第44話 センターは譲らんぞ! 魔王の孫、アイドル街道爆走中
今日はサミュエルたち、エクスプロージョン8のデビューの日だった。
初ステージを前に緊張と期待に胸を弾ませる面々。
「ああ、緊張するだよ。おらなんかがステージに立つなんて!」
「大丈夫だ、みんな。俺たちは今までこの日のために血のにじむような努力をしてきたじゃないか!」
「おう! そうだぜ!」
「ミュのリーダーの言うとおりだ!」
円陣を組む男たち。
「いくぞー! エクスプロージョン8!」
「おおー!」
ステージはプールからもウォータースライダーの列からもよく見える場所に設置されていた。
今日は初ステージということもあって、ステージ前の客席は満席だった。そして、ウォータースライダーはありえないほど空いていた。
「レディース・アーンド・ジェントルマン! 老いも若きも性別も種族も関係ない! 我らがエビルアイランドが誇る、スーパー踊り子軍団、最強のイケメンダンサー率いるエクスプロージョン8の登場だ! 彼らが魅せるマッチョでパッション溢れるパフォーマンスに、身も心骨抜きにされちゃってくれーー!」
司会であるアンジェラのアナウンスの声が響き渡る。ほぼ同時に、太鼓などの楽器が素早いスピードで打ち鳴らされる。
急に噴き出す煙の中から、背後からのスポットライトに照らされた8人の男たちの影が浮かび上がる。
「キャーーー! ミュくーーん、こっち見てーー!」
始まった瞬間からボルテージは最高潮に達していた。
煙が晴れるとはっきりとその姿が見える。上半身裸の屈強な男たちは太くて逞しい腕に炎のついたファイヤーナイフを持って登場した。
男たちはそのナイフを、まるで輪のように巧みに回してみせた。
「キャーーーー!」
「ミュくーーーん! イケメーーーン!」
「ミュさまああ!」
女子たちの、そして女装した男たちの悲鳴が飛んでくる。
赤々と燃え盛る炎に、汗をにじませながら躍動する男たちの美しい筋肉が照らされる。
男も女もなく、そこにいた観客たちは、ただただ情熱的な炎のダンスに沸き立ったのだった。
エクスプロージョン8の初ステージは、大盛況の中で幕を下ろした。
「いいステージだったわ、みんな! あたしのかわいいマッチョたち!」
アロハマハロ先生が手放しでほめてくれる。
(ああ、なんて気持ちがいいのだ!)
熱い炎の感覚が、観客たちの眼差しと声援が、まだ彼の体に残っていた。サミュエルは初舞台の余韻をじっくりと咀嚼していた。
「俺たちの初舞台に乾杯!」
「カンパーイ!」
仕事の後に飲み干すコーラのなんと旨いことか!
一日の仕事を終え、帰宅すべく外にでると、従業員出入り口に人だかりができている。
「ミュくーーん、握手してーー!」
「サインください!」
「こっち見てーー! キャーーー!」
出待ちの女子たちが押し寄せてくる。若干名女装男も混ざっている。
サミュエルは笑顔で彼女たちを出迎えると、要求に応じて、笑顔で握手をし、サインをして回った。
サミュエルは人気者になった気分だった。実際、目の前にはサインを求める人々が行列をなしていた。
今まで、自分にこのような時間があっただろうかと振り返る。祖父が魔王として君臨していたとき、魔王の孫である彼に対しても、多くの魔族たちがかしずいていた。だが、今のように誰かに好かれて、求められてはいなかった。
サミュエルは、今の全てに満足だった。
しかし、ここで満足して止まらないのがアンジェラたちである。
「ミュくん! 君は今はこの島のスターだ!」
「あ、ああ、そうなのかもしれないな。それがどうした?」
「そろそろ次のステージに進んでもいいのではないかい!?」
「次のステージとは? 違う踊りを覚えろってことか?」
「ちがーーーう! そんな小さな当たり前のことではない!」
「じゃあ、何だ?」
「ふふふっ、闘技場デビューだ!」
「おおお! って、闘技場はまだ完成していないんじゃないか?」
そう、サミュエルが躍っている間に、他の労働者たちによる建設は進められていて、長距離トロッコも完成間近であり、ついに闘技場の工事に取り掛かろうというところだった。
「だからこそだ! だからこそ、ミュくんたちエクスプロージョン8には、プロモーションのために地方巡業に出てもらいたいのだよ」
「…………? 言っている言葉が専門的過ぎて俺にはよくわからないんだが、要するに何をするのだ?」
「つまりだ。ミュくんたちには、この島の宣伝を兼ねて、大陸にある町を巡りながら、踊りを披露してもらいたいってこと」
「町巡り!? 町を巡るのか!」
それは、やりたい! ぜひともやりたい! 絶対に、人間の町にはおいしいものがあるのだから。そんなの言われるまでもなく積極的にやりたいとしか思わない。
魔族の王族である矜持はどこへやら、サミュエルは旨い飯のためであれば、自らの芸を売ることさえもまるで厭わない男と化していた。
こうして、エクスプロージョン8は、島での興行部隊と、巡業部隊の二グループに分かれて活動をすることとなった。
人間の町では、ついでに悪魔たちの巣食う魅惑の娯楽島、エビルアイランドへの移住者を募集して回ることになった。
労働者が増えれば、それだけ闘技場も早く完成する。人口が増えれば、島そのものもさらに発展させることができる。これぞ、一石二鳥にも三鳥にもなる巡業だった。
あれ、そういえば、当初の目的だったお宝探しはどこへ行ったのだろうか? この時の島民は誰もが島の発展に熱狂していて、お宝探しの存在を忘れていたのだった。




