、みんなが無事に生きて帰ってからでいい。


ぽぽはいつものように明るくギターを構え直し、大きな声を響かせる。


「みんなー! もうひと踏ん張りだよ!」


「終わったら美味しいご飯でも食べながら、ゆっくり話そう!」


その笑顔は、さっきまでと何一つ変わらなかった。


ただ一つだけ違うのは。


その視線が、一瞬だけゆうきへ向けられたことだった。


ぽぽの演奏が、一段と力強さを増す。


軽快だった旋律はそのままに、魔力だけがさらに膨れ上がっていく。


淡い光が戦場を駆け抜け、前線で戦う冒険者たちを包み込んだ。


「よしっ!」


「その調子、その調子!」


「前ばっかり見てたら疲れちゃうよー!」


ギターを鳴らしながら、戦場を駆け回る。


「右の騎士さん! 無理しすぎ!」


「魔導士チーム、あと三秒耐えて!」


「はい、そこで一発!」


ぽぽの声に合わせるように、戦場全体の動きが噛み合っていく。


まるで一つの演奏だった。


「すごい……。」


ゆうきは思わず息を呑む。


誰かが指示しているわけじゃない。


それでも自然と連携が生まれている。


「これが……。」


「Aランク冒険者。」


その時だった。


「グォォォォォッ!」


オークジェネラルが大きく戦斧を振り上げる。


周囲にいたオークたちが一斉に向きを変えた。


狙いは。


ぽぽ。


「ぽぽさん!」


誰かが叫ぶ。


十数体のオークが、一斉に突撃を始めた。


「おっと。」


ぽぽは慌てる様子もなく笑う。


「人気者は大変だねぇ。」


軽く後ろへ飛び退く。


その動きに合わせるように、再びギターを鳴らした。


ジャラン――。


今度は赤い魔法陣が足元へ広がる。


「《フレアバレット》」


十数発の炎弾が一直線に飛び出し、先頭のオークたちを吹き飛ばした。


「うわぁ……。」


ゆうきは思わず見入ってしまう。


支援だけじゃない。


攻撃魔法も、一級品だった。


「でも!」


ぽぽは笑いながら肩をすくめる。


「今日は君たちの日!」


「ほらほら!」


「主人公は前に出ないと!」


そう言って、ゆうきへ向かって手を振る。


「え?」


「君!」


「そこでぼーっとしてる藍色くん!」


「今なら行けるよ!」


突然声を掛けられ、一瞬戸惑う。


けれど。


オークジェネラルは炎魔法で体勢を崩していた。


「……分かった!」


ゆうきは地面を蹴る。


魔力を足へ流し込み、一気に距離を詰める。


「バルドさん!」


「合わせます!」


「任せろ!」


バルドも同時に飛び出した。


左右から挟み込む。


ジェネラルが戦斧を振り上げる。


重い。


一撃受ければ終わる。


だから止まらない。


踏み込む。


剣を振る。


ガキィン!


金属音が響く。


ジェネラルは素早く斧を返し、ゆうきを弾き飛ばそうとする。


「今だよ!」


ぽぽの声が飛ぶ。


同時に、鋭い雷がジェネラルの足元へ落ちた。


「《ライトニング》!」


一瞬だけ動きが止まる。


ほんの一瞬。


その隙を、ゆうきは見逃さなかった。


「はぁぁぁっ!」


全身の力を込めて踏み込み、渾身の一撃を振り抜く。


剣が鎧の隙間を捉える。


オークジェネラルが苦悶の咆哮を上げ、大きく体勢を崩した。


「今だ!」


バルドの斧が振り下ろされる。


轟音とともに土煙が舞い上がる。


勝負は、あと一撃だった。


土煙の中から、低いうなり声が響く。


「まだ立つのか……!」


バルドが斧を構え直す。


土煙が晴れると、そこには膝をつきながらも立ち上がろうとするオークジェネラルの姿があった。


肩口から血を流し、それでも戦斧だけは離さない。


その目には、まだ闘志が宿っていた。


「グォォォォッ!!」


咆哮と同時に、大地を蹴る。


狙いは、ゆうき。


「ゆうき!」


バルドが叫ぶ。


間に合わない。


そう思った、その瞬間。


ジャラン――。


一際澄んだ音色が戦場へ響いた。


ぽぽの演奏が変わる。


優しく背中を押すような旋律。


ゆうきの体が、ふっと軽くなる。


視界が開ける。


相手の動きが、さっきまでより鮮明に見えた。


「そこ!」


ぽぽの声が飛ぶ。


ゆうきは反射的に一歩踏み込む。


振り下ろされた戦斧を紙一重でかわし、そのまま懐へ潜り込んだ。


「はあっ!」


剣を横一文字に振り抜く。


ガキン、と硬い感触。


鎧が砕ける。


しかし、まだ浅い。


「いいよ!」


「そのまま押して!」


ぽぽは笑顔のまま演奏を続ける。


前には出ない。


戦うのは、ゆうきだ。


ぽぽは、その一歩後ろから道を作る。


(そうか……。)


ゆうきは剣を握り直した。


この人は、自分が倒そうとはしない。


仲間が力を発揮できる場所を作っているんだ。


だったら。


応えたい。


「もう一度!」


地面を蹴る。


オークジェネラルも雄叫びを上げ、戦斧を振りかぶった。


真正面からぶつかる。


――いや、違う。


ほんの少しだけ踏み込む角度を変える。


相手の重心が前へ流れる。


その一瞬を狙って、体を滑り込ませた。


「もらった!」


剣閃が閃く。


鎧の継ぎ目。


首元へ向かって一直線に走る。


オークジェネラルの動きが止まった。


数歩ふらつき、巨大な体がゆっくりと傾いていく。


ドォン――。


地面を揺らしながら倒れ伏した。


一瞬、戦場が静まり返る。


次の瞬間。


「ジェネラルを倒したぞ!」


誰かの叫びが響いた。


「おおおおっ!」


冒険者たちから歓声が上がる。


オークたちの動きが目に見えて乱れ始めた。


指揮官を失った群れは、それぞれが本能のまま暴れ始める。


「今だ!」


「押し返せ!」


騎士団が一斉に前へ出る。


冒険者たちもそれに続き、防衛線は一気に押し返し始めた。


「やったね!」


ぽぽが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「初めてにしては百点満点!」


そう言って、ゆうきの肩をぽんと叩いた。


「最後の踏み込み、すごく良かったよ!」


「……ありがとう。」


息を切らしながら答える。


「でも、一人じゃ勝てなかった。」


「もちろん!」


ぽぽは満面の笑みで頷く。


「一人じゃ勝てない相手だから、みんなで勝つんだよ。」


その言葉には、不思議と説得力があった。


「だからさ。」


ギターを肩に担ぎ直し、にっと笑う。


「まだ終わってない。」


ぽぽは戦場の奥へ視線を向ける。


その先では。


空を焦がす炎。


大地を砕く雷。


幾重にも重なる魔法の光が絶え間なく弾けていた。


「主役は、あっち。」


視線の先。


オーガキングと対峙する、一人の少女。


まだ本当の戦いは、終わっていなかった。

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