第42話 労働争議勃発! 働きたいプロレタリアート VS 休ませたいブルジョアジー
今やエビルアイランドには、トロッコとプールの建設が進んでいた。
人間だけでなく、魔族や亜人たちも、夢中にさせる娯楽だった。
「もっと、楽しみたい!」そんな欲求から、彼らは見事なまでに労働に邁進するのだった。
放っておけば、サミュエルたちは二十四時間ぶっ通しで働こうとした。早くトロッコとプールを完成させるために。
しかし、経営陣はそれを許さない。彼らから仕事を奪い、休息をとることを強要してくるのだ。
「君たちー! その斧を置いて、今日は家に帰って休みなさーい!」
アンジェラがメガホン片手にサミュエルたち労働者に呼び掛ける。
「嫌だ! 俺たちは働くんだ!」
「そうぢゃい! ブルジョワジーらの圧に負けてはならんぞい! 今こそ、我らプロレタリアートの団結力を見せる時ぢゃーー!」
「No、労働、No、ライフ!」
「経営者は俺たちから斧を取り上げるなー!」
「そうだ、今こそ団結し、立ち上がるんだ! プロレタリアートたちよ!」
数の多い労働者の団結力は並ではない。彼らは次々とシュプレヒコールを上げて、労働者の権利を主張した。
「ミュくん! そして、労働者の諸君! 君たちの気持ちはわかる。が、労働はただ時間をかければいいってもんじゃないんだよ! 大事なのは効率なのだよ! 今日のところは大人しく家に帰ってぐっすり休むのだ!」
アンジェラは力の限り説得をした。
「だが、俺は働きたいんだ! 働ける! 働かせてくれ! ウォーターパークのために、トロッコのために!!」
抵抗するブルーカラー労働者サミュエル。
「適度な休息をとることこそが、良質な労働を担保するのです。騙されたと思って、さあ、わたくしの製作したリカバリーウェア『惰眠』をお召しになって、わたくしの開発した枕『バク』で極上の睡眠体験をなさってください。そうすれば、休息の重要性が必ずや理解できるはずです!」
ナオミは労働者のために快適な睡眠体験が約束されるグッズを開発したらしい。
「そうそう、癒しこそ、明日の活力になるんだから! ブラック労働反対! 労働者は休みを取るべし!」
「……なんかアンのくせにすごくまともなことを言っているな……」
「さ、ミュくんたち、あたしがあなたたちのためにカモミールティーを入れたわ。これを飲んでぐっすりおやすみなさい。大丈夫よ、寝ている間にベッドに忍び込んだりしないから。うふっ」
今日のところは労働者側の敗北である。
アンジェラ、ナオミ、ジョセフィーヌに促されて、サミュエルはしぶしぶ眠りについた。ほかの労働者たちもそれぞれの部屋へと戻っていった。
サミュエルは、ベッドに身を横たえると、すぐに身体がポカポカしてきた。心地よいまどろみのひと時が訪れる。
気が付いたらサミュエルは巨大なたこ焼きの上にいた。このたこ焼き、寝っ転がってみると何ともフワフワなのだ。
たこ焼きの上でポンポン弾んでいると、急に地面が傾き、急な坂になる。そこをたこ焼きがゴロゴロと転がり落ちるのだ。気が付いたら、巨大なたこ焼きは、たこ焼きカーと化していて、坂を下ったり上ったり、カーブを曲がったり……。
「あははははっ、たこ焼きトロッコだー! 楽しすぎるぞー! わーいわーい!」
サミュエルは童心に返ってたこ焼きトロッコを楽しんだ。
たこ焼きトロッコはついに長い坂を登りきる。
その先には、ウォータースライダーが待ち受けている! しかも、長い! クネクネしている!! これは絶対に楽しいヤツだ!
たこ焼きトロッコは姿を変えて、ドーナツ型たこ焼き浮き輪と化す。
そして、勢いよくスライダーを滑り落ちた。
「うおおおおっっ!」
水しぶきがあがり、サミュエルはプールに飛び込んだ。
そのままたこ焼き浮き輪は流れるプールへと吸い込まれた。プカプカと水に揺られるサミュエル。
「ああ、極上の一時だ……」
こうしてサミュエルは幸福に包まれながら、夢の世界を漂い続けた。
翌朝、サミュエルは暖かな陽の光で目を覚ました。
「なんだ、夢……だったのか」
それにしても、今日の目覚めのスッキリ感が半端ない。体もいつも以上に軽い。なんだか肌までウルウルのプルプルな気がする。
「これが、睡眠の力なのか……!」
着替えて朝食をとるために食堂に向かう。労働者仲間が溢れかえっている食堂だ。ここのところ、どこか疲れた顔で目を血走らせた労働者たちが多かった。昨夜はアンジェラたちの提案で、彼らも早く寝かされたのだった。
だからだろうか。
皆の表情が生き生きとしているのだ!
「俺は斧で、こんなにでっけー木を一発で真っ二つにする夢をみたぜ。くー、気分良かったなー!」
「俺は100mを三秒で走り抜ける夢だったわー。しかも、全然疲れねぇの。あー、マジで爽快だったわ!」
「わしなんて、こーんな大きな岩をガンガン持ち上げちゃう夢ぢゃったもんね! ほんでもって、あっという間に闘技場が完成するのぢゃよ!」
「儂も鉱山でオリハルコンを大量に掘り当てたぞい! あれだけあれば、島中の武器をオリハルコン製にできるんじゃが」
さらに。彼らの今日の仕事量は、こちらも凄まじかった。パフォーマンスが普段の三倍、いや、五倍に向上していたに違いない。
しっかりと休息をとったおかげで、仕事の効率が上がり、二十四時間かけてする仕事が、三分の一以下の時間で終わったのだ。
こうして、住人たちは身をもって休息の大切さを知ることができたのだ。
尊い労働によって気持ちの良い汗を流し、モノを作り上げていく。
夜は美味しくて栄養たっぷりの食事を取り、しっかりと寝る。なんだったら、心地よい夢付きで。
そして、すがすがしい朝を再び迎え、また一日汗を流す……。
そんな素晴らしすぎるサイクルが出来上がりつつあった。
ということで、エビルアイランドの労働時間は一日八時間以内、週休二日が標準となった。
エビルアイランド、その名の意味とは真逆の印象の超ホワイトな労働環境の島となったのだ。
そして、労働者たちの超効率的な仕事によって、大人用のプールとウォータースライダーが完成した。
ついに、その日がやって来た。労働者たちの汗と情熱の結晶、ウォーターパークのグランドオープンである。




