表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの時間をもう一度  作者: ゆうき
始まりの再会
PR
12/23

第5話 はじめての依頼

朝のギルドは、昨日までとは違って見えた。

演習を終えた今、自分も冒険者の一人としてこの場所に立っている。

掲示板の前で依頼書を眺める。

薬草採取。

ホーンラビット討伐。

採集依頼。

どれも一人でも受けられる初心者向けの仕事ばかりだ。


「何にするの?」


聞き覚えのある声だった。

振り返ると、そこにはアムネジアが立っていた。


「おはよう。」


昨日と変わらない柔らかな笑顔。


「アムネジア。」


思わず名前を呼ぶと、アムネジアも嬉しそうに笑った。


「演習終わったんだね。」


「うん。」


「どうだった?」


ゆうきは少し考えて答える。


「思ってたより現実だった。」


その一言だけで十分伝わったらしい。

アムネジアは静かに頷いた。


「そうだよね。」


少しだけ沈黙が流れる。

やがてアムネジアが掲示板へ目を向けた。


「初依頼?」


「そのつもり。」


「じゃあ。」


少しだけ考えるような仕草を見せる。


「今日は私も休みだから、一緒に行く?」


「いいのか?」


「もちろん。」


そう言って笑う。


「依頼はゆうきがやる。」


「私は見てるだけ。」


「危なくなったら?」


「その時だけ助ける。」


ゆうきは少し迷った。

一人で行くつもりだった。

だが。

まだ分からないことだらけなのも事実。


「……お願いしてもいいかな。」


「うん!」


アムネジアは嬉しそうに頷いた。


「じゃあ初心者向けにしよう。」


二人は依頼書を見比べる。

選んだのは、

薬草採取とホーンラビット討伐。

どちらも街の近くで終わる依頼だった。

受付を済ませ、街を出る。

草原を歩きながら、アムネジアが小さな指輪へ触れた。

空間がわずかに揺らぐ。

次の瞬間。

小さな革袋が現れた。


「空間魔法?」


「うん。」


アムネジアは照れくさそうに笑う。


「倒した魔物とか薬草を入れておくの。」


「便利だな。」


「えへへ。」


「でも全部は入らないよ?」


「容量にも限界があるから。」


そう話しながら森へ入っていく。

その後の依頼は驚くほど順調だった。

薬草を見つける。

ホーンラビットを倒す。

素材を剥ぎ取る。

その間、アムネジアはほとんど戦わない。


「ちゃんと周り見て。」


「うん。」


「そこ、足跡。」


「ほんとだ。」


必要な時だけ助言をくれる。

まるで先生のようだった。

倒したホーンラビットは手際よく解体し、

魔石、角、皮。

必要な素材だけを空間魔法へ収納していく。


「捨てるの?」


ゆうきが尋ねる。


「ううん。」


「売れるものは全部持って帰る。」


「命をもらったんだから、大切に使わないとね。」


その言葉に、ゆうきは昨日のガレスの言葉を思い出す。

――命を軽く見るな。

考え方は違っても、どこか同じものを感じた。

依頼は予定より早く終わった。


「帰ろっか。」


アムネジアが笑う。

ゆうきも頷く。

二人は来た道を戻り始めた。

その時だった。

森の奥から。

聞こえるはずのない、重い足音が響いた。


その時だった。


森の奥から。


聞こえるはずのない、重い足音が響いた。


ドン――。


ドン――。


地面がわずかに震える。


ゆうきとアムネジアは同時に足を止めた。


「……。」


アムネジアの表情から笑みが消える。


その視線は、森の最奥へ向けられていた。


「どうした?」


ゆうきが尋ねる。


返事はない。


代わりに、アムネジアはゆっくりとゆうきの前へ出た。


「ゆうき。」


その声は、今までにないほど真剣だった。


「少しだけ下がって。」


「……何がいる?」


アムネジアは小さく息を吐く。


「ここにいるはずのない魔物。」


その言葉が終わるより早く、木々が大きく揺れた。


バキバキッ――!!


太い幹を押し退けるように、一体の魔物が姿を現す。


全長は三メートルほど。


黒曜石のような硬い外殻。


四本の脚で地面を踏みしめ、その背中には赤黒い結晶がいくつも突き出している。


低く唸るたび、口元から熱を帯びた白い息が漏れた。


「……あれは。」


ゆうきは息を呑む。


ただ立っているだけなのに、圧倒される。


本能が告げていた。


勝てない。


「ストーンベア……。」


アムネジアが静かに呟く。


「でも、おかしい……。」


「本来ならもっと深い森にいるはず。」


魔物もこちらを見つめている。


赤い瞳が、ゆっくりと二人を捉えた。


「まさか……。」


アムネジアの表情が曇る。


「私の魔力に引き寄せられたの……?」


高位の魔物は、強い魔力を感知する。


それは知識として知っていた。


普段なら、こんな浅い場所まで来ることはない。


だが今日は違った。


「ごめん……。」


小さく漏れたその言葉に、ゆうきは首を振る。


「謝ることじゃない。」


「でも……。」


魔物が咆哮を上げる。


森全体が震えるほどの大音量だった。


「ゆうき。」


アムネジアは腰の短杖を抜く。


「これは演習じゃない。」


「絶対に私から離れないで。」


その瞳には、一切の迷いがなかった。


「分かった。」


ゆうきは剣を抜く。


戦うつもりはない。


今の自分では足手まといになる。


だからこそ、アムネジアの指示に従う。


「行くよ。」


アムネジアの足元へ、淡い青白い魔法陣が広がった。


「《アイスランス》。」


無数の氷槍が空中へ生まれる。


次の瞬間、一斉にストーンベアへ降り注いだ。


轟音。


氷が砕け、土煙が舞う。


「やった……?」


ゆうきが呟いた瞬間。


煙の中から巨大な影が飛び出した。


「っ!」


傷は付いている。


だが浅い。


外殻が魔法の威力を大きく殺していた。


「魔法耐性……!」


アムネジアが舌打ちする。


ストーンベアは前脚を振り上げる。


大地が砕けるほどの一撃。


アムネジアは横へ跳び、紙一重でかわした。


「《ウォーターブレード》!」


今度は水の刃。


高速で放たれた斬撃が、魔物の脚を切り裂く。


しかし、それでも致命傷には至らない。


「思ったより硬い……。」


アムネジアは冷静だった。


焦ってはいない。


ただ、このまま長引けば危険だと理解していた。


ならば。


一気に決める。


そう判断した、その時だった。


ストーンベアの背中の赤い結晶が、不気味な光を放つ。


「……!」


アムネジアの表情が変わる。


「ゆうき! 伏せて!!」


魔物の背中から、灼熱の魔力弾が放たれた。


一直線ではない。


無数に弾けながら周囲へ降り注ぐ。


アムネジアは即座に防御魔法を展開する。


だが、そのうちの一発が木へ当たり、大きく軌道を変えた。


「しまっ――」


叫ぶより早く。


赤い閃光が、ゆうきの脇腹を貫いた。


「――っ!!」


鈍い衝撃。


視界が大きく揺れる。


膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちた。


「……ゆうき?」


アムネジアの顔から血の気が引く。


時間が止まったようだった。


「……ゆうき?」


アムネジアの顔から血の気が引いた。

呼びかけても返事はない。

ゆうきは苦しそうに脇腹を押さえ、そのまま地面へ倒れ込む。

赤く染まった服から、ゆっくりと血が滲んでいく。


「そんな……。」


頭が真っ白になる。

どうして。

どうして、ゆうきが。


「……っ!」


ストーンベアが再び咆哮を上げた。

まだ終わっていない。

目の前には、Bランクの魔物が立っている。

それでも。

今のアムネジアには、魔物よりも倒れている青年しか見えていなかった。


(助けなきゃ。)


その一心だけだった。


「ごめん。」


小さく呟く。


「すぐ終わらせるから。」


静かだった声が、冷たく変わる。

魔力が一気に膨れ上がる。

周囲の空気が震え、木々がざわめいた。

ストーンベアが本能的な危険を感じたのか、一歩後ろへ下がる。

アムネジアは短杖を静かに構えた。


「《氷牢》。」


地面から巨大な氷柱が何本も突き出す。

ストーンベアは前脚で砕きながら突進する。

その動きを読んでいたように、アムネジアは一歩だけ横へ動いた。


「そこ。」


魔物の死角。

外殻の隙間。

首元へ向け、圧縮した水刃を放つ。


「《ウォーターブレード》。」


細く、鋭い一閃。

一瞬だけ静寂が訪れる。

次の瞬間。

ストーンベアの巨体が大きく揺れ、その場へ崩れ落ちた。

ズン――ッ。

重い音が森へ響く。

動かない。

完全に息絶えていた。

アムネジアは魔物へ目も向けず駆け出す。


「ゆうき!」


膝をつき、その体を抱き起こす。


「ねぇ!」


返事はない。

呼吸はある。

けれど弱い。


「お願い……。」


震える手を傷口へ当てる。


「《ヒール》。」


淡い緑色の光が傷を包む。

だが。

傷は少し塞がっただけだった。


「そんな……。」


もう一度。


「《ヒール》!」


光が溢れる。

それでも足りない。

魔力弾が体内を深く抉っていた。

普通の治癒魔法では追いつかない。


「お願い……。」


アムネジアの声が震える。


「起きて……。」


どうして。

どうしてこんなに怖いの。

依頼中に怪我人が出ることなんて珍しくない。

今まで何人も治療してきた。

なのに。

胸が苦しい。

息ができない。

涙まで込み上げてくる。

その瞬間だった。

脳裏に、知らない景色がよぎる。

明るく笑う青年。

配信画面。


「みんな、おつかれ!」


聞いたことのないはずの声。

それなのに。

どうしてか。

その笑顔が、目の前のゆうきと重なった。


「……え?」


何、この記憶。

私は知らない。

知らないはずなのに。


「……いや。」


考えている時間なんてない。

助けなきゃ。

絶対に。

アムネジアはぎゅっと拳を握る。


「お願い……貸して。」


胸の奥で、何かが静かに応えた。

次の瞬間。

今までとは比べ物にならないほど優しい光が、ゆうきの体を包み込む。

それはアムネジアが滅多に使わない、ユニークスキルを重ねた治癒魔法だった。

淡い光は傷だけではなく、乱れた魔力までゆっくりと整えていく。

ゆうきの呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「……よかった。」


張り詰めていた糸が切れたように、アムネジアはその場へ座り込んだ。

安心した途端、全身から力が抜ける。

気が付けば、空は赤く染まり始めていた。

街へ戻るには遅すぎる時間だった。


「今日は……ここで休もう。」


眠るゆうきを見つめながら、アムネジアは小さく呟く。


「お願いだから……明日は目を覚まして。」


その声は、夕暮れの森へ静かに溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ