第47話 闘技場落成――魔王の孫、自らの勝利にたこ焼きラーメンセットを賭ける
ついに建築資材を輸送するためのトロッコが完全開通した。これで、闘技場建設に必要な素材を簡単に輸送できるようになる。いよいよ闘技場の建設に着手するときが来たのだ。
起工式は、島をあげて大々的に行われた。サミュエルたちエクスプロージョン8は、闘技場建設の無事を願って、炎の舞を奉納した。奉納といっても、誰に? と言う気がしないでもないが。
闘技場の建設は急ピッチで進められた。もちろん、労働者たちに過酷な負担を強いることなく、超ホワイトな労働環境は確保された状態で。
十分で質の高い休息と、娯楽施設へのあくなき憧れ、ドワーフたちが作成した優れた建築道具。魔女たちが開発した、パワードリンクのエナドリ。チカラめしのラーメンたちが彼らを後押しした。
そして、着工からわずか一週間ほどで、闘技場の舞台と観客席の一階部分が完成したのだった。
これがこの闘技場の完成形ではないが、建設作業員たちのやる気をさらに上げるためにも、ひとまずここでプレオープンすることが決まった。
ウォーターパークの時もそうだったが、「楽しい、だからもっとほしい」となれば、人々の熱意はさらに燃え上がるのだ。
闘技場のプレオープニングセレモニーの日、この日だけは島中の住人たちは全員仕事を休んで闘技場に駆けつけた。
「レディース&ジェントルマン! エビルアイランドに住むすべての島民の皆さん! お待たせしました! 血で血を洗う、我らが闘技場『デスマッチアッチッチスタジアム』お披露目だよーーん!! 」
司会はお馴染みのアンジェラである。
「栄えある第一試合を飾るのは、我らのデモンズキャッスルが主にして、顔面偏差値80突破の超絶イケメン大魔王、数々の女性、いや男性をも虜にしてやまない悶絶級の大スター、スーパーアイドル――ミュくん!」
闘技場には、サミュエルコールが鳴り響く。
「対するは、天からほとばしる稲妻を思わせる最強の剣闘士ミュくんもうならせる斧の使い手、自称イケメンのオーガ・レッド! われらがエビルアイランドが誇る二大戦士のガチンコ勝負だ!」
対戦相手には、オーガレッドが選ばれたのだ。
ちなみに、この闘技場の名前も当然のことながら公募した。そして、厳正なる島民投票の結果、『デスマッチアッチッチスタジアム』に決定したのだった。
「なんか、兄貴と俺の紹介、随分と落差がないか?」
待機場で司会による両者の紹介を聞いていたレッドがぼそっとつぶやく。
「まあ……細かいことは気にするな!」
「しかも、俺、別にイケメンを自称なんてしてねえし……」
「……うん、まあ、細かいことは気にするな……」
サミュエルは慰めておいた。
「とにかく、ミュの兄貴、兄貴だからと言って手加減はしねえぞ! しかも、今、俺様の手には伝説級の斧、『Oh no!』があるんだ!」
「ああ、もちろん、望むところだ! お前とはいつぞや戦って以来、ずっと本気で手合わせをしたいと思っていたぞ」
「よし、ミュの兄貴、せっかくだから、この勝負に何かを賭けようぜ!」
「ふっ、そのようなことをしてもいいのか? 勝つのは俺だぞ?」
「そうとは限らねえぜ! んじゃ俺は、俺の勝利にコーラ一週間分を賭ける!」
「……そう来たか……ならば俺は、俺の勝利にたこ焼きラーメンセット選べるデザート付きを賭けるぞ!」
二人とも賭けているものが案外しょぼい。
「よし、兄貴言ったからな。男に二言はなしだぞ!」
「レッド、お前もな!」
大歓声に迎えられて、ついに二人の戦士が舞台へと上がった。審判はオオカミ獣人のモフオである。
「チッ、俺も剣闘士としてこの晴れ舞台に立ちたかったぜ! グランドオープンのときは譲らねえぜ!」
「モフオ、その意気だ! 必ず這い上がって来いよ!」
男同士の熱い友情と戦いにかける情熱は相変わらず美しかった。
「両者、前へ! 勝負は一本! いざ、尋常に勝負開始!」
サミュエルは剣を、レッドは斧を構えた。
開始の合図とともに最初にしかけたのは、オーガだ。重い斧とは思えないスピードで、まるで高速で薪割りでもしているかのようにガンガンとサミュエルに攻撃を撃ち込む。
「クッ、さすがだな。これほど重いのに素早い攻撃ができるとは!」
「オラオラ、ミュの兄貴どうした! 防戦一方かー!?」
「だが、甘い! 技は俺の方が上だ!」
サミュエルはレッドの攻撃を、相手の力を利用して跳ね返す。レッドは少し体勢を崩して後退する。
息をのむような両者の攻防に、観客たちは声を出すのも忘れて見入っていたが、これによって一度目の大歓声が起きた。
「そう来なくっちゃな! これで終わりじゃ面白くねえもんな!」
今度は、レッドは上からの攻撃だけでなく、左右の攻撃を交えてサミュエルに打ちかかった。サミュエルはそのすべてを正確な軌道で打ち返す。そして、今度は、相手の隙をみて、積極的な反撃に転じる。
「これでどうだ!」
「うぉ! あっぶねー!」
再び闘技場は観客たちの歓声で沸き上がった。
「さすがだな、ミュの兄貴! だが、俺の実力はこんなもんじゃないぜ!」
「ほう! お前の力、すべてこの俺に見せてみろ!」
「その言葉、後悔するなよ!」
それっぽい様になる問答の後、レッドは再びサミュエルと少し距離を取った。斧を両手で頭上高く振り上げる。
「うおおおおおっ! 燃え上がれええええ!」
レッドの燃えたぎる熱が腕を伝って斧にまで達すると、なんと斧は紅蓮の炎を纏った。
「くらえ! 必殺、爆・裂・炎・斬!!」
レッドが振り下ろした斧からは凄まじい勢いで爆炎が飛んできた。
サミュエルは即座に剣を縦に構えると、刀身に魔力を込める。
「秘儀! 氷結・山・塊・波!」
剣を地面に振り下ろすと、そこには氷の山ができて、飛んできた爆炎とぶつかった。
その隙にサミュエルはレッドの頭上へと飛び上がった。そして、その勢いのまま剣を振り下ろす。
「とりゃあああああああ!」
「うおおおおおおっ!」
レッドは必死にサミュエルの剣を受け止めるがそのまま勢いで場外まで跳ね飛ばされてしまった。
「勝者、サミュエル!」
闘技場からはワッと歓声があがった。サミュエルは声援に応えるように、片手を高々と突き上げた。
「フッ、これでコーラ一週間分は俺のものだな!」
「クッ……次は負けねえぜ……」
そして、己の勝利に酔いしれるのだった。




