第51話 汝の推しに全力愛を捧げよ――妖精さんたちに出会えちゃう村
コボルトたちの村を中心としたエリアは、エビルアイランドの中にあって他エリアとは一線を画していた。ここだけはエビルともヴィランとも無縁の、メルヘンでファンタジーな雰囲気が特徴の場所なのだ。
まず、何といってもコボルトの村がかわいい。
村には、童話の挿絵のようなキノコを模した赤や青や黄色、緑の色とりどりの尖り屋根の小さな家が多数立ち並んでいた。少し大きな木の上には、みんなの憧れ・ツリーハウスだってある。
かわいいもの好きならば、一度見たら最後、押さずにはいられない。そんな愛らしさに満ちた村だった。
もちろん、村の外観がかわいらしいだけに尽きるものではない。なんとも愛らしいのが、コボルトが着用している衣装である。
少し前に捕らえたスマートアルバカやレインボーカメレオンを利用してナオミがコボルト向けの衣装を新たにデザインしたのだ。
安定のかわいさを誇るくまたん、うさぎちゃん、ひつじさん、にゃんこなどもこもこ動物さんスーツやカラフルパステルおうじさまコート&おひめさまドレスは、見るものの目を楽しませ、なんだったら触るものの触感まで満足させてくれていた。
「ナオミ……お前、こういうかわいらしい服も作れるんだな……」
サミュエルはいつも、ナオミの作るかわいさとは無縁の、セクシーでロックでファンキーでビビットカラーな服を着用させられている。何だったら、彼が夜会で着用している大魔王な王子様服でさえも、布地少なめで妙にギラギラしているのだ。
「……もしかして、ミュくんももこもこ動物さんスーツが着たいと!? ……お望みとあらば、このナオミ、全力でデザイン&縫製させていただきますが!?」
「いや、別にそういうわけでは……」
「キタキタキターーーー! 閃いたああああーー! では、もこもこぞうさんパンツなんてどうでしょうか!」
サミュエルの意志を無視して突っ走るナオミの鼻息が妙に荒い。
「ぬぉぉぉぉぉ! ミュくんのもこもこぞうさんパンツ姿! 想像しただけで鼻血止まらんんんんん!」
どんな想像をしたのかわからないが、アンジェラは辺りに鼻血をまき散らかした。
「おい、やめろ! これ以上、妙な想像をするな! そんなもん、絶対に作らんでいい! むしろ何としてでも作ってはならない! 俺は着ないぞ! 1000%の力でその着用を拒否する!」
(この女共、一体人を何だと思っているんだ! 俺にだって人権はあるはずだ!!)
サミュエルは覚えたての言葉――人権によって武装して、ナオミたちの企てに総力をあげて抵抗した。
「えーー、もこもこぞうさんパンツ姿のミュくん、凄まじいまでの人気者になれると思うんだけどなぁー。それでコボちゃん村に降臨したら、この島のアイドルになること、間違いなしなんだけどなぁ」
アンジェラがブツブツと文句を垂れる。
「俺はすでにこの島のアイドルとして多くの仕事を抱えているのだ! 今、ぞうさんになっている場合ではないのだ! ブラック労働反対!」
そうだ。サミュエルは忙しいのだ。チャンピオン剣闘士であり、ファイヤーナイフダンサーでもあり、魔王城での夜会の主催者でもあるのだ。それを言い訳に、サミュエルは、女たちの恐ろしい企みを、暴挙を全力で拒否した。
「ほいぢゃー、このわしが着用してやろうかのぉ、なっち作成のもこもこぞうさんパンツを。わしによく似合うと思うんぢゃが、どうぢゃな?」
「あ、いいです。がんじいも新たなエリアの設計から建設まで、何かとお忙しいでしょうからね。もこもこぞうさんパンツをお召しになっている場合ではないですよね。このお話はなかったということで」
「わし、忙しくても頑張ってぞうさんになるぞい」
サミュエルと違って、やる気満々で譲ろうとしない中年男。が、誰が見たいだろうか。ハゲヒゲのマッチョおじさんの愛らしいパンツ姿を。もはやそれは”笑える”を飛び越えて、凶器でさえある。
「……あああっ、そういえば、ちょうど、もこもこぞうさんパンツに必要な材料が不足しているようです!! わたくしとしたことが、大事なことを失念しておりました。このお話はなかったということで」
ナオミのスーパーアイディア「もこもこぞうさんパンツ」は、ガンテツの好奇心と親切心によって無事にお蔵入りすることとなった。
サミュエルは心底ガンテツに感謝するのだった。
「村も衣装もすべてがきゃわゆい、これはぜぇーったいにこのままの路線で行くべきですぅ!」
「悪魔的な島にあってこそ、ここのきゃわゆさはより一層引き立つわけで……」
「ここは、都会のオアシスならぬ、地獄の中の夢の町よっ」
ピンキーポップキャンディズ会長のピンキーが強く主張する。メンバーもうんうんと頷く。
こうして、もこもこぞうさんパンツ騒動はひとまず置いといて、コボルトの住む北部温帯地帯の運営方針はあっさりと決まったのだった。
ここでも、他の場所に倣って、まずは村の名前を公募する。
「コボちゃん村」
「にょきにょきビレッジ」
「ボクらの村」
「森村」
「ミュ村」
「却下、却下よ! こーんな陳腐な言葉では、この場所のポップでパステルな愛くるしさが全くもって表現されていないわ!」
そして、厳正な審査の結果……ではなく、かわいいものを愛する者たちによる超不正バリバリな出来レース選挙が行われた結果、コボルトの村は、「ポッピングコボルズ」に決定した。
意味はよくわからないが、とりあえず彼女たちの心をくすぐる響きの村名を考えたらこうなったらしい。
こうして、エビルアイランド随一のかわいさを追求したエリアのリゾート化構想が固まったのだった。




