第55話 先鋒を撃破――これが元魔王の孫の戦いっぷりだ! とくと見るがよい!
サミュエルたちは電光石火の勢いで、サバンナまでやってきた。
そこではまさに、血みどろの戦いが繰り広げられていた。
(間に合ってよかった……)
「すぐにでも参戦するぞ!」
「おおー!」
サミュエルの一声で、男たちは手に武器を持って、目の前の戦場へと駆け込んだ。
「ミュの兄貴にオーガたち、皆! ありがてえ!」
戦場では、獣人たちに混ざって、観光がてらここを訪れていた人間たちも武器を取って戦っていた。
「前線を維持している間にドワーフたちが後ろに防壁を築く! それまで持ちこたえるんだ!」
「わかったぜ、ミュの兄貴! おっしゃー! みんなあともう一息、暴れまわるぞ!」
ドワーフたちは大地の精霊の力を呼び覚ますと、協力しあって戦場に土壁の防壁を一気に築き上げる。
「よし! 一旦引くぞ! 殿は俺が務める」
「ミュの兄貴、助かるぜ!」
防壁ができあがったところで、前線で乱戦状態になっていた戦士たちは一旦退却した。
「首尾は、敵の状況は?」
サミュエルは手短にモフオに説明を求める。
「今ここにきているのはおそらくは先鋒の第一波だ。見ての通り、死霊とカラクリ人形兵が多数を占めている。こいつらは、一体ずつはそれほど強くはねえが、簡単には死なないのが厄介だ」
「そのようだな……」
目の前には、モフオの言うように死霊と人形兵が隊列を組んで攻めかかって来ていた。
「ざっと見たところで千は超えてそうだな。対するこちらは百を少し超える程度か……戦力差がかなりあるな……」
死霊も、人形兵も、ほとんど意志らしい意志を持っていない。意志どころか、感情もない。恐怖や躊躇といった感情に欠けるこれらの敵は、攻撃をされてもほとんど怯むことなく、何らかの命令に盲目的に従って、とにかく前進してくるのだ。
「死霊は炎属性に、カラクリ人形兵は水属性に弱い! 死霊には火矢を放て! 人形には放水するのだ! それから、獣人たちにこれを配って回るんだ」
サミュエルは、獣人たちにパワー強化効果のある魔女マーガレット作成のマッチョッチョパワードリンク・ウルトラゴールドを配った。そして、作戦に従い、彼らは再び防壁の外に打って出た。
一方で、戦闘力に自信のないものは、この防壁の上から、サミュエルの号令の通り、火矢と放水で応戦した。
サミュエルは自ら最前線へと躍り出ると、人形兵に向かって雷属性を纏った剣劇を浴びせていった。
「食らえッ! サンダースラッシュ!」
サミュエルの一撃で、目の前のカラクリ人形兵が数体吹き飛んで壊れた。だが、戦闘不能状態となったカラクリ人形兵たちを乗り越えて、次なる集団が押し寄せてくる。
それを見た、同じく雷属性攻撃を得意とするオーガイエローも、愛用のハンマーを手に人形兵たちを殴って回った。
「おりゃああああ、メガトンサンダーブレイク!」
水属性のオーガブルーも人形兵団を相手に奮闘した。
「ウォーターショット!」
死霊軍団相手には、炎属性攻撃を得意とするオーガレッドがその力を発揮した。
「俺の斧よ、うなれ! ファイヤーバースト!」
炎に包まれた死霊の一軍は悲鳴を上げながら前進するものの、そのうちに力尽きて動かなくなった。
それでも、ドワーフたちが築いた防壁を突破してくる者がいる。
「南西から敵が来るぞ! 気をつけろ!」
「死霊だ! 火矢を放てー!」
「くそっ、こいつらしつこいな!」
「ニャオン! お前の俊足でかき回して、敵の動きを乱すんだ!」
「おうよ! 俊足獣人軍団は俺に続けー!」
「アイアイサー!」
おびただしい数で攻めよってきた敵は少しずつ数を減らしていった。
味方の兵力は少なかったものの、組織だって戦ったことが功を奏した。絶望的と思われた戦力差を覆し、ついにこれを撃退することに成功したのだ。
「俺たちの勝利だー!」
「エイエイオー!」
一同は初戦の勝利に沸き立った。
「ふぅ、何とかなったな……。皆無事か?」
「おう! ミュの兄貴たちの援軍のお陰で助かったぜ」
サミュエルは辺りを見渡した。幸い、こちら側に死者は出なかった。だが、怪我人は少なくない。血を流している者や、仲間に肩を借りている者もチラホラと見受けられる。
「まずは重症のケガ人の治療を優先しよう」
長い間敵の攻撃にさらされていた獣人たちの中には、かなりのダメージを負ったものも多かった。彼らは治療を受けるべく、トロッコに乗ってヴィランズタウンへと送られたのだった。
「これで終わりというわけではないだろう……」
「だな。あいつらが自発的ににここを攻めてきたとは思えねえからな。絶対にあいつらをけしかけた黒幕がいる!」
「敵の全貌をできるだけ早く正確につかめないものか……」
「ミュの兄貴にモフオの兄貴、それだったら、このコンコン吉にお任せを!」
「コンコン吉、お前たち、相当疲れているだろうが、あともうひと働き頼む!」
「大丈夫だ。俺たちには魔女の薬があるからな。これで体力もすぐに回復するさ」
キツネ獣人のコンコン吉は、同じキツネ獣人数名を率いて敵の偵察へと向かった。
「ところで、お前たちの中で、百年前の魔王軍につながりがあるものはいるか?」
あの時の戦いを知っている者がいれば、敵情も把握しやすい。
「いや、俺ら獣人は魔族に比べて、そこまで寿命が長くねえからな。ここにいる連中は、皆、魔王軍の戦いの後に生まれた世代だな。しかも、あの戦いに参加させられてたものの多くは、皆戦いの中で死んじまったらしいからな。詳しい話は俺らは何も知らねえんだ」
獣人の族長ともいうべきモフオが答える。
「我らオーガの一族も、魔王軍に参加していたらしい。だが、俺たちもあの頃はまだガキで、戦に赴いていたのは成人の男オーガだけだった。聞くところによると、魔王軍は寄せ集めで、個々の能力は高い割には統制が取れていなかったらしい」
「それはワシも感じておったわい。あの頃、ワシらドワーフは魔王軍の武器を作っておったのだが、ワシらが作る武器を生かし切れておらんと思ったわい。その点、人間たちの方が一枚上手じゃったな」
サミュエルも今ならばわかる。魔王軍に一番欠けていたのは、戦略と戦術だ。
今回もそうだったように、まずは使い捨ての部隊を送り込んで、数の力でごり押しをすることで相手の力を削ぐ。そのうえで少しずつ送り込む部隊の火力を上げていく。実に単純な戦法だった。
働くのは下っ端から。強い魔王は城の最奥で待機。この配置が人間たちを、勇者たちを効率よくレベルアップさせてしまったのだ。十分な経験を積んだ人間たちに本拠地を攻め込まれ、魔王軍は壊滅したのだった。
今回も、戦力こそ少ないが、人間たちがそうしたように、相手を知り、それに合わせて上手く戦えば、魔物軍団を十分撃退することが可能であると、サミュエルは踏んでいた。




