閑話 スーパースターの多忙な一週間に密着!
デモンズキャッスルの表向きの主であるサミュエル様は忙しい一日を送っていた。なんせ今や彼はこの島の大スターなのだ。
月曜日、今日も長い一週間が始まる。魔王城の自室で目を覚ますと城にある食堂へと向かう。
(今朝はエッグベネディクトの気分だ! それから、バナナシェイク……いや、ここはブルーベリーヨーグルトにするか……)
もちろんクロワッサンも欠かせない。
「キャー、サミュエル様よ!」
「ミュくーん、こっちむいてー!」
朝から女性客が騒がしい。が、ここはアイドルらしくクールな笑顔を返す。
「尊死!」
アンジェラが床に倒れ込む。
「……なんで、お前がそこで死んでるんだ?」
「ミュくんのキラースマイルに殺されたああああ、もっと殺してええええ!」
アンジェラは無視して、とっとと食事を済ませる。
サミュエルは最近コーヒーを飲みこなすことを覚えた。これが、かなり苦いのだが、だからこそカッコよさが引き立つ。ダンディーな男には必須のアイテムなのだ。
食事の後は、ゆったりとソファーに腰掛け、長い足を組む。コーヒー片手に「デモンズタイムズ」に目を通す。
「おっ、ハムの牧場に仔牛が生まれたのか……」
火曜、水曜日はオフである。火曜日はレッドやモフオと休日が被っている。
(火曜日はあいつらに付き合ってやって、水曜日に仔牛を見に行こう)
ついでに草の上に寝っ転がり、広い空を眺め、リフレッシュだ。
今日は、ファイヤーナイフダンスのステージがある。もう少し、この優雅な朝のひと時を満喫したら、本番前のリハに行かねば。
当初、エクスプロージョン8としてスタートしたダンサーズだったが、今はエクスプロージョン32として、四チームに分かれて活動中だ。サミュエルのグループは「エクスプロージョン32――迅」と称していた。
「おお、ニャオン、お前のダンスもなかなか様になってきたじゃないか」
「ミュの兄貴に褒められるとは光栄っす!」
今日は最近グループに加わったニャオンのステージデビューの日だった。
「とにかく、あまり気負うな!」
「ういーっす!」
(俺、なかなかいい先輩をしているじゃないか)
サミュエルは自画自賛する。
ニャオンの初ステージも無事に成功し、サミュエルたちはコーラとたこ焼きで乾杯をする。
(うーん! 仕事の後のたこ焼きは格別だな! これぞ至福のひと時……)
今日は午後と夕方にもステージがある。その前に、デザートにはお気に入りのチョコバナナを味わう。
「ミュくん! 一言コメントをお願いします! アンジェラさんとの仲はどうなんでしょうか?」
「同棲しているというのは本当ですか?」
「ナオミさんとも親しいようですが、どちらが本命なのでしょうか!?」
ウォーターパークを出ると、出待ちの記者に詰め寄られる。
「ノーコメントだ」
この手の記者をまともに相手をしてはいけない。少し応えてやるとつけ上がり、あることないこと書き立てるのだから。人気者はつらい。
夜は「荒くれミート亭」で気の置けない仲間たちと食事を楽しむ。彼らと談笑している時間が、なんだかんだ言ってもっとも充実していた。
「ミュの兄貴、明日オフだろ? じゃあ、サディスティック・サファリで一緒に狩りでもしようぜ!」
「いやいや、ミュの兄貴、それよりも山岳地帯で俺らと一緒に山の神と一体となろう!」
「わけわかんねー修行よりも、狩りのほうが楽しいよな、ミュの兄貴!」
「何を言うか! こっちだって狩りは可能だぞ!」
「おいおい、もめるなよ、モフオにレッド。こういう時は決闘で決めたらどうだ?」
「おう! 名案だな」
「受けて立つぜ!」
決闘――つまりはジャンケンだ。
サミュエルは最近このジャンケンの仕組みを知った。ずっと複雑な手の形をしたチョキが最強だと思っていた。だが、実は違ったのだ。このジャンケン、単なる手の器用さを競うものではない。三つ巴という何とも奥深い状況を利用した、心理戦なのだ。
サミュエルだけでなく、獣人やオーガたちもこのジャンケンに夢中だ。ジャンケンをしているときは、軍師にでもなった気分になれるのだから。
結局、サミュエルは明日、サディスティック・サファリでモフオたちと狩りをすることになった。
「よっしゃー! ミュの兄貴、楽しみだな!」
「……くー、次は負けねえぞ」
木曜日は、剣闘士として闘技場のステージに上がる。
今日の対戦相手は、ゴリラ獣人のゴリマッチョである。サミュエルは目下、十九連勝中である。対するゴリマッチョもなかなかのもので、これまで十二勝を積み重ねてきた猛者だった。
(ゴリマッチョ、悪いが二十連勝は俺がいただく!)
「兄貴相手でも遠慮はしねえだすよ!」
ゴリマッチョはパワーだけでなく、その巨体に似合わぬスピードで攻めてくる。激しい攻防の結果、サミュエルの「ブリザードストームバースト」が決まった。
「やっぱりミュの兄貴はつええな!」
「ゴリマッチョ、お前もなかなかの好敵手だったぞ」
ダンスもいいが、やはり強敵と剣を交えたときの高揚感はたまらない。サミュエルの次の試合は日曜日にある。
(少し物足りんな……素振りでもするか!)
金曜日、土曜日は、ホテル・グランドデモンズで「ヴィランズの夜明けを知らぬ夜会」開催日である。
今日は正装して、玉座に偉そうに座らねばならない。その後は、抽選で当選した女性、場合によっては女装の男たちと社交ダンスを踊ることになる。
このホテルを利用する女装の男たちは、かなりの高確率で当たりを引いてくる。
「やったわ! あたし、大当たりよ! いやーん、ミュ様とお手々つないで踊るだなんて、緊張しちゃうわ!」
(ほーら、今日も女装の男が当たった……)
サミュエルは割とマッチョな女装男と優雅にワルツを舞った。
近くでは、オーガのブルーが女性と踊っている。
「とってもお上手ですよ、レディ」
「……そんなぁ、ブルー様のリードのお陰よ」
(ああ、やっぱりブルーはスマートなんだよな……同じオーガなのに、レッドやイエローとは大違いだな)
夜の楽しみは、デモンズキャッスルにある大浴場での入浴だ。特に露天風呂からの眺めが素晴らしい。
街の賑わいとその先に拡がる島の景色を一望しながらジャグジーに身を沈め、一日の疲れを癒すのだ。
(夜なのに、なぜ島の景色が見えるのかって? それは、俺は魔族だから夜目が利くのだ! これは誰にもいっていない秘密だが……)
明日は久々に闘技場でレッドとの試合だ。
目を閉じれば、闘技場の興奮が蘇るようだ。
「よし、明日に備えて、そろそろ休むか」
「ミュくーん、お風呂上りにフルーツ牛乳はいかが?」
浴場の隣のリラックスルームのソファに座ると、ジョセフィーヌが飲み物を差し出してきた。この女装女はよく気が利く。女装男の鏡のような存在だ。
「ミュくん! 魂を込めてもこもこぞうさんパンツをつくったので、試着しませんか!?」
「着よう、着よう、絶対に似合うって! ぐへへへっ」
「ぜっっっっったいに嫌だ!」
「ほう、着心地がよさそうなパンツぢゃのぉ!」
「あっ、がんじいとはサイズが違うと思いますので……」
アンジェラたちは相変わらず騒がしい……。
冷たくて甘いフルーツ牛乳とおバカ幹部たちのドタバタを味わいながら、夜は更けていく。
これが、魔王の孫、サミュエルの優雅で多忙な一週間だ。




