第41話 ウォーターパーク「血の池地獄」――イケメン魔王の孫、プールサイドの花となる
その日の夜、サミュエルは仲間たちと共に、レストラン「荒くれミート亭」でワイワイ、ガヤガヤと賑やかに食事をしていた。
そこにガンテツとドワーフの設計士であるビルドンにアンジェラの三人がやってくる。
「はーい、ヴィランズちゅうもーく! これから重大な発表がありまーす」
なんだなんだとその場にいた肉体労働者たちはアンジェラたちの方を向いた。
「お前たち、ミュくんの腹筋を見たいかー!」
「お、おおー!」
アンジェラの呼びかけに大盛り上がりになる肉体労働者たち。
(一体何の話だろうか? なぜに俺の腹筋が話題の中心に……?)
「では、そんな君たちの熱い、熱すぎるご要望にお応えして、我々はこれからウォーターパークを作ることになった! これがその設計図と完成予想図だ! 目ん玉かっぽじってよく見やがれ!」
「な、な、なんじゃこりゃ!!」
「すげーーー!」
「これがアンの大将がお考えになった水浴び池の全貌なのだすね!」
エビルアイランドのウォーターパーク、名付けて「ブルー・ブラッディ・ポンド・ヘル」は、大小のプールにウォータースライダーからジャグジー、流れるプールまで完備されたものだった。
「ま、とりあえず、まずは子どもの用のちびっ子プールから建設するってことで」
「ふむ。このちびっ子プールぢゃったら、そう時間もかからずに作れるぢゃろうから」
「なるほど! そのめちゃくちゃ楽し気なちびっ子プールで我々肉体労働者の身も心も魅了し、さらに過酷な労働にまい進させるつもりだな!」
「ひひひっ、ミュくん、よくお分かりではないか!」
「ふんっ、舐めるなよ、アン! 今、俺は働きたい気分なのだ! 働いて、働いて、働いて、遊ぶ! やってやろうではないか!」
「おお! ミュの兄貴! さすがだ! 俺も働くぜ!」
「労働だったら、俺たちに任せろ! 筋肉がなるぜ!」
ここには、労働の喜びに取りつかれた者しかいなかった。
こうして労働に魅了されたマッチョたちによって、トロッコのレールの敷設も瞬く間に進んでいくとともに、プール作りも始められた。
プールは闘技場の建設予定地のすぐ近くに作られることになった。
土地を掘削し、地固めを行い、給水と排水のための水路や水質浄化施設も作る。そして、子ども用のプールにはアクアマリン色のタイルを敷き詰める。
一番の目玉は、何といってもスライダーだ。もっとも子ども用だから、わずか数メートルの小型のものではあった。それから、プール内には噴水も配置した。
子ども用プールの周りには、日よけになるようにヤシの木を何本か植え、ガゼボも設置する。
まだ、小規模ながらも、ウォーターパークの名に相応しい雰囲気が醸し出されていた。
それに合わせて、街ではナオミによる各種水着の販売も始まっていた。
「水着を一着買いたいのだが……」
「はい、こちらがミュくん専用の水着でございます。ミュくん、特別価格で1ミュになります」
「……随分と安いな……」
安いのは有難いが、なぜか一般のものよりも面積が小さい気がする。
「俺としてはそっちのほうがいいのだが……」
「こちらは一般用で、残念ながらミュくんには販売されないことになっております」
なぜ、自分には一般用が購入不可なのかよくわからなかったが、サミュエルは諦めて専用のものを購入するのだった。
さらには、水難事故防止のために、マーガレットが「ダサイうぉーター」の商品名で魚のように泳げるようになるサイダーを製造した。
これを飲んだ後は、水中でも普通に呼吸ができるし、魚のように泳ぎが上手になるのだ。泳ぐことが得意でない者や、水に慣れていない者でも水遊びを存分に楽しむことができる。
当然、このダサイうぉーターはおいしい! 泳がないときでも飲みたくなるぐらいにおいしいのだ。
そんなこんなで、あっという間に子ども用プールが完成し、初日は子どもたちがダサイうぉーターを飲みながら、大いに水遊びを楽しんだのだった。
翌日からは、抽選を行い、順番でプールを楽しんだ。厳選な抽選だったので、サミュエルがプールに入れたのは三日目の午後だった。
ナオミ作成のサミュエル特製水着を身に纏い、プールへと向かう。今日はなぜかプールサイドに妙にお客が多い気がするが、プールが楽しみすぎてそのような些細なことを気にしている場合ではない。
サミュエルがプールサイドに登場する。
「キャーーーー! ミュさまあああ!」
「見て見て見て! ミュさまのお身体を!」
「いやーーん、あの腹筋! すばらしすぎるわーーー!」
女性たちの賑やかな歓声が飛んでくる。外野が騒がしいが、気にしないことにする。なんせ、今日は初プールなのだから。
子ども用プールは縁に近いエリアは足首ほどの深さしかない。が、徐々に深くなっていくものの、せいぜいサミュエルの膝上程度の水深しかない。
それでも陽の光を浴びてキラメク清潔な水に体をつけているだけでも何とも言えない気分だった。
(このプールは血の池地獄という名前だが、ここはまさに極楽そのものだ!)
よし、次はあのスライダーに挑戦だ!
サミュエルは大きな体で短い階段の順番待ちの列に並ぶ。子ども用のスライダーに大人がズラリと列を作っている様子はかなりシュールだった。
サミュエルの番がきた。前の大人たちがしていたように、入り口付近に座ると勢いよく水流に乗って滑り降りる。
バシャンッ!
一瞬のスリルと共に、秒で水に飛び込んでしまった。
が、風を切る感じといい、人知の及ばない力に押し流される感覚といい、これは、トロッコと同じように楽しい!
これは、大人が競って列に並ぶわけだ! もう少し長く、このスリルを味わうことができたならば! これは、大人用の本格スライダーの建設を急がねばと心に誓う。
「ひゃっほーーー!」
「いいぇええーーい!」
ほかの大人たちも随分と楽しそうだ。
(わかる、わかるぞ、その気持ち!)
サミュエルも声を上げて滑りたくなる。
「あはははははっ!」
笑い声を上げながら滑ってみる。楽しい! なぜだろうか、声を出すと、もっと楽しいのだ!
少し疲れたときには、プールサイドで休憩をすることもできる。プールサイドには、サミュエルの大好物のたこ焼きの支店、コーラなどのジュースバーも店を並べているのだ。便利すぎるだろう!
サミュエルはたこ焼きとコーラを片手にサンラウンジャーに腰掛け、至福のひと時を満喫した。
数か月前までは考えられなかったラグジュアリーな時間である。
「ぐへへへっ、ミュくんの腹筋、最高! ぐへへへっ」
いつの間にか隣に座っていたアンジェラがよだれを垂らしながらこちらを見ているが、そんなことさえまるで気にならないほど、今、サミュエルは幸福そのものだった。




