第48話 エビルアイランド、完全リゾート化プロジェクト――魔王城で悪魔の宴を
闘技場での試合は大盛況だった。
その後は、農業で鍛えたトムチームVS狩猟の達人ハムチームの団体戦、素早さマックスのチーター獣人VSパワーは最強のバッファロー獣人の対決など、好カードが続いた。
魔女たちが作ったパワーアップ薬のデモンストレーション試合も、見ごたえエンタメ性がともに高く、試合自体も薬の販売も好評だった。
こうして成功裏に、闘技場のお披露目が終わったのだった。
これで闘技場の客席が完全に完成したら、この島のパワーアップもついに終わるのだろうかと、サミュエルはどこかで一抹の淋しささえ感じていた。
が、そんなサミュエルの心配は完全に杞憂だったことがすぐにわかる。
ついにアンジェラが、「エビルアイランド、完全リゾート化プロジェクト」なるものを打ち出したのだ。
住民たちのさらなる福祉の充実のため、そしてさらなるお宝――というか大金ゲットのため、大々的に観光客を受け入れるというのだ。
ということで、まずはヴィランズタウンに三つの宿が建設されることになった。
といっても、一つはすでにある魔王城を改装し、その一部を客室にするというものだった。この島では最も高級でプレミアムな五つ星ホテルである。
その名を「グランドデモンズ」という。週末にはホテル滞在者向けのスペシャルイベント「ヴィランズの夜明けを知らぬ夜会」がダンスホールでひらかれた。
これに参加すると、運が良ければこの城の主という設定のサミュエル大魔王様とダンスを踊ることもできるのだ。イケメン大魔王様目当ての女性たちには大人気となった。週末は、すでに一年先まで予約でいっぱいだ。
サミュエルはファイヤーナイフダンスに引き続き、このイベントのために、ワルツの練習までさせられていた。魔王軍幹部のイケメンという設定で、オーガブルーやキツネ獣人のコンコン吉もワルツの練習に参加させられていた。
「アン・ドュ、トロワ……ミュくん、もっと背筋を伸ばして、顔をあげて! もっと鋭い視線で、だけど、情熱的に! 相手を身もだえさせるように!」
背筋を伸ばせ、顔をあげろというのはわかる。が、鋭い視線で情熱的というのはどうにもうまくできない。
「相手がたこ焼きプリンセスだと思って頑張って!」
そう言われると、ダンスの相手をすごく愛せるし、頑張ろうという気がしてくる。サミュエルはどこまでいっても、彼にとっての最初の味、たこ焼きを愛しているのだった。
サミュエルに比べて、オーガブルーとコンコン吉はワルツの習得が早かった。彼らはクールなようでいて、天性のナンパ師なのだ。ワルツは女性をもてなすのに必須のスキルと知って、熱の入れようがまるで変わる。
ブルーのダンスは、流れるような所作が特に美しかった。サミュエルにとってもとてもいいお手本になる。
「ミュの兄貴、そこの足、違う、違う。俺のようにやってみて……こうだから」
「こ、こうか? おっと!」
足がもつれてしまい転びそうになるサミュエルを優しく抱きとめるブルー。
「ミュの兄貴、大丈夫か? 気をつけないと危ないぜ。さ、俺の肩につかまって……」
そして優しくリードしてくれるブルーだった。
(こ、これはマズいな……! ブルーに惚れそうだ……!)
サミュエルは目の前の色男が、たこ焼き伯爵だと思い込もうと必死になった。
「なあ、ミュの兄貴とブルー、なんかいい感じじゃねえか? おいおい、そういうことか、おい!」
(クッ、コンコン吉に見抜かれているぞ、俺!)
ワルツのレッスン中に急なBL展開になりそうな大魔王役のサミュエルだった。
もう一軒は、ヴィランズタウンの街中に建てられた。買い物にも各種施設へのアクセスもよく、遊び方は無限大のエコノミーホテルである。名付けて、「魔塔の宿」。その名の通り、塔を模したホテルなのだ。
このホテルは、値段はエコノミーながらも、きっちりとこの町の雰囲気を満喫できるのが最大の売りである。
現在、島内のホテルでは最大の客室数を誇り、単身の旅行者から大家族まで対応可能だった。
特にテーマ設定がなされたキャラクターコラボルームが人気で、二部屋しかない「大魔王様の閨」にはサミュエルの等身大サイズのぬいぐるみが置かれていた。こちらも数カ月先まで予約が埋まっている。
最初、自分をかたどったらしいぬいぐるみを見せられた時は、サミュエルは複雑な気持ちだった。
(これを、誰か知らない人間が抱いて眠るのか……)
最もぬいぐるみなので、本人よりも随分とかわいらしい顔つきではある。
「ふっ、さすがはミュの兄貴、ぬいぐるみになってもすっげーかわいいな……俺もこれ、自分の部屋に欲しいな」
ブルーにそんなことを言われると、思わず胸が熱くなるサミュエル。女性たちが、顔がよく、甘い言葉をスラスラと紡ぎ出す男が好きな理由がわかる。
「わたしはすでに自分の部屋においてあるもんねー! 毎日寝る前にぶちゅぶちゅしちゃってるもんっ」
「ちなみに、わたくしもです。わたくしのベッドにはすでにミュくんのぬいぐるみが三人おります」
「うっそー、ずるいー! ナオミ、あたしにもつくってちょうだいよぅ!」
ブルーの言葉はスマートで嬉しい。だが、女性陣は……やっていることが度を超えていて、気色の悪い……。この島の幹部は、身も心も男らしい男の方がずっと当たりだと思うサミュエルだった。
そして、最後が郊外のトム農場やハム牧場、サムの釣り堀近くに作ったグランピング施設「大地の三賢人」である。
こちらは先の二カ所とは全く趣が異なり、雄大な自然を満喫しながら過ごす癒しのひと時が売りである。
農場、牧場体験ができるほか、乗馬――といっても乗るのは馬ではなく暴走ヤクになるが――やボートに乗っての釣りまで楽しめる。家族連れや長期滞在者、己の人生を見つめ直すための旅に出た者たちで賑わっていた。
サミュエルもたまに輝かしいスターサミュエルであることに疲れると、ここを訪れることにしているのだ。
広がる緑の草原の上に寝そべり、どこまでも高い空をぼんやりと眺める。
(空は青いなー。青、ブルー……)
唐突に青空にブルーの眩しい笑顔が浮かび上がる。
(いやいやいや、俺、しっかりしろ! 相手は男だ! 少し優しくされたからってよろめくな!)
まだまだ煩悩が多く、己の人生を見つめ直せていないサミュエルだった。




