第5話 まずは寝場所を確保せよ
アンジェラのお宝発見まではこの島を動かない宣言を受けて、二人は寝泊まりする場所と食料を探す必要に迫られることになった。
とりあえず、寝泊まりする場所は、自分やサダムが使用していた部屋がある。数か月前に城を去ったダークエルフのロベスの部屋も、掃除をすれば使えなくはないだろう。ただ、城全体で100以上ある部屋の中からそれを効率よく発見してもらわなければならない。
とりあえず、5階には自分の居室が、そして4階にはロベスやサダムの部屋がある。
「アン、この城にとどまると言うのであれば、まずは寝泊まりできる部屋を探そう。俺の予想なのだが、玉座の間が綺麗だったということは、その周辺の部屋であればそこまで手を入れずとも使えるのではないだろうか?」
「ミュくん、なかなか賢いじゃん。じゃあ、まずは玉座の間に戻ろう!」
(この俺に対して、なかなか賢いってバカにしてんのか、この小娘)
先ほどまで泣きじゃくっていたアンジェラだったが、魔王城での部屋探しにすでに胸を躍らせ、すっかり上機嫌だった。
長い長い階段を、今度はひたすら昇る。
「ひー、やっと戻ってきたー!」
アンジェラは疲れたようで、遠慮なく玉座に腰を下ろした。先ほどあれだけサミュエルに座れと言っていたのに、それを差し置いて一人玉座の上で寛ぐ。
「おっ、さすがは玉座。座り心地いいねー、気に入ったわ、これ!」
ついには椅子に横すわりをして、ひじ掛けに足を乗せて寛ぎだす始末。
「………………」
サミュエルは玉座を軽々しく扱われて、かなり複雑な気分だった。ただ、今はこの小娘が自分の雇い主である。文句は言えない。
「俺は、使えそうな部屋がないか探してくる」
そう言ってサミュエルはアンジェラに背を向けて玉座の間の反対側にある部屋に向かおうとした。この先には、彼が使っていた部屋があるのだ。
「ちょい待って! わたしも行くー!」
アンジェラはさっとサミュエルを追い抜かすと、目の前の扉を開けて、部屋の探索を始めた。
「おお、やっぱり、この階の部屋はまだ全然使えそう!」
バタバタと扉を開くと、ついにベッドルームを見つける。
「おお、このベッドめっちゃ使えるじゃん!」
(それは俺のベッドだ!)
と言いたいが言えない。
アンジェラは遠慮なくベッドにダイブする。
(それは俺のベッドなんだが……)
「わたしの部屋、ここでいいや!」
「そ、そうか、気に入った部屋が見つかってよかったな……」
「いやね、気に入ったって言うか、まあ一応寝られそうだからね。にしても、ちょっと前までこの部屋に住んでいた人ってセンス悪いよね。どうせだったら、魔王城の部屋なんだから、もっとおどろおどろしくすればいいのに」
サミュエルの部屋は実にシンプルだった。ベッドもその辺の宿屋にありそうな白木のものだったし、寝具もただの白い布で模様などはなく、一言で言うと普通だった。凝った壁の装飾に反して、こざっぱりとした安っぽい家具が少し浮いた部屋だった。
言わんとすることはわからなくはない。が、勇者たちに蹴散らされて以来、じり貧だった魔王城ではこれが精一杯だったのだ。
(センスが悪くて悪かったな……)
「俺も自分の部屋を探してくるか……」
サミュエルはそうつぶやくと、一つ下の階へと向かった。さきほどまでサミュエルのベッドでゴロゴロしていたアンジェラもついてくる。
階段を下りた先、すぐの部屋はサダムの部屋だった。ここも数日前まで稼働していたからか、他の部屋と比べて見るからにドアが綺麗だった。いつの間にかサミュエルを追い抜かしていたアンジェラは迷わずこの部屋の戸を開けた。
「おおー! この部屋、なかなかいいじゃん! こっちの部屋のほうが魔王の部屋って感じするー! やっぱ、わたしの部屋ここがいい!」
(ああ、そうするがいいさ。俺は俺の部屋を取り戻す!)
悪魔族のサダムの部屋は、ちゃんと悪魔っぽい部屋だった。黒いカーテンに黒い寝具。棚には魔法薬の調合にでも使うものなのか、見るからに怪しげな素材の詰まった瓶が置かれていた。こだわりのない、質素なサミュエルの部屋とは趣がまるで違っていたのだ。
「好きにしろ……」
「じゃあ、寝る場所が見つかったところで、次は食材の調達だね。さっきここまでくる間に見たんだけど、結構この辺りって密林が多いじゃん。ってことは、結構いい食材が手に入りそう!」
「そうなのか……?」
(密林で得られる食べ物になりそうなもの、アナコンダとかピラニアあたりか? あれは正直なところ、おいしくはないんだよな……まぁ、人間であれば上手く調理できるのかもしれないが……)
「それに、密林は危険ではないか? 大丈夫なのか?」
「まあ、ミュくんがいるから、大丈夫っしょ!」
(なんて能天気な小娘だ……)
「虫には気をつけろよ。あいつらは毒を持っているからな」
「りょうかーい!」
魔王城のある島は、なかなか面白い場所で、一つの島の中に、様々な地形と気候が存在していた。島の東側にあたる魔王城の周辺は密林が多く、動植物が豊富なエリアだった。気候も温暖、といよりも年中熱かった。
その一方で、島の南側には標高の高い山々がそびえ立ち、山頂は万年雪に覆われているほど寒かった。また、島の中でも強力な魔物が生息していて、ドワーフやオーガの居住地があると言われていた。
西には休火山があり、植生の少ない荒涼とした大地が広がっている。100年前はこの火山がまだ噴火していたこともあり、たまに風の流れに乗って城の近くまで火山灰が飛んでくることもあった。死の大地のイメージはこのエリアからきているのだろう。
逆に北側は気候も温暖で、草原と森林が多く、島の中では圧倒的に住み心地の良い場所だ。この島で暮らすのが目的なのであれば、北に住むのがどう考えても正解だろう。だが、祖父たちは、環境よりも侵略しやすさ――つまりは、人が住む大陸に最も近い場所であるか否か、を重視した。
そして魔王城のある高台のお膝元には、魔王軍の兵士たちが住む小さな集落が広がっていたが、今ではここに住むものは皆無だった。
この近くに美味しい食べ物が存在しているというアンジェラの言葉が、サミュエルには到底信じられなかった。




