第50話 エビルサファリパークを作れ! モフモフでサヴァイヴァルな獣人ライフ
「ああ、見よ! この果てなき雄大な平原を!」
「大自然が我らを呼んでいる! 帰るのだ、我らが故郷の大地へ!」
「そんな大げさなもんじゃねえけどな」
モフオが人間たちの感動に水を差す。彼ら獣人にとってはこれは平凡すぎる極日常の風景でしかないからだ。
「君たちには神々が与えたもうたこの豊かな恵みがわからんのか!」
「まあ、なんとなくしか?」
「どっちかっつーと、俺、街の方が好きかもしれん、クレープとか食えるし」
「あたしら、ずっとここに住んでるからー、今更、感動とかそういうのないわー」
獣人たちが長らく本拠としていた中央のサバンナ地帯。そこにはどこまでも続く大地が広がっていて、地平の彼方に夕日が沈むのだ。
大型の動物から魔獣まで住んでいて、生態系も豊かである。失われた楽園、生命の故郷を思わせる手つかずの自然が残る場所だった。
「俺が理想とする『獣人サファリパーク』にはだな、ウォータースライダーは欠かせねえ!」
「いいっすね、モフオの兄貴! 俺はここにも魔王城のような高級ホテルを建てたいっす」
「やっぱり、旨い飯どころをたーんと作るのがいいんじゃねえか?」
獣人たちは好き勝手に自分たちが理想とする施設の建設を主張した。
「ストーーップ! それのどこが『サファリパーク』なんだ! 君たちには景観に配慮しようという発想がないのかね!」
「そうだ、そうだ。ここに高い建物など建てられん! ウォータースライダーも城のようなホテルももってのほかだ!」
「この溢れんばかりの自然そのものを楽しむ場所、それがサファリパークであるべきなのだ!」
「にゃるほど、にゃるほど!」
アンジェラが話に割って入った。
「獣人たちの求める便利さと環境保全はトレードオフの関係にあるというわけですにゃ」
「その『にゃ』はにゃんだ? じゃなくて、なんだ? じゃなくて、トレードオフとはなんだ? いつもアンはバカそうで意外と難しいことを言う」
サミュエルが若干混乱している。
「ムキーー! バカって何ですかにゃ、バカって! ま、簡単に説明すると、両立しないってことにゃ。ちょっと獣人風に話してみたにゃ」
ちなみに、そのような話し方をする獣人は実際のところ誰もいない。
「人間代表のアンジェラ様は考えましたにゃ。ここで人間が何がしたいかって。一つ、獣人さんたちとモフモフライフを楽しみたいにゃ! 二つ、サヴァイヴァルな狩りを楽しみたいにゃ。三つ、動物たちの野生のままの生態をじっくりと観察したい、安全に。こんなところかにゃ」
「なるほどな。サヴァイヴァルな狩りだったら、場所を決めて、その範囲に限って認めればいいんじゃないか? 獣人の誰かがサポートや案内人になって」
「獣人さんたちは、ヴィランズタウンにやってくる前はどこでどんな生活をしてたにゃ?」
「おう、大将。それは獣人たちの種族にもよるが、だいたいみんなその辺で一日の大半をグダグダ寝ているような生活をしてたな」
獣人には「建築」という発想がなかった。だから、木陰や水辺、岩陰など、その時々に適当な場所で寝起きをしていた。そして、お腹が空いたら狩りに行く。獲物が移動したら、本人も移動する。それだけなのだ。
「ってことで、大将、その辺に寝っ転がればあっという間にモフモフの獣人ライフの完成だぜ!」
「理想と現実は程遠いな……それに転がってもモフモフにはならんだろう」
冷静なツッコミをするサミュエル。
「自然のままという意味ではそれもありかもしれんが、さすがにちと人間のお客さんには厳しいのぉ」
「では、ホテルの代わりにゲルを宿泊施設にしたらいかがでしょうか? わたくし、布系は割と得意分野ですので!」
「さすがはなっちだにゃ! ゲルだったら、自然環境を破壊しないし、景観も壊さないし、獣人さんライフチックな滞在もできるにゃ!」
監督官役の「生物の楽園」メンバーたちは納得の顔つきをしていた。
「それであれば、我々も反対はしません」
「そうですな。ゲルだったら、自然環境の保全と快適性が両立できますね!」
最後の野生動物の生態の安全な観察は、議論が難航した。
街にある動物園のように、動物たちを檻に入れてしまえば安全は確保できるが、野生の生態かといわれるとかなり違う。
「ジャンボイーグルに乗って上から見てもらうのはどうかにゃ?」
「空から観察と言うのは面白いですな。ですが、ぜひとも動物たちの目線で、地上からも観察したい!」
「だったら、地上部隊は暴走ヤクに乗ればいいんじゃねえか?」
「だが、それだと思いがけず強い魔物や野生動物と遭遇した時に困る……危険だ」
確かに……という空気が流れる。
「鋼鉄……いや、ミスリルの盾を持っていけばいいんじゃないか?」
サミュエルは、自分の案は、なかなかの名案だと自画自賛していた。
「盾だと前からの攻撃には備えられるかもしれんが、後ろから襲われたらどうするんぢゃ?」
「では、ミスリルの鎧を……」
「ミュくん、もっと常識的に考えよにゃ?」
「ふむ、ぢゃが、わし、ちいとばかし思いついちゃったかもしれん」
ガンテツが思いついたもの、それは鋼鉄の牛車だった。牛車を率いるヤクたちには、気配を消す薬を飲んでもらう。こうすれば、野生動物たちに気づかれることなく、かなり近くで観察が可能となる。
「いい案だと思うにゃ。だけど、もうひとひねりほしいにゃ。もっと、芸術が爆発したような発想はないのかにゃ」
「そんなもんがあるならば、思いつきそうなのはお前ぐらいなんじゃないのか?」
「にゃんと! ミュくんはそれほどまでにこの天才美少女アンジェラの天才っぷりを愛していたということにゃーーー! アンちゃん、がんばっちゃうにゃーー!」
(全然違うが?)
こうしてアンジェラは考えに考えた末、魔女たちと開発したのが、割れないジャンボシャボン玉だった。
「ヤッべー、まじでこのエリザベス様天才過ぎんだろっ! てめーら、平伏しやがれーー!」
「ヒヒヒッ、私め、ヴィクトリアの功績もお忘れなく……忘れたら呪われますよ、あなた……ヒヒヒッ」
「いやいや、一番の功労者はアイディアを出したこのアンジェラさまだにゃーーー!」
割れない大きなシャボン玉の中に入る。どういう仕掛けになっているのか不明だが、このシャボン玉は外からの刺激では割れないのだ。しかも、フワフワ浮いたり、コロコロ転がったり、自由自在なのだ。それこそ、野生動物のごく近くにも近づける。
「うん、競争入札にしようと思ったけど、もういいにゃ。談合、談合♪」
こうして、中央サバンナエリア『サディスティック・サファリ』は、『生物の楽園』チームが獣人たちと共に管理することになった。




