第52話 推しへの愛を全力で表現しちゃう――愛すべきぬいたち
かわいい女子たちにとっては、「推し活グッズ」なる存在も欠かせないらしい。その推し活グッズの中核をなすアイテムがぬいぐるみである。
「バリかっこいぃミュさまぬいもいいけどぉ、きゃわきゃわいいコボちゃんぬいもつくってほぴぃー! てか、つくっちゃうー!」
ということで、コボちゃんファミリーぬいぐるみと着せ替えセットが販売されることになった。
デザイン担当は、ナオミとピンキーポップキャンディズのファンクラブメンバーたちだった。
「せっかくですので、隠しキャラでミュくんぬい『ポッピングコボルズ』バージョンも販売してはどうでしょうか?」
「おっ、さすがはなっち、わかってるやん! だいさんせーい! 衣装は当然、アレだよねぇ、いひひっ」
「当然、このミュくんぬいの衣装はもこもこぞうさんパンツになります」
「いや、絶対に止めろ! かわいいもの好きの夢を壊すな!」
「えー、ぞうさんパンツ、ぜったいにかわいいって!」
「絶対に教育上良くない! 俺が親ならば、もうここには二度と子どもを連れて行かん!」
この女たち、あの妙な衣装を諦めていなかった……。自分が直接着るわけではなかったとしても、自分の名を冠したぬいぐるみが着ているだけでも屈辱的である。
当然、サミュエルは全力で反対した。そして、縋るような目でかわゆいものを愛する会の会長たちに同意を求める視線を送った。
「いやんっ、それほしすぎるぅぅぅ!」
「あたしももこもこぞうさんパンツをはいたミュくんぬいほしぃっっ」
まさかのピンキーポップキャンディズ会長・副会長のお墨付きとなってしまった。
「そ、そのぬいぐるみは、絶対に子どもたちの夢を壊す! マジでやめろ! そんなもの作ってみろ! 俺がすべて破壊してやるからな!!」
「はあ……それはあまりにも残念すぎます……素晴らしいアイディアでしたのに……」
こうして恥ずかしすぎるぬいぐるみの製作を阻止することに何とか成功したサミュエルだった。
子ども向け、という点では、赤い屋根のキノコのお家のドールハウスセットの同時販売も決まった。デザインは、ピンキーポップキャンディズとナオミの共同製作による。
さらに、この着せ替えセットには、様々なお着替えが登場する。
基本の服を着たぬいぐるみや定番のお洋服はヴィランズタウンや大陸にあるアンテナショップでも購入可能だが、季節の着せ替えお洋服は、ここ『ポッピングコボルズ』に来ないと購入できない限定品とされた。
「ちょっと待ってくれ! これでは、ここはかわいい女子の巣窟になってしまうぞ!」
「そうぢゃのぉ、かわいい女子の巣窟はいいけれども、ワシら男が入りにくいのぉ」
かわいらしさを徹底的に追求するのもいいが、このエリアを女子だけに独占させるのはあまりにも惜しい。なんせここは気候もよく、過ごしやすい温帯林と、神秘の洞窟もあるのだから。
「うほっ、森といったら、やっぱりアレでは? ターザン! ってことで、アスレチック施設を作ったらどうだろうか?」
ゴリラ獣人のゴリマッチョの提案で、森の中にアスレチック施設がつくられることになった。アスレチック施設であれば、子どもから大人まで幅広い層が楽しめる上に、コボルト村のかわいさを台無しにするものでもない。
「上にばかり注目せんでくれ、下にだって魅力はあるぞい!」
「下……というと、洞窟か!」
ということで、今度はドワーフたちの提案で、今は放置されている自然の洞窟も安全な形で整備された。
ダンジョンと異なり、モンスターが出るわけでも何でもないのだが、ひんやりとした薄暗い空間のなかを探検することで、冒険者気分を手軽に味わえるのだ。
「皆、このエリアの激熱スポットを一つ忘れておらんじゃろうか?」
「魔女たちが薬を採取する洞窟のことかしら?」
「ちがわい! わしらドワーフが採掘している洞窟じゃ!」
「だが、そこに素人が立ち入るのは危険なのでは?」
「ほぉっほぉっほぉっ、そうでもないぞ。入り口付近であれば、作業の邪魔にもならんし、その割に宝石になるような石が取れるんじゃ」
「なるほど、採掘体験ができるということか! 面白いな」
「それだけじゃないぞえ……」
ドワーフたちが管理する鉱山では、自分が採掘した宝石でアクセサリー作りもできるのだ。
こうしてコボルトの住む村エリアは、かわいいが詰まった村だけでなく、アスレチックや洞窟探検、さらには採掘体験からアクセサリー作りまで楽しめる場所となった。
さらに、客にお金を落としてもらうための仕掛けとして、スタンプラリーが考え出された。村やアスレチックなど各施設で体験を楽しみながらスタンプを集めて回ると、豪華景品が当たるガラポン抽選に参加できるのだ。
かわいいを楽しみつつも、「子どもから大人までワクワクがいっぱい!」がこのエリアのコンセプトだった。
このエリアの開発、管理、運営は、ピンキーポップキャンディズとリゾートホテル運営のノウハウを持つ、丘豚ファミリーズが担う。
ここも作るべきものがそれほど大がかりではなく、既存のものを活用できたこともあって、それほど労力や時間を費やすことなく、オープンの日を迎えることができた。
今や、『ポッピングコボルズとワクドキが溢れるヒミツの森』は、メインエリアであるヴィランズタウンをしのぐほどの人気エリアとなっていた。




