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あの時間をもう一度  作者: ゆうき
第一章 始まりの再会

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第8話 冒険者の朝 前編

朝日がカーテンの隙間から差し込み、ゆうきはゆっくりと目を開けた。


窓の外では鳥のさえずりが聞こえ、石畳を歩く人々の足音が街の朝を知らせている。


「……朝か。」


ベッドから起き上がると、昨日の傷が少しだけ痛んだ。


それでも動けないほどではない。


軽く腕を回し、体を伸ばく。


「思ったより大丈夫だな。」


昨日は初めての依頼。


初めて魔物を倒し、初めて死を間近に感じた。


今こうして朝を迎えられたことが、少しだけ不思議に思えた。


身支度を整えて宿を出る。


朝の空気はひんやりとしていて気持ちがいい。


パン屋からは焼きたての香りが漂い、市場では店を開く準備が始まっていた。


異世界へ来てまだ日は浅い。


それでも、この街の朝が少しずつ当たり前になってきている自分がいた。


ギルドへ向かう途中、小さな広場で足を止める。


朝から木剣を振っている冒険者が何人もいた。


真剣な表情で素振りを繰り返す者。


仲間と模擬戦をしている者。


一人ひとりが自分を鍛えている。


「……俺もやらないとな。」


《魂の共鳴》で技術を借りることはできる。


けれど、それだけでは自分の力にはならない。


本当に強くなるには、鍛錬を積み重ねるしかない。


木陰へ移動し、腰の剣を静かに抜く。


女神から授かった剣。


まだ手に馴染んでいるとは言えない。


だからこそ、一振りずつ確かめるように剣を振った。


風を切る音が耳に心地いい。


昨日、魔物へ向けて振るった時よりも、ほんの少しだけ自然に動く。


「焦らなくていい。」


昨日、アムネが言っていた言葉が頭に浮かぶ。


少しずつできることを増やせばいい。


その言葉が、不思議と力になった。


一時間ほど汗を流してから剣を納める。


まだまだ未熟だ。


けれど、昨日の自分よりは前へ進めている。


そんな実感があった。


ギルドへ入ると、朝早くにもかかわらず多くの冒険者で賑わっていた。


依頼掲示板の前では、それぞれが自分に合った依頼を探している。


「おはようございます、ゆうきさん。」


受付嬢が笑顔で迎えてくれる。


「おはようございます。」


「お怪我の具合はいかがですか?」


「もう大丈夫です。少し痛むくらいなので。」


「それなら安心しました。」


受付嬢は小さく頷くと、一枚の紙を差し出した。


「今日も無理はなさらないでくださいね。初心者向けの依頼なら、こちらがおすすめです。」


受け取った紙へ目を落とす。


薬草採取。


街道の巡回補助。


荷物運び。


どれも昨日より少しだけ難易度が上がっている。


「少しずつ、か。」


焦って強い依頼へ挑む必要はない。


積み重ねが力になる。


そう思えた。


依頼票を見つめていると、不意にギルドの扉が開いた。


朝の光を背に、一人の少女が入ってくる。


辺りを見回し、ゆうきを見つけると、ふっと表情が柔らかくなった。


「おはよう、ゆうき。」


昨日と変わらない、穏やかな笑顔。


その笑顔を見た瞬間、ゆうきも自然と笑みを返していた。


「おはよう。」


「早いね。」


「そっちも。」


「うちは朝のギルド、結構好きなんだ。」


そう言って依頼掲示板へ目を向ける。


朝一番のギルドは慌ただしい。


依頼を受ける者。


夜通しの依頼から帰ってきた者。


酒場では朝食を食べる冒険者の姿も見える。


その活気を眺めながら、小さく笑った。


「みんな今日も頑張るんだなって思うと、なんか好き。」


ゆうきも同じ景色を見渡した。


昨日までは知らない世界だった。


でも今は、その中に自分も立っている。


「今日は依頼?」


「そのつもり。」


掲示板へ近付き、一枚ずつ依頼書へ目を通していく。


薬草採取。


街道の見回り。


森の外縁部での素材集め。


危険度は高くないものばかりだ。


「昨日みたいな無茶はしないよ。」


アムネが苦笑する。


「あれは本当にたまたまだったし。」


「そうだな。」


「今日は平和なのがいい。」


「賛成。」


二人で笑い合う。


そのやり取りを見ていた受付嬢が近付いてきた。


「でしたら、お二人にちょうど良い依頼がありますよ。」


差し出された依頼書には、


『薬草採取・森外縁部』


と書かれていた。


「最近よく依頼が出るんですか?」


ゆうきが尋ねる。


「ええ。この時期しか採れない薬草があるんです。」


「魔物もそれほど強くありませんし、初心者の方にも人気ですよ。」


アムネが依頼書を覗き込む。


「報酬も悪くないね。」


「食材になりそうな魔物もいるかも。」


「そこ見るんだ。」


「大事だから。」


真面目な顔で返されて、ゆうきは思わず笑ってしまう。


受付嬢も口元を押さえて笑っていた。


「じゃあ、これ受けます。」


「ありがとうございます。それではお気を付けて。」


依頼票を受け取り、ギルドを出る。


朝の空気はまだ澄んでいて、歩いているだけで気持ちが良かった。


「そういえば。」


アムネが歩きながら振り返る。


「ゆうき、朝から剣振ってた?」


「見てたのか。」


「少しだけ。」


「頑張ってるなって思って。」


少し照れくさくなって頭をかく。


「借りた力だけじゃ駄目だからさ。」


「ちゃんと自分の力にしたい。」


その言葉を聞いて、小さく頷いた。


「うん。」


「その方が、きっと強くなれる。」


短い言葉だった。


でも、それはお世辞ではなく、本心だと分かった。


「ありがとな。」


「どういたしまして。」


そう返して、少しだけ笑う。


穏やかな時間だった。


戦いもなく。


焦ることもなく。


ただ並んで歩くだけなのに、不思議と会話は途切れない。


森へ続く道が見えてきた。


街を出ると、朝露の残る草原が広がっていた。


昨日歩いた道と同じはずなのに、不思議と景色が違って見える。


肩の力が抜けているからだろうか。


「今日は平和だといいね。」


アムネが空を見上げながら笑う。


「昨日が特別だったと思いたい。」


「うん。あんなイレギュラー、何度もあったら困るし。」


そんな他愛ない話をしながら森へ向かう。


途中、街道脇に咲く小さな花へ目を留めた。


「これ。」


しゃがみ込み、葉を一枚摘まむ。


「薬草?」


「違うよ。」


くるくると指先で回しながら笑う。


「これはお茶にすると美味しい葉っぱ。」


「そういうのまで分かるのか。」


「旅してると自然に覚えるよ。」


立ち上がり、その葉を空間魔法へしまう。


「あとで乾燥させる。」


「そんな使い方もできるんだな。」


「便利だからね。」


森へ入ると、木漏れ日が地面へまだら模様を描いていた。


鳥の鳴き声。


木々を揺らす風。


昨日感じた恐怖はもうない。


今日は薬草採取が目的だ。


「依頼の薬草はこの辺かな。」


依頼書を見ながら周囲を探す。


「葉っぱが三枚に分かれてて、茎が赤い……。」


「あった。」


迷うことなく一株を指差す。


「早いな。」


「昔からこういうの得意なんだ。」


しゃがみ込み、根を傷めないよう丁寧に採取していく。


その手際は見惚れるほどだった。


「無理に引っ張ると来年生えなくなるから。」


「必要な分だけ。」


「残りはまた育つように。」


そう言って土を軽くならす。


「魔物だけじゃなくて、植物もなんだな。」


「全部繋がってるから。」


さらっと返ってきたその言葉に、ゆうきは少しだけ考え込む。


この世界で長く生きる冒険者は、自然との付き合い方も知っている。


昨日より、また一つ学んだ気がした。


その後も二人は森を歩きながら薬草を集めていく。


途中でホーンラビットを一匹見つけたが、昨日ほど慌てることはなかった。


ゆうきが剣を抜く。


深く息を吸う。


教わった通り、魔力を足へ流す。


踏み込む。


昨日より軽い。


一閃。


ホーンラビットが静かに倒れた。


「お。」


思わず声が漏れる。


「今の、昨日より良かった。」


アムネが素直に褒める。


「ちゃんと体が動いてた。」


「少しだけ、分かってきた気がする。」


「うん。」


嬉しそうに笑う。


「努力してるもん。」


照れくさくなって笑い返す。


その笑顔を見て、アムネも自然と笑った。


穏やかな風が森を抜ける。


昨日とは違う。


今日は命を懸けるためではなく、冒険を楽しむためにここへ来ていた。

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